「火山災害について ~前編~」では、火山災害についての基礎知識について書きました。後半では噴火による災害の種類などについて調べてみます。
火山の噴火がもたらす災害・被害
火山災害は火砕流など直接的な被害から津波、土石流などの二次災害も含めて、多様であり、被害も甚大です。噴火によってもたらされる主な災害は以下のものがあります。
○火砕流・火砕サージ
20世紀に発生した火山災害で1000人以上の死者をだしているものは、
11件あります。そのうち8件が火砕流によるものでした。
日本でも雲仙普賢岳の火砕流で1991年6月3日に43名、93年6月23日に1名の方が
亡くなっています。雲仙普賢岳の火山活動は約5年間続き、その間に火砕流は
およそ1万回発生しています。
火砕流について、気象庁のWEBサイトでは下記のように説明しています。
高温の火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。規模の大きな噴煙柱や溶岩ドームの崩壊などにより発生します。大規模な場合は地形の起伏にかかわらず広範囲に広がり、通過域を焼失、埋没させ、破壊力が大きく極めて恐ろしい火山現象です。流下速度は時速数十kmから百数十km、温度は数百℃にも達します。火砕流から身を守ることは不可能で、噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。
火砕流には、2つのタイプがあります。 噴煙柱崩壊型と溶岩崩落型です。
噴煙柱崩壊型は、火口から上空に噴出された火砕物とガスとの混合物が失速し、
落下してくることにより発生します。高速・高温の流れであり、
ときには火口から100km以上も離れた場所まで到達します。
7万年前に発生した阿蘇山の火砕流は180km離れた中国地方西部まで
達したそうです。
溶岩崩落型の火砕流は、急斜面上に噴出した溶岩のドームが崩壊すること
により発生します。雲仙普賢岳で大きな被害をもたらした火砕流が
溶岩崩落型です。こちらも高温・高速で斜面を下りますが、
噴煙柱崩壊型と比べると火砕流の規模は小さいと言われています。
しかし、雲仙普賢岳の火砕流の映像を見ると、恐ろしさを感じます。
雲仙普賢岳火砕流の発生状況(平成3年)
火砕サージは火砕流に似ていますが、火山ガスの比率が高いため密度が小さく、
高速で薙ぎ払うように移動します。
○山体崩壊・岩屑(がんせつ)なだれ・津波
噴火や地震を引き金として山の一部が崩壊することがあります。
山体崩壊は珍しいことではなく、日本の成層火山の約4割に山体崩壊の跡が
あります。崩壊した山体は、岩屑なだれとなって高速で流れ下ります。
1980年のアメリカ・セントヘレンズの噴火による岩屑なだれは、
初期速度は秒速150mもあり、約30kmの距離を下っています。
富士山でも約2500年前に大規模な山体崩壊が起き、東側の山麓が
埋めつくされています。御殿場市や小山町一帯で当時の堆積物が
確認されているそうです。
大規模な岩屑なだれが海や湖に流れ込むと津波が発生します。
国内最悪の火山災害は津波です。1792年、雲仙普賢岳北東部の眉山の崩壊では、
岩屑が有明海に流れ込み、高さ23mの津波が発生して15,000人もの方が
亡くなっています。
津波は、海底火山の噴火によっても起こります。
1883年のインドネシア・クラカトア火山の噴火では、高さ35mの津波が
発生し、35,000人の方が犠牲になっています。
津波は海だけでなく、湖でも山体崩壊により発生する可能性があります。
○噴石(※)
火山が噴火した際に大小様々な噴石が放出されます。
なかには、数十㎝以上の噴石が弾丸のように飛ぶものもあり、大変危険です。
噴石の被害は、火口周辺の2~4km以内に集中することが多いですが、
小さな噴石は、10km以上も飛ぶことがあります。
また、建物や自動車を直撃して二次災害を引き起こす恐れもあります。
(※)噴石については、いくつかの定義が存在していますが、
ここでは、火山灰以外の火山砕屑物(さいせつぶつ)として使用しています。
○火山灰
火山灰は大変遠くまで運ばれます。場合によっては風にのり、
数百km以上運ばれることもあります。
日本では偏西風により、東側に運ばれやすいです。
富士山の宝永噴火(1707年)の際には、富士山東麓で数m以上、
東京でも約5cmの火山灰が積もっています。
わずかな火山灰でも自動車のスリップや航空機のエンジントラブルにつながり、
自動車、鉄道、航空などの交通機能を麻痺させます。
その他にも健康、農作物への被害や火山灰の重みによる家の倒壊など、
