【シリーズ・この人に聞く!第37回】目の前にあることをテーマに執筆する 作家 川端裕人さん

「PTA再活用論」という新書を書店で手にして、夢中で一冊あっという間に読破してしまいました。作家として自身の体験をふまえたユニークな視点で作品を次々と発表されている川端裕人さんは、昨年一年間小学校のPTAで副会長を務められました。そのヘンテコ組織の現実をどのように改善すべきか?!を具体的に提示した一冊です。新年度は役決めの季節。これからの時代、PTAをよみがえられる処方箋とは…?!二児の父でもある川端裕人さんにお話を伺いました。

川端 裕人(かわばた ひろと)

1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。
東京大学教養学部卒業後、日本テレビに入社。科学技術庁(当時)などを経て、97年に退社。98年、「夏のロケット」で作家デビュー。著書に『竜とわれらの時代』『みんな一緒にバギーに乗って』『銀河のワールドカップ』『てのひらの中の宇宙』『おとうさんといっしょ』など多数。共著に『「パパ権」宣言!-お父さんだって子育てしたい』『バカ親、バカ教師にもほどがある』など。
家族は、妻、小学5年長男、小学2年長女。

変えられるかもしれない、という思いから

――著書「PTA再活用論」を拝読して、著者の川端さんにぜひお会いしたいと思ったので、今回インタビューにご登場いただけて光栄です。昨年私もPTA広報の立場で感じた問題がたくさんございました。川端さんがほぼそうした事柄を洗いざらい整理されて、これからのPTAのありかたを考えさせられる貴重な一冊だと感じました。反響はいかがですか?

おかげさまで書評やBlogにいただくコメントなどでも好評です。体験と取材をもとに執筆しましたが、一年間PTAをやっただけでは、わかったことは限られています。今もPTAは謎多き団体ですよ。そもそもPTAに自動加入するのが当たり前になっているところから引っかかりを覚えます。ある民俗学者の女性が、お子さんが小学校に入った時、PTAに加入しないと伝えたら、「あなたの子は行事に参加できない」と役員から脅しめいた説得があったそうです。強制的なんですね。その方は結局入会したんですが、PTAを数年間観察して、その独特な社会のあり様を民俗学的な立場から考察して専門誌に発表していました。

3年前のニュージーランド亜南極旅行にて。3年に一度のペースでさまざまな世界を家族で旅する。

――PTAの仕事って強制ではないけれどボランティアといいながら色々な義務が課されていたり。やらない人は何もやらないけれど、気づいた人がすべてその分もかぶってしまうというような(笑)

日本では常に1000万人以上がPTAの名前で活動しているんです。僕は「できるだけ寛容な団体であってほしい」と思います。そもそもごった煮でバラバラな人の集まるわけですから。「親とは何なのか?を社会性として学んでいく一番身近な機関がPTA。いろいろな先生を知って、親を知って、それで自分も成長するということ」と、これは本の中でも紹介しています。つまり「緩さ・寛容さ」と「生涯学習」としての側面を組み合わせると、これからのPTAでは大事になっていくと思います。

――なるほど。一緒にやる人や仲間に恵まれるかどうかも、運によりますね。そもそも川端さんがPTAをやってみようと!と思われたきっかけは?

気がついたら会員だったんですからね(笑)。役員をやってみたのは、ここまでぐちゃぐちゃな組織があるのなら一度覗いてみたいという好奇心と「変えられるかもしれない」という思いです。自分の子どもの学校や地域だけでなくて、日本のPTAを変える可能性はまだまだあると思っています。

――本では、すごくPTAという組織を研究され尽くしていますよね。細かい表現も所々で納得したり、笑えたり。親の問題だけでなくて、学校そのものが抱えている問題も指摘されています。

