3月末に開催された手芸の展覧会で、展示場所を少しだけ借りて、三島の仲間からお預かりしたクラフト作品を飾らせてもらった。
「静岡県三島市の佐野比呂子さんが作ったアイデア小銭入れです。平行四辺形に切った革をスナップで止めて三角形にしています。小銭入れにもいいし、お出掛けするときの薬入れにもいいですよ〜」
そんな説明をしていたら、展覧会にコーヒーショップ「コーヒー日和」を特別開店していたマスターがやってきて、アイデア満載の小銭入れにじっと見入っていた。
「マスター、これ気に入ってくれたのなら差し上げます。どれかひとつ選んで下さい」
そうなの?と、マスターはどれにしようかと悩んでいる様子。そもそも展覧会場に置かせてもらったのは、東北への思いが込められた小銭入れを誰かにプレゼントしたいという考えだから、最高の相手が見つかったわけだ。
「なるほど!」なアイデアで作られた小銭入れだから話題性がある。おしゃべりにも花が咲く。手のひらに収まるくらい小さな小銭入れが、ひととひとをつなぐアイテムになる。佐野さんはそこまで考えた上でわたしにこの作品を託してくれたのだと思う。この小銭入れが「生きる」場所、「生かしてくれる」人を見つけてほしいと。
マスターはじっくり時間をかけて小銭入れを選んだ上で、「2個じゃだめなのかな」と言った。その時は出来るだけ多くの人にもらってもらいたいと思っていたのだが、2個ならいいかなと2つ差し上げた。
マスターがどうして2個と言ったのか理解できたのは、しばらく時間が経ってからだった。マスターは小銭入れを1つに決めるのに悩んでいたのではなくて、誰かにプレゼントしようと、よろこんでもらえそうな色やデザインをじっくり考えて選んでいたのだ。
そうと気づいて後日マスターに追加で2個プレゼントすると、「おぉ、ありがとうね」とよろこんでくれた。思ったとおりだと感じた。
「たとえば電話一本でも、通じ合えるひとがたくさんいるような町になるといいからな」。マスターはそう言う。そんな思いで陸前高田の町を走り回っている人だ。静岡県三島市の佐野さんから託された小銭入れは、マスターの手でたくさんのつながりを深めていくアイテムになることだろう。
物はいのちを持たないけれど、生かすことができればただの物体ではなくなる。きっと佐野さんはそう言ってよろこんでくれることだろう。