ほんとの空の下にあるほんとうの醤油。いわき市「山田屋醸造」

iRyota25

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バレンタインデーにいわき市でお醤油をいただいた。山田屋醸造のヤマキュウ「家伝」。昔ながらの製法で、手間暇かけるのを惜しまずに醸されたお醤油だ。

といってお洒落なビンに入ってる訳ではなく、ふつうのPET容器で、ラベルのデザインもいたって普通。でも、中味は特別。本当の醤油の味はこうだったんだと思い出させてくれるもの。

東北地方の醤油や味噌はちょっとしょっぱいイメージもあるが、沿岸地方で造られる醤油は旨味があってむしろ甘口。山田屋醸造さんのお醤油もそうだった。きっと海の物の味を引き立たせるのには、じっくり醸した旨口の醤油が合っているのだろう。(内陸部の山の幸には塩気の効いた醤油が合うということかもしれない)

大切な醤油をプレゼントしてくれた方はいわき市の出身で、里帰りする時には山田屋醸造の醤油を買って帰るのを楽しみにしているのだとか。実際、蔵に併設された販売所で商品を眺めていたら、1台、また1台とお客さんが車で乗り付けてくる。おそらく震災後に建て替えたらしい新しい販売所の奥には、壁が黒く塗られた大きな醸造の蔵と仕込みの蔵がひっそりと、しかし存在感を持って立っている。「受け継がれてきたもの」が香り立つようだった。

せっかくの貴重な醤油だからほんとうは魚を煮ようと思ったのだが、冷蔵庫に地鶏の切り身があったので付け焼きにしてみた。あえて醤油だけで味付けしたのだけれど、なんとまるで上品な照り焼きのように仕上がった。醤油の味と香りが肉の味を引き立てる。ちょっと感動の食卓だった。(雑な説明でごめんなさい)

むしろ、福島県出身の智恵子の言葉を夫・高村光太郎が綴った「智恵子抄」に出てくる、「ほんとうの空」という言葉を「ほんとうの醤油」と置き換えれば、味に濁りや曇りがなく、後味にイヤなものが一切残らない、この醤油の特徴が伝わるかもしれない。

あどけない話

智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

高村光太郎「智恵子抄」 | 青空文庫

山田屋醸造さんの醤油を味わうと、「普通」が現在ではいかに特別なのかがわかる。

いわきに暮らす人たちの間では有名な山田屋醸造さんだが、福島県外でこの醤油に出会うことはほぼないと言っていい。なぜなら、県外には卸していないから。大量生産ではなく丹精込めて丁寧に造っているからだ。

昔からのお客さんを大切に、昔ながらの製法で造られている山田屋醸造のお醤油。いわき市にいらしたら是非お買い求めいただきたい、本当の醤油の味を思い出していただきたいと思うのです。

山田屋醸造

山田屋醸造
〒970-8026 福島県いわき市平字久保町24
電話:0246-22-3637
販売所では、味噌、醤油のほか、麹、塩麹、甘酒、漬物なども取り扱われいます。

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