新巻鮭。かつてはメジャーな冬の保存食だった。お年賀の贈り物としてもメジャーで、漫画「サザエさん」にも描かれた。あっちの家からこっちの家へ、こっちの家からそっちの家へと届け歩いているうちに、新巻鮭のしっぽがだんだんすり減っていくという4コマ漫画。大きな鮭だからこそ笑える落ちだった。
最近では鮭といえば塩鮭の方が一般的だし、スーパーで切り身で買ってくれば、しっぽがすり減るなんてことはない。
だけど、東北では各地でいまも新巻鮭が作られている。
秋、ふる里の川にどっと押し寄せてくる鮭を捕まえて、筋子・はらこはイクラに。内蔵を取り除いた身の部分は塩に漬けておく。そして寒い西風が強まる年末あたりに、塩漬けした鮭の塩を水で洗い流した上で、寒風に晒す。
風に晒すことで余計な水分が飛び、旨味が凝縮する。塩漬けしただけのものを新巻を呼ぶこともあるが、東北地方、とくに三陸沿岸では塩を洗い流して風に晒す。たぶん、しょっぱ過ぎず、でもある程度の保存性をと考えられたのが、この新巻鮭の作り方なのだろう。
宮古市田老の人たちが多く住まうグリーンピア三陸みやこの「たろちゃんハウス」前には、物干竿にずらっと新巻鮭が吊るされていた。吊るした紐に貼られたラベルは売値かと思ったらさにあらず。作った人の名前が記されている。きっと塩の漬け方、塩抜きのやり方、干し方などなど、家庭ごとの味への技がこめられているのだろう。
新巻鮭は浄土ヶ浜のレストハウスにも吊るされていた。たぶんこの場所、いい風に恵まれるのだろう。
浄土ヶ浜の奇岩が淡いパープルに染まっていく夕まぐれ、レストハウスから若者二人が出てきて、何をするのかと思ったら、干してた新巻鮭を二人掛かりで竿ごと持ち上げて「よっちら、ほっちら」と、建物の中に運び込んでいった。
なんか、いい風景だった。
文化なんだなあ、三陸の新巻鮭。
ある程度塩を抜くことで甘塩になった上に、風に何日も晒すことで旨味が凝縮していくのだそうです。しょっぱいばかりじゃない、三陸の味わい。ずっとこの地で受け継がれてきた食べ物、生き方のあり方。
こういうのって伝えていきたいね!
だって、それぞれの家でこだわり抜いて作られた新巻鮭を肴に一杯って格別だもん。
写真と文●井上良太
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