【シリーズ・この人に聞く!第101回】米国で活躍する日本人コミック・アーティスト ミサコ・ロックスさん

華奢な体から出るエネルギー。NYでただ一人の日本人漫画家として活躍する彼女は、半端でない努力家。波乱万丈ありつつの、海外で生き抜くためには何が必要?英語力?営業力?はたまた…。グローバルな時代を一歩先行く情熱仕事人に目標を達成するための極意を聞いてみました。

ミサコ・ロックス

本名:高嶋美沙子 コミック・アーティスト NY在住。
法政大学在学中に奨学金派遣留学で渡米。卒業後単身アメリカに渡り人形師、中学校の美術講師などを経て漫画家に転身。著書“Rock and Roll Love”がNY公立図書館ベスト・ティーンズ・ブックの1冊に選ばれる。雑誌“DFC”の連載作品Peach de Punch!がアジア向けの英語教科書に採用。明治書院から『こども英語塾』、メディカ出版の雑誌26誌にてナース漫画を連載と日本でも活動を始める。NHK、BBCのテレビドキュメンタリーに出演後、雑誌日経ウーマンのウーマン・オブ・ザ・イヤーの1人に選ばれる。全米各地で講演会やワークショップにも力を注ぎ、世界で活躍を広げる。初の大人女子向けのコミック・エッセイ『もうガイジンにしました』(ディスカヴァー21)を2013年に発売、好評を博す。

高く掲げた目標に猪突猛進のミサゴジラ!

――アメリカで唯一のジャパニーズ・コミック・アーティストとして活躍中です。今日はどうやってご自身の道を切り拓いて来られたかじっくりお聞かせください。アメリカに憧れたきっかけがマイケル・J・フォックスだったとか。

ハリウッド映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観て彼に初恋をしたのが11歳。マイケルの彼女になりたい!ただその一心で猛烈に英語を勉強するようになりました。何百回と彼の映画を観て、わざわざテレビ画面の字幕を隠して鑑賞するうちに、独学でリスニングが鍛えられました。当時1学年360人位いるマンモス中学校で成績は300番台…と後ろから数えたほうが早かったのですが、頭のいい友達に勉強法を教えてもらい、猛然と勉強を始めたらあっという間に学年20位に。そしていろいろ調べて日本の大学で奨学金をもらって留学派遣制度のある学校を探したら、法政大学があった。その法政大学へ指定校推薦のある高校をわざわざ選びました。もっと成績上位の高校へ行けると言われましたが、私は譲らなかった。そして高校時代は3年間ほぼ常に学年1位をキープして念願の法政大学へ進学しました。

小学生高学年の頃は「ミサゴジラ」と呼ばれ、男子を泣かせ怖れられていた?!

――意思が強い!マイケル・J・フォックスが火を付けたとはいえ、思いこんだら何とやら…ですごいエネルギー!10代から常に目標があったわけですね。

勝ち気で負けず嫌い。好きになると、とことんまっすぐ。もし失敗したらとか、ダメになった場合の代替案は…とか一切考えません。成功して自分がやり抜いたイメージだけ思い描いて、「私はできる!」とずっと自分自身のマインドコントロールをしてきました。高校時代は学校ではいい子の仮面を被って、気の強い部分をさらけ出すのは土日だけ。大学進学してからは素の自分で弾けていましたが、教員免許取得のため出身高に教育実習へ行ったら先生方全員に「高島って…こういう子だったっけ?」とビックリされました。「そうですよ。指定校推薦がほしくて猫被っていたんです!」と答えたら「ずる賢かったんだね~!」と(笑)。

――勉強は目標達成のための手段とはいえ、努力するのが苦にならないのですね。小学生時代、習い事は何かされていましたか?

