最初の印象、びっくりした!
ぎょっとしたとか、いろんな印象を言葉として思う前に、とっさに一歩後ろに飛び退いたと白状すべきか。
なにせ、雪の中に大きな龍のような物体がのたうっていたのだから。
頭を川沿いの薮に突っ込んで、龍は雪の上に横たわっていた。
「千と千尋の神隠し」の千でなくても「ハク、どうしたの、大丈夫」と駆け寄りたくなるようなその姿。紛れもなく、雪の日の龍だった。
近づいて見ると、まるで龍のウロコのように見えるのは、草の網目。まるで誰かが作ったかのような繊細な、そうそれこそ「千と千尋の神隠し」のハクの性格を思わせるくらい、細やかで手の込んだ草の網目。しかもその網目はとてもエアリーで、熟練の編み物師が手編みで丹念に編み上げたように見える素晴らしいものだった。
白い雪の上に横たわっているのが龍ではないと分かると、いったい誰がと思ってしまう。ここは国道沿い。近くにはほとんど民家もない。子どもたちが遊びで作ったものものだなんてことはあり得ない。
見た目はまるで正月の注連縄のようではあるが、ふわっとゆるい網目は注連飾りの編み方でもない。その上にだ、薮に頭を突っ込んでいるように見えた龍の頭部は、実際に藪の中の地面とつながっていたのだ。根を生やしたままで編み上げられた龍。子どもであれ大人たちであれ熟練の編み物師であれ、だれかが何かの目的で作ったものでないことは明らかだった。
龍が頭を突っ込んでいる笹薮を見ると、笹を覆うように細い蔓草がかぶさっていて、それらが風にあおられて固まって落っこちたり、笹薮を引っ張ったりしている。
龍は川筋を流れる強い風に煽られる中で、自然に編まれたようにくるくると巻かれていって、この絶妙なフォルムを得ることになったのだ。そう想像するほかなかった。
それにしても見事な龍だ。
これまでずいぶん長く生きてきたし、登山や野歩きなどで自然に親しんできたものと自負していたが、自然が作り上げた龍なんて見たことがない。
そんなこともあり得るだろうと理屈では分かる。だけど、風が編んだとしか思えない長い龍、4、5メートルもありそうな草の龍を目にしたのは初めてだ。「WILDLIFE in TOHOKU」なんて記事を書いていることが恥ずかしくなる。
自然の力は人知を遥かに越えている。時として想像を絶する巨大津波で人々をかなしみの淵の底まで引き入れてしまうこともあれば、ある晴れた冬の日に、天然の精緻としかいいようのない美しい造形を見せてくれることもある。
雪に寝そべる冬の龍は、にんげんに「驕るべからず」と伝えているのかもしれない。
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