5号機の弁損傷写真から明らかになった2つの大きな問題点

iRyota25

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東京電力は7月6日、5号機補機冷却海水系配管の弁付近より海水が漏えいしたと発表した。7月7日、漏洩に関するPDF資料と現場写真が公開されたので内容を紹介。

 福島第一原子力発電所5号機補機冷却海水系停止に伴う使用済燃料プールの冷却停止について|東京電力 平成26年7月7日
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補機冷却海水系とは、「原子炉やタービンで使用する冷却水を冷やすための海水」ということで、熱交換器を使って冷却水を海水で冷やす冷却系。現在は使用済み燃料プールの冷却に使われていた。

海水が漏えいした「当該弁」
海水が漏えいした「当該弁」

photo.tepco.co.jp

カバーを外すと、おそらく鋳物製と思われる弁の本体が現れる。

漏えい箇所
漏えい箇所

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どこから漏れたのか説明がないので分かりにくいが、次の補修状況の写真から判断すると、上中央のボルト左に見える黒いスポットが、穴の開いたところらしい。7月7日の定例会見で「直径約3ミリの孔が1カ所」と説明されていたので、どうやら間違いなさそうだ。

硬化剤による仮補修1
硬化剤による仮補修1

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硬化剤による仮補修2
硬化剤による仮補修2

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荷締めベルトで固定している様子が物々しい。鋳物にこれだけの孔が開いていることから見て、内部がかなり減肉している可能性が高い。孔の部分だけでなく弁の胴の部分にも補修材を施しているのは、あるいはこの部分の内側もかなり抉られているのかもしれない。

漏洩箇所の特定のため、補機冷却系は停止された。それによって使用済み燃料プールの冷却も止まってしまった。

使用済み燃料プール冷却停止についての説明の変化

東京電力の説明は日を追って微妙に変化した。7月6日の時点では、「冷却停止時における温度上昇は1時間あたり0.193℃となり、運転上の制限値65℃を超えるまでには約9日間の余裕がある」との説明だったが、

翌日には、「使用済燃料プール水温度を見ながら、残留熱除去系による原子炉停止時冷却運転(炉心冷却)と非常時熱負荷運転(使用済燃料プール冷却)を交互に切り替えることで、必要に応じて使用済燃料プールの冷却を行う予定」と方針変更している。

当初は9日間の余裕があれば、冷却を止めている間に対処できると考えていたが、思った以上に重篤だったというようにも見える。

弁内部が大きく減肉しているとしたら、他の原発にも影響が及ぶ可能性も

東京電力の資料によると、損傷した弁は「原子炉補機冷却系熱交換器出口調整弁(V-37-91B)」というものとのこと。補機冷却系の海水出口側の調整弁ということだから、弁は全開したり全閉したりばかりでなく、開度が調整しながら運用されていたのかもしれない。その際の水流によって、弁の内部が減肉した――。そんなストーリーを考えると、この弁だけの問題ではないだろう。同様のシステムの他の原発でも全面的な再検証が求められることになるだろう。もちろん、この弁に関しても応急処置で済むものではなく、弁全体の交換が必要になるのは間違いない。

もうひとつ注目すべき点は、ひとつの弁が損傷しただけで、補機冷却系全体が停止に追い込まれたということだ。

フェイル・セイフの設計そのものに重大な問題

もうひとつの大きな問題は、1カ所の損傷で系統が全停止してしまったという点だ。

高い安全性が求めらる原子力発電所では、安全に関するシステムは、ひとつが故障しても大丈夫なように複数の系が重複して設置されている。東京電力の資料にある概略図からは、補機冷却系も3系統が並行して設置されているように読み取れる。しかし海水の出口側では3系統のすべてが合流して、1つのルートになっている。孔が開いて水漏れが起きた弁は、まさに全系統が合流した後に位置していた。

いくら3系統を備えていてもこれでは意味がない。挙句に原子炉冷却系と交互運転で冷却を行うという、考えられない事態に追い込まれつつある。

どうして孔が開いたのかという弁そのものの問題。そして多重防御のシステムそのものの設計の問題。この2つの側面から、全ての原発の再調査が行われることが求められるだろう。原子力規制委員会の対応に注目したい。

[New!]今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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文●井上良太

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