【シリーズ・この人に聞く!第70回】社会問題に鋭く切りこむ医療ジャーナリスト・写真家 伊藤隼也さん

――うちも紙パン履いている小さな頃から山へ連れて登っていたので、そういう原始体験は理屈ではなくて絶対必要だと感じます。でも親に体力気力、あとほんのちょっと知識がないと、なかなかそれができないものかもしれませんね。

うちは長男が2歳半から6歳頃まで、週末は田舎へ移動して畑を耕していました。僕が取り組む医療問題のなかで「へき地医療」があって、都会と比べて医療体制が異なるのですが実体験がないと全然問題の本質が見えてこない。それで長野県の山奥に家を借りて、ある意味で不自由をわざわざ経験しに週末に通っていました。ちょっと発想の転換をすれば、こういう暮らしから得る知識や経験は重要だし、息子の成長や自分の仕事にも大いに参考になる部分があります。さらに、大自然の中での暮らしは、大災害などの時にも知恵になる。万一、東京が住めなくなった場合の移住先を考える意味でも有効です。リスクマネージメントは、それを楽しむようなセンスも大事だと思う。

――3.11以降はアウトドアを楽しむというよりも、目の前のリスクをどう対処して楽しみを見出せるか?ですね。スキーが上手な息子さんの成長が楽しみですね。

長男は小5ですが、夏休みの自由研究に「東北道の放射線測定と津波被災地の実態」の二つに取り組みました。僕が被災地へボランティアのため何度も行っているので、そこでの経験を子どもにも写真を見せたりして話すようにしているんです。そうしたら被災地を自分の眼で見てみたいと言い出して…。秋田に親戚がおり夏休みに東北に出かける事にしました。東北道をずっと車で上っていく時にガイガーカウンターでモニタリングしながら適宜数値をメモしていました。将来どうなるかわからないけれど、子どもをやる気にさせるのが大事かな。最も重要なのは子どもを守るというのは単純に安全を確保するだけでなく、危険なことをしっかり理解、認知させて子ども自身に考えさせること。僕も息子の自由研究テーマは、リスクもあって迷いましたが、様々な情報から可能だと判断しました。たぶん彼にとってこの経験は大きな財産になると思う。我が家は「モノより経験」を取ります。高価な物は買って与えないけれど、スキーのような経験になることには投資する。ちなみに本人と両親で話し合い無駄な時間を費やさないために、ゲーム機も買い与えていません。たぶん、どこかで息子は高圧的な親だと感じることもあるでしょう。でも、僕は常に等身大の自分を見せているので、父親に対してはすごく不完全な生き物だと受けとめていると思う(笑)。それでいいのですけれどね。

編集後記

――ありがとうございました!去る10月25日横浜にて開催した放射能対策講演会のパネルディスカッションにもご登壇いただきまして、ありがとうございました。伊藤さんが子どもを育てる上で大事にされている基本姿勢にとても共感しました。ふだんはお父さんとして顔が露出的に控えめな分、エピソードの数々がとても微笑ましかったです。きっと奥さんも素敵な方に違いない。引き続きツイッターのコメントにも注目して参ります。

取材・文/マザール あべみちこ

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