母から「勉強しなさい」と言われたことがない。むしろ勉強し過ぎで心配されたくらいです。「もうそのくらいにしておけば?」と言われても「まだまだ!」と勉強していましたから。習い事は好きなこと嫌なことがハッキリしていて、エレクトーンは幼稚園年長さん頃から高3まで10年以上続けていた一方で、運動面はサッパリ。親に行かされたスイミングスクールは頑として泳がずにプールサイドで座りっぱなしで動かずの半年間。
その他は、個人のお宅でやっている英語教室が近所にあって、そこへ通い英語がさらに好きになりました。アメリカ帰りの先生は発音の良さが素晴らしかった。学校では受験英語を教えるので全然違う世界。数学も個人の先生宅へ通って、教科書に基づいた復習メイン、予習少しで教えてもらっていました。畳とおまんじゅうの香りのするお家、今でも覚えています(笑)。大手受験塾は通ったことがなく、個人の先生に英語と数学だけ習っていました。

――ご近所で習うと経済的にも親は助かりますよね。ミサコさんのそのキャラクターはいつ頃芽生えたのでしょう?

実は、小4時代にふとしたことがきっかけで女子のグループからハブられてしまってイジメを受けていたことが…そのおかげで強くなりました。家族に知られないようにふるまっていましたが、やがて父に知られ、いじめる相手が何かしてきたら「笑え。とにかく大声で笑え!」というんです。どうして?と思ったけれど、ある時本当にそれを実践することに……狂ったように「ワハハハハ!」と笑ったら、子どもながらに皆ビックリしたようです。だって突然笑い飛ばしたら気味が悪いでしょ?(笑)その日を境にイジメはなくなりました。5年生になるとクラス替えもあっていじめグループとは離れ、それからは気の強い女に変身し、正義感が強くて男子も泣かせて『ミサゴジラ』と呼ばれるようになりました。

「アメリカ市民より10倍がんばる!」が信条。

――ここから渡米後のお話を。留学先はものすごい田舎で日本人がいなかったとか?

ミズーリ州というアメリカの超ド田舎で、アジア人すらみかけず、日本人はただ一人。言葉もわからず誰も頼る人がいなかったので、とにかく目立つために赤、緑、オレンジ…と髪の色を2週間おきに変えていました。自分しか頼るものがないからとにかく必死。3ヵ月経ったらマイケル・J・フォックスと英語で会話している夢をみて、起きてから思わずガッツポーズしましたよ。友達もたくさんできました。

留学時代。日本人がたった一人の環境で覚えてもらうため髪の毛をいろんな色に染めた。

――留学から帰国後、やっぱりアメリカに戻って仕事をしようと思われた経緯とは?

留学を終えて、就職活動をしましたが英語ができるからと言って勘違いする帰国子女ってたくさんいます。就職セミナーへ行って、自分はこの大勢の中の一人なんだと思ったら「私は日本で終わる人間じゃない」と気づいた。海外で絶対この仕事がやりたい、というのはその時ありませんでしたが、たまたま観た劇団四季の「ライオンキング」で人形の素晴らしさに感動して「アートをやりたい」と思って即行動を起こしました。インターンシップとして海外へ行こう!と。日本から電話をかけまくりましたが「ライオンキング」の劇団には入れませんでした。結局マンハッタンの小さな人形劇団にインターンとして入れてもらいましたが人形師にはなれず、一時はホームレスになってゴミ箱から食べ物を漁り、公園で寝泊まりする体験もしました。

『アメリカ人の10倍がんばる』がモットーのミサコ、漫画家デビュー当時。

――行動しながらチャンスを掴む力がすごいですね。自伝漫画によると、その後もNYでいろいろな出会いが…ミュージシャンの彼と熱愛の末、結婚。その後、離婚…。

一目ぼれしたミュージシャンと結婚したものの破局。その上、信じられないことですがグリーンカード申請中に移民局から「書類が見つからないから再度申請し直せ」という手紙が届きました。おまけに離婚弁護士費用に数百万も掛かり、うつや生理不順、胃潰瘍になるなど健康状態は最悪。離婚成立するまで3年くらい掛かりました。アメリカは日本より離婚手続きに時間が掛かるのです。

――大変でしたね。いつも頑張っている分、落ち込むとどうやって這い上がるのですか?