PTA不要論ではなく再活用論なので、どうしたらもう一度この団体をいきいきと活動させられるか、一生懸命考えてみました。保護者にとって義務ではなく、機会(チャンス)なのだと言えるようにするにはどうすればいいのか、と。学校現場の荒廃は最近のことのように取り上げられていますが、実は昔からあった。僕もそういう教室を子ども時代に体験してきましたが、今は正直に言えるようになった分、公表される数が多く感じるのでしょう。
先生だっていろいろな人がいます。新採で経験不足だったり、教える技術が平均点以下だったり、統率力が足りなかったり。いや、十分経験があって、実力が申し分ない先生でも、何かをきっかけにクラス経営に悩むことは常にあるんです。そんなとき、あるいは、そうなる前から、保護者が先生をサポートして、子どもたちの学びと育ちを支えていく余地は十分にあります。PTAという名前でなくて「親の会」でも何でもいい。本来そういう発想で助け合う心をもって、親の得意分野を活かしてサポートできれば、PTAは「こどものため」を実感できる組織になっていきますよ。サポートが義務になると、また複雑な問題が出てきますが。

勉強好き、学校嫌い。仕事好き、会社嫌い。

――川端さんは1964年生まれですが、当時は子どもがたくさんいてマンモススクールで?何か習い事などはされていらしたのでしょうか。

いえいえ。ぼくが住んでいた千葉市は、県庁所在地なのに、少し奥地に入ると過疎のような地域があったんです。小学校は1学年1クラスでした。中学校になって、いきなり1学年13クラスと膨れ上がりました。習い事って何もしていませんでした。地域の野球クラブに入っていたこともありますが、その学年の生徒全員が担任の方針で学校の課外活動のサッカーに引き抜かれ、釈然としないままサッカーをしていた覚えがあります。結局は好きになっちゃったんですけど(笑)。休み時間に読書をしていると5、6年次の担任から禁止され、皆と外で体を使いなさいと促され、苦痛でしたね。ちょうどミステリーにはまりかけていたのに。そんなことがあって読めなくなった。だから、僕の作品はミステリー濃度が薄い(笑)。もっとその時期に基本的なミステリー小説を読破していれば!と思います。

父子でカヤックを習っていたことも。論理派の長男は現在クライミングにはまっている。

――本が好きな物静かな男の子。きっと勉強もおできになったことでしょうし、ご家族に対しても素直でいらしたのでは?

母も仕事をしていたので、親にはあまり細かく物事を詮索されませんでした。放置してもらえたので、あまり衝突はありませんでした。勉強では苦労はしませんでしたが、努力はしてきました。でも決して学年で1番なんて取る子ではなかった。1クラスしかない小学校でも上がいたし、13クラスになった中学校時代では学年でベスト10に入ったのは1度か2度だと思います。

――何がきっかけで東大を受けようと?

最初は京大の原子核工学科に行きたかったのですが、僕が受験する年から出題傾向が変わったのです。僕は空間能力を使う「幾何」が不得意で、ベクトルで計算できる「線形代数」の考え方ならなんとかなるタイプなんですが、純粋に「幾何」センスを問われる問題が出て、まったくできなかった。と同時に、新左翼系や新宗教系のあやしい団体が、キャンパスの周辺で京大の原子炉の放射性廃棄物の問題でいろいろ騒いでいて、それを見ていると、科学や技術がこの社会の中でどんなものなのか、俯瞰できるような勉強をしたくなったんです。帰りの新幹線で、来年受験するなら東大の教養学科の科学史科学哲学を目指そうと決めてました。

――その当時の記憶ですのにとっても具体的、記憶力がとてもいいですね。理数系で受験されて、入学後は文系の勉強も勿論されてマルチですし。与えられたものをこなすだけでなくて、勉強する欲求があります。それが知識の深さにつながっている気がします。それってDNAでしょうか。

僕の一族で、大学へ進んんだ「先輩」は叔父と従姉、2人いるだけで、それぞれ音大と美大です。探究心は昔からあったかもしれませんが、かつて日本テレビで報道記者をやっていた時に、バランス感覚が身に付いたものかもしれません。何かを語る場合、最低これとこれは知識として押さえておこうと。でも僕は勉強が好きでしたが、学校は嫌いでした。座っていないといけないのが辛くて(笑)。そういえば、仕事は好きだけど、会社は嫌いでしたね。どんなにいい人でも「上司」は苦手で……中には、会社に行かないと仕事ができないという人もいるかもしれませんが。

