引き戸を開けて中に入ると、手作りのベンチの上に小さな鏡餅。元日の日差しを受けてやわらかに、あたたかに光っていた。
ここは岩手県大船渡市越喜来(おきらい)にある「潮目」。震災で流されてきた廃材などを組み合わせて作った、まるで秘密基地みたいな手作りプレイパーク。
元々は、2011年の5月、小学生たちが描いた「未来絵図」を展示する場所を片山建設の片山さんが作り始めたのをきっかけに、こども達が壁画を作り、7月にはこども達と東京芸大のボランティアの学生、そして片山さん達のコラボで手づくり遊具の公園になり、翌年には建物までたっちゃって「潮目」になったのだとか。
潮目は遊び場であると同時に、津波の恐ろしさや、震災前の越喜来の姿を伝える場所でもある。建物の中の壁にはたくさんの資料や写真が飾られている。こどもでも大人でも自由に入ってOKということなので、遊びながら学んだり、学びに来たのにいつのまにか遊んでいたり、なんてことができてしまう場所。
ちょっとまじめな話をするならば、潮目は震災で流されてきた廃材でできている。ということは、すべてが東日本大震災の遺物。滑り台やブランコになっているものも、津波の前には誰かの家の一部だったり、大切な宝物だったり、仕事の道具だったりしたものだ。ほかの場所では「ガレキ」と呼ばれ処分されてしまったようなものが、ここではちゃんと残されている。
すごいと思うのは、ガレキとして棄てられたかもしれない「遺物」が、ただ保存されているのではなく、みんな新しい役目を担っているということ。手に触れるもののすべてが意味と命を持っている。手に触れるすべてのものから、震災の痛みと、そして震災の前の越喜来の暮らしや空気やぬくもりが伝わってくる。ここは、そんな場所。
といって「しっかり勉強していきなさい」なんて言われるような場所じゃない。思いっきり遊べばいい。じぃっと見詰めてもいい。元は何だったんだろうと想像してみるのもいい。この場所で時間を過ごすということ自体が、震災の前と震災、そして震災後、さらに未来までもを結び付けていく。ここは、そんな場所。
ちょっと理屈が過ぎたかな。一年ぶりにやってきた潮目を一目見て「おぉー」と大感動したのは、去年のお正月の潮目から、さらにバージョンアップしていたことだ。こども達の絵の掲示板から出発して、次々と新展開を見せてきたそ流れそのままで、潮目はどんどん成長している。1年前の写真をのっけたページと見比べてもらうと、育ち続ける潮目の姿にきっとワクワクしてもらえるのでは。
去年みたいにこの場所で、片山さんの妹さんのKyokoさんと偶然出会えることはなかったけれど、潮目の周りをぐるぐる回りながらニタニタしてしまった。成長していく潮目に再会できて、ホントうれしかった。
でも潮目の周りを見渡すと、小学校の校舎があった場所も、西側もすでに盛土が高く高く積み上げられている。命をもう一度吹き込まれた震災の遺物を組み合わせて、でもそんな小難しいこと考えるでもなく、ただただ遊んで時間を過ごして越喜来にふれあえるこの場所は、かさ上げが進むとどうなってしまうのだろう?
小学生たちが津波から避難した三陸鉄道三陸駅への道の途中から振り返ると、潮目はかさ上げの盛土のずっと下に小さくなって見える。どうなる? どうする?
越喜来の潮目、ここは特別な場所。
震災の辛い記憶が色濃く残る土地にあって、過去と未来を結び付けながら明るく光り輝いている場所。
もしもなくなってしまったら、未来のこども達が困ってしまうかもしれない、大切な大切な場所。だから、自分ちじゃないけど大きな声でこう言いたい。
「遊びにおいでよ。」
(遊びにおいでよ。は潮目の写真集「潮目:フシギな震災資料館」のタイトルです。どうしても越喜来まで遊びに行けそうにない方は、ぜひ写真集で潮目体験を!!)