楢葉町の誇りだった場所

去年の夏(2015年)、福島県出身で東京電力福島第二原発に勤務していたという人に浜通(福島県の沿岸地方)を案内してもらったことがあった。その時彼が残念そうに語った場所を1年ぶりに訪ねてみた。

その場所は、国道6号線沿いにある、正確には「あった」、道の駅ならは。

国道6号線を北から走って行くとこんな標識に出会うことになる。

道の駅は現在休館中です
↑2km 現在 双葉警察署臨時庁舎です

引用元:道の駅ならはの標識に追加された標識

福島県出身の知人がこの場所のことを、残念そうに語ったのは、かつて道の駅ならはは温泉施設を併設した、浜通でも自慢の施設だったから。

臨時警察署となり、道の駅としての営業は休止しているが、道の駅ならはに入ることはできる。トイレだって使うことができる。しかし、その場所は、かつて浜通の人たちに親しまれていた温泉施設付きの道の駅ではなくなっている。

「道の駅」は、地域の創意工夫により道路利用者に快適な休憩と多様で質の高いサービスを提供する施設です。

引用元:道の駅ならはの設置案内表示

地域の創意工夫。それが道の駅ならはの場合、温泉だったということなのだろう。しかし現在は、双葉警察署の臨時庁舎としてトイレ以外のほとんどのスペースが占用され、かつてのように温泉を楽しむことはできなくなっている。

温泉どころじゃない、という状況を示していると理解してもいいだろう。

警察は地域にとって温泉よりずっと重要なものなのだからと考えてもいいだろう。

ただ、警察署が「臨時」であるからには、いつの日かまたこの場所が、地域の人たちにとって自慢の「温泉のある道の駅」として復活してほしいと望むことだって可能だろう。

警察署として使われている道の駅の施設には、いまでも煙突のようなものが聳えている。この場所がかつて温泉施設だった証を誇示するように。

「原子力施設等立地地域長期発展対策交付金施設」。道の駅ならはは漢字が12文字も並ぶ、字義を一口に呑み込めないくらい小難しい施設でもある。しかしこの場所が、「温泉もある道の駅」として地域の人たちの誇りであったことも事実なのだ。

(もしかして、警察署の人たちがいまでもこの温泉を楽しんでくれているのであれば、それはそれとしてとても良いことだと思う)

駐車場に設置された線量計の示す数値は「0.077」。昨年来た時と比べて半減していた。数値そのものについての云々は抜きにしても、近くには廃炉に向けての基地であるJヴィレッジや、いつも多くの作業員でほぼ満員状態のホテルもあるような場所柄だから、人間の生活には支障ないということなのかもしれない。

問題は、それでもいまもなおこの土地で暮らす人が、かつてのほどではないということだろう。人々が集う場所であるはずの道の駅が行政機関の臨時庁舎として使われ続けている事実が、現実を如実に物語る。

福島県の浜通では見飽きてしまうほどのドイツ製高級車。トイレしか利用できない道の駅の駐車場にとめられた高級車と、かつては施設の存在を誇示していたであろうガラス張りの高楼に、一文字ずつプリンターで印字されて貼り出された「双葉警察署臨時庁舎」の文字。

忘れることのできない、いやいまもまだ現在進行形である状況を考えると、忘れることなどありえない現実がここにある。

楢葉町役場前に掲げられた「エネルギー福祉都市」の表示ほど分かりやすくはないかもしれないが、「道の駅ならは」、いまは「双葉警察署臨時庁舎」である場所もまた、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が発生から6年近くも経った現状、そして現実を如実に物語っている。

施設や看板は時の行政の意向で簡単に消去されかねない。たとえば双葉町の「明るい未来の」看板のように。しかし、行政が自ら使用している場所は簡単には消しようがない。その意味で、道の駅ならはの現実は、まがうことなき震災遺構、原発事故遺構と言うべきだろう。

「エネルギー福祉都市」。温泉付きの道の駅。

かつて、地元の人たちにとって自慢の施設だったという辛さを含めて、この施設の現状を見つめたい。