【シリーズ・この人に聞く!第59回】教員経験を小説にした「だいじょうぶ3組」著者 乙武 洋匡さん

――なるほど!手紙で書き言葉を読む。大事だという気持ちを受け取るのも、子どもたちにとってはサプライズだったでしょうね。私は今、思春期の息子に「大好き!」とか「大切」と言ってみても「キモチワリィ!」と言われてしまいますが、小学生時代はいっぱい言葉にしてあげるべきなんでしょうね。

いや、中学生になっても言ってあげた方がいいんですよ。手紙ならいいと思います。自分のことを振り返っても、反抗期って本当に親のことが嫌いで憎んでいるわけじゃなくて、照れ臭さとうっとおしさが半々なんです。だから、中学時代で曲がっていっちゃう場合もある。そういう時こそ、自分を愛してくれている存在があることを伝えるほうがいい。でも面と向かって言うと罵倒されてしまうかもしれないから手紙がいい。「こんなもの書くなよ」とか、多少のお叱りはあるかもしれませんが、内心はすごくうれしいんじゃないですか?男の子はカワイイから、枕の下に手紙入れて寝ちゃうかもしれない(笑)。

――さっそくやってみます(笑)。ところでオトタケさんは子どもの頃、大人になったらどうなりたいというのはありましたか?

なかったですね。だからこそ今の子どもたちには、なりたい職業をもつのもいいけれど、どんな大人になりたいか?を考えられるようにしようねと言っています。それは自分の子ども時代の裏返しというか、僕も小さな頃からそういうことを考える機会があればよかったなと思うので。

――職業ではなくビジョンを持つこと大切ですね。オトタケさんは今後教育の分野でどのような形で関わっていかれるのかな?と勝手に期待度が高まっていますが、いかがですか?

杉並区の教職員として3年間、その前は新宿区の非常勤職員として2年間、合計5年間教育現場での貴重な経験を積ませていただきましたので、これをオトタケヒロタダというフィルターを通して伝えていきたいと思っていますし、その皮ぎりとして今回こうした小説も書かせていただきました。これからも著作や講演会などを通じて、伝えていきたいと思っています。伝えるという仕事をしっかりしていきたいのが一つ。あわせて自分は常に現場を通して、子どもたちと触れ合ってそこで感じたことを伝えていくということもしていきたい。なので、何らかの形で今後も現場に関わっていきたいというのがもう一つ。
教員生活を通して一番感じたのは、皮肉にも「家庭が一番大事だな」ということでした。学校で不安定になっている子の話を聞いていくと、やはりご家庭で何らかの変化があった場合が9割以上でした。そう考えると子どもが落ち着いて勉強に取り組み、何か新しいことにチャレンジするには、家庭が落ち着いた状態でなければいけないと。でも残念ながら世の中見回すと、そういう家庭ばかりではない。子どもの学びにおいて不公平だと思う。少なくともそうした子どもたちのケアをしていきたいなという気持ちが、この3年間ですごく生まれました。近い将来、保育園を創って子どもたちと関わっていくつもりです。
子育てには2つの意味合いがあって、一つはおむつを替えたり、おっぱいをあげたりという物理的な育児。そしてもう一つは、心を育てるという育児。今の時代、どちらも両輪としてうまくやっていかないといけない。それが親の役目と思いますが、なかなか今の時代、経済的厳しさもあって、前者しかできていないご家庭もある。それを責めても始まらなくて、それは余裕のある人たちが、社会全体が補っていかないと。そういうことを踏まえて、子どもたちが安心して、自分が愛されているという実感を得ながら育って行けるような教育機関ができるといいなと思っています。

編集後記

――ありがとうございました! 普段、たくさんの方にインタビューをしていますが、オトくんのお話しされる内容は、そのまま活字にできるくらい無駄なく的確に表現されている言葉ばかりでした。毎日反抗期の息子と火花を散らす私にとって、その言葉一つひとつがずっしりと、じんわりと心の奥底に沁みることだらけ。しかも、ご自身で得られた利益をちゃんと社会に還元していかれる、その姿勢に深く深く感銘しています!オトくんワールドに触れると、不可能なんてないない!と確信できます。小説を手にして可能への扉、開けてみてください。

取材・文/マザール あべみちこ

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