岩手の山間部の小さな町。昔話がたくさん伝わる町にも沿岸部で被災した人が暮らす仮設住宅がある。
東北というと行き深いイメージがあるが、沿岸部はほとんど雪が積もらない。しかし車で30分も山の方に入ると豪雪地帯だったりする。この仮設住宅もそう。これまでの人生の中で深い雪に馴れていない人たちが協力し合って暮らしている。
その仮設住宅の駐車場の一角に雪置き場があって、暖かい晴の日が1週間も続いても、そこだけは雪の塊が残っていたのだが、先日ついに雪が消え、積雪ゼロになった。
朝日を浴びるその一隅に目を凝らすと、まだ雪が融けたばかりなのにもうオオイヌノフグリが可憐な花を咲かせていた。
春は冬のうちからすでに準備をしている。雪が消えたらすぐに春を告げようと準備をしている。
この仮設住宅に暮らす人たちにとっての春がいつなのかは分からない。もうすぐかもしれないし、まだまだ先かもしれない。ひとりひとりそれぞれだろう。
それでも春は、寒い冬のうちから準備をしている。深い雪の下でも準備をしている。そう信じさせてくれる花だった。