私の信条は「アメリカ市民の10倍がんばる」です。やりたいことがあるから1分たりとも無駄にできないし、毎日をボケッと過ごしていたらもったいない。昔から私は昼寝するのも嫌いな子でした。だって寝ている間に見過ごしていることがあったらもったいないでしょう?毎日をスペシャルに充実させたい。でも、空想が膨らみ過ぎて、ダメだとすごく落ち込んで、目が腫れあがるまで泣いて落ちるところまで落ち込みます。そうやって前へ進むしかない。恋人のクリリンに「仕事のことばかり考えちゃうからまったく違う趣味をもつべきだ」と諭されました。そのおかげでオン・オフの切り替えができるようになった。仕事から離れてオフは今、大好きなバスケットボールをNBA応援団としてウォッチしています。

親に求めたいのは、干渉せずに子を見守る姿勢。

――エネルギッッシュなミサコさんが育ったのは、ご両親の存在が大きいのでは?

うちの両親は公務員でした。既に二人とも定年退職しましたが、母はまだOGとして働いています。うちの家庭はお金持ちではないけれど貧しくもなかった。アメリカは貧富の差が激しくて中間層がない。極端にいえばとても教育熱心か、生活に追われているかのどちらか。そういう中で恋人のクリリンの両親も、私も家庭環境は「宝くじ一等賞に当たったみたいにラッキーだねっ!」といつも言います。両親が仲良く愛し合っている、経済的にしっかりしている、子どものやりたいことの背中を押してもらえる…など、学生時代はわかりませんでしたが、今となってはすべてがありがたいです。

指定校推薦で大学へ行って留学する!と決め、学業は常に学年1位をキープ。

――公務員という堅い職業のご両親から、クリエーティブなミサコパワーが誕生するというギャップがおもしろいですよね。この夏8月には新しい本が出ます。これはどんな内容になりそうですか?

目標は高く!ということをメインテーマとした大人の女性向けの自己啓発本になります。今度は漫画が少しでしっかり読める構成です。アメリカもティーンの子は本を買わなくなっています。飛びつきも早く、流行も知っているのでリサーチを掛けるにはいいのですが親がお金を管理しているし、彼らだけがターゲットだとビジネスにならない。私はメンターとして慕っているお姉さんがいて、その人から「20代半ばくらいの日本女子で自分が何をしたいかがわからない。海外には興味がある。これからの人生どうしよう…という女性に向けて、まずブログで発信すべきだ」とアドバイスを頂きました。

中学生でマイケル・J・フォックスに初恋。猛然と勉強をして成績上位になった。

――なるほど。子ども対象の本と同時並行で、ぜひやってほしいです。将来、自分の子どもが産まれたらどんなお母さんになっていそうですか?

う~ん。私もクリエーターとして仕事をしていますし、恋人のクリリンもクリエーターとしてフォトリタッチャー(モデルの皺やシミを消してキレイにする写真加工の専門職)という仕事に就いています。そんな二人の間に子どもが産まれても養えなかったらどうしよう…と負の要素ばかり考えてしまいます。何しろ私たち高校生みたいで、いつまでもこうだったらいいな~という感じです。時がきたら、またその時に考えます。

――なんでもポジティブなミサコさんのDNAを後世に残してほしいです!では最後にミサコさんから、子育て中の同世代に伝えたいことをお願いします。

親の愛を知っていれば子どもは育つものだと思います。導けるのは産んだ親。一生懸命さが仇になって内向きになる。間違いだって侵さないと、自分でいろんなことを気づかないと思うんです。子どもの力を信じて、あまり干渉せずに見守ることが大事なんではないかな。

編集後記

――ありがとうございました!ミサコさんの作品は日本で人気のある漫画の翻訳版でなく、英語でセリフを言うオリジナルな少女漫画。登場人物もほとんどアメリカ人。しっかりした取材と観察力、そして持ち前のバイタリティーでガシガシと新たな境地を切り拓いていく姿は素晴らしく、話しているだけでパワーが上がりました。どこにいても一歩前に出るため頭を使って考えるアナログな姿勢こそ、これからの日本人が身につけないといけない力。最初から英語がうまくしゃべれなくても、まずはその行動力が大切ですよね。これからのご活躍を楽しみに、そして漫画以外の作品も楽しみにしています。

取材・文/マザール あべみちこ

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