対話可能な人物にすることが教育目標

――お二人のお子さんへ対して、何か教育方針はおありですか。

方針というほど掲げていることはないのですが、子どもって育っていくものですよね。なにはともあれ、ご飯を与え、服を着せて、眠る場所を準備すればそれなりに育ってしまう。勝手に育つ怖さはあります。この子たちが大人になった時に、自分と対話可能な人になってほしい。すべての教育目標は、先行する世代と対話可能な人間をつくることにあるのではないでしょうか。あと20年たって、仕事をして自分の意見をもった時、親である僕と考え方にギャップがあるのは当然です。育ってきた環境自体が違うし、それは世界観の違いとしてあらわれる。それでもし対立しても、対話できる人であってほしい。願わくば論理的に親を言い負かしてくれ!と。

長女は本格的なバレエ教室に通い、公演や発表会もたくさんこなしている。

――お二人それぞれキャラクターも違うとか。習い事はされていますか?

長男は論理派。長女は直感能力派。長男はクライミングを。川崎に屋内でトレーニングができるスクールがあります。電車を乗り継いで30分近く掛かる場所ですが、おもしろさに開眼して頑張って通っています。自分のペースと工夫で上達して行く感覚がいいようです。長女はバレエ教室に通っています。毎年、公演や発表会があって本格的な教室で親はしんどいんですが、本人は大好きのようです。身体能力は明らかに上の子より優れています。親が知らない世界で、他の大人に指導される場は大切だと思います。

――この時代の子どもたちをどんなふうにお感じですか?

今の子は皆忙しいですよね。特に塾とか行っている子は分単位の生活をしています。時間の流れが僕ら子ども時代と違うので、かわいそうと思うより、違うものとして敬意をもって見守らないと。今は理不尽なことをいう偏屈な大人もいないし、暴力をふるう教師もいない。それによって伸びること、失われること。両方あるはずです。僕らだって同じように親とは違う時代を経てきた。なにしろ、上の世代には新人類なんて言われましたし。でもね、その後ちゃんと対話をする大人になっているとしたら、やはり自分の親の世代に感謝すべきなんでしょうね。とにかく食べさせていれば、子どもは育ってしまうのです。将来、対話ができる人になってくれるような教育、習い事を見つけたら、ぜひやっておくべきだと思います。

――では最後に、習い事を考える親へ何かメッセージをお願いします。

偶然を大切にするということですね。子どもが熱中するものに出会えるのはとてもラッキーなこと。今の世の中では、たくさん選択肢があって迷うくらいですから、親の思い入れが反映しすぎない偶然の出会いこそ大事にしたいなあ、と。地域にもスポーツ系や文化系のクラブがあって、いろいろな大人が指導しています。そういう身近なところでも、フッと夢中になれる。集中する瞬間が子どもにはあります。それは大概、親の意図を離れたところにあるもの。そういうものこそ貴い思うんですよね。

 

編集後記

――ありがとうございました!頑張るお父さんは私のまわりにも結構います。でも川端さんはその誰とも似ておらず、とても穏やかな口調で膨大な知識量をもっていらっしゃる方でした。頭脳のハードディスク量がものすごい。私も昨年PTA役員として、なんだかいろんな矛盾を経験してきて腹の立つことがたくさんありました。それを一冊の本にすること。しかも「再活用論」という改善策を示してというのはものすごいエネルギーがいることで、並大抵の人間ではできません。本当に優秀な人は、こういうテーマの捉え方をして人に伝えられるものなんですよね。熱く語っているBlogからもパワーを感じます。作家・川端裕人さんの今後の作品テーマにも注目しています!

取材・文/マザール あべみちこ

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