火山灰は広範囲に影響を与えます。
火山灰が1㎝積もると乾いた状態で1㎡あたり10~17㎏になり、
雨が降って濡れると重さが約1.5倍になるそうです。
火山灰により、家屋が全壊することもあります。
1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火では、雨によって重さが
増したことも重なって、4万戸の家が倒壊しています。
火山灰による影響について、気象庁の資料に詳しくあります。
○融雪型火山泥流
積雪期に噴火が起こると火砕流等の熱により、雪が融かされて土砂や岩石を
巻き込みながら高速で流れ下ります。
速度は60km以上になる場合もあり、大規模な被害を起こす恐れが大きい災害です。
1985年、コロンビア・ネバドデルルイス火山の噴火で氷河が溶けたことにより、
大規模な火山泥流が発生しました。泥流は火口から最大80kmの場所まで達し、
23,000人の方が亡くなっています。
○溶岩流
溶岩流はマグマが冷え固まらずに地表を流れる下るものです。
流れやすい玄武岩マグマの場合でも、基本的にはゆっくりと流れるため、
歩いて避難することができます。
流れ出た溶岩が完全に冷え固まるには数年以上かかります。
○土石流
山の斜面に火山灰が厚く積もっていると、雨が降った際に土石流が
発生することがあります。
土石流の速度は時速100km程度にまで達することもあります。
噴火があれば大なり小なり土石流が発生すると言われています。
噴火が収まった後でも、発生する恐れもある点で、個人的には火砕流とは
異なる怖さを感じます。
先日の伊豆大島の土石流も、雨により火山灰層が流れたものだという見方も
あるようです。
以上、主な火山災害について書きましたが、その他にも火山性地震や、空振(くうしん)と呼ばれる衝撃波で家屋や車の窓ガラスが割れるなど、火山の噴火は様々な災害を引き起こします。
火山性ガスについては、噴火時以外でも発生していることもあり、過去に登山者が有毒ガスで亡くなっています。火山ガスは大抵は空気よりも重いので、山の斜面に沿って流れ、低地にたまって被害をもたらすことが多いようです。
噴火予知について
火山の噴火ですが、直前予知に関しては地震よりは高い確率で予測がしやすいと言われています。
予知の成功例として有名なのが、2000年の北海道・有珠山の噴火です。
この時は、事前に避難指示がだされたことにより、犠牲者が全くでていません。
噴火の前兆としては、下記のものがあるようです。
■噴火の前兆
・群発地震、低周波の火山性微動の発生。
・山体の膨張。
・地下の電気抵抗や地磁気の変化。
・噴気の発生、増加や組成の変化。
・地下水の温度上昇、水位変化。温泉の湧出量の変化。
これらの前兆現象は、多くの火山で噴火の数か月から数時間前に発生しています。
しかし、現象が現れたからといって必ずしも噴火に至るわけではなく、その後、火山の前兆現象が低下して噴火しない場合もあります。
ちなみに、富士山の宝永噴火(1707年)の際には、複数の文献から前兆現象があったことが確認されています。以下、静岡大学のWEBサイトからの抜粋です。
宝永東海・南海地震の発生から49日目の12月16日に宝永噴火が始まったわけですが、その間どのような噴火の前兆が生じたかを、地元に残る記録から読み取ることができます。
それによれば、宝永地震後の富士山中では、1日のうちに10~20回の小地震がありましたが、山ろくでは感じられませんでした。
このことから、これらの小地震が宝永地震の単なる余震ではなく、富士山直下で起きていた(おそらく火山性の)群発地震であることがわかります。
さらには、噴火開始の前日から当日にかけて、群発地震が徐々に有感範囲を広げていく様子が明らかになりました。12月15日の午後に現在の裾野市、富士宮市、山梨県忍野村だけで感じられていた群発地震は、夜に入ってその有感範囲を拡大し、静岡県御殿場市、沼津市、神奈川県箱根町、小田原市でも群発地震として感じられるようになりました。そして翌日の噴火開始に至ったのです。
もし、火山が噴火したら
火山の噴火で多くの方が亡くなっているのが火砕流です。火砕流は数百度以上の高温で時速100㎞を超えるスピードで襲ってきます。発生してからでは逃げることはほぼ不可能に近いので、事前の避難が重要です。
火砕流の到達距離は一概には言えませんが、過去には火口から100㎞以上の距離まで到達したこともあります。火砕流にのみこまれたら助かることはまず不可能です。
1902年、西インド諸島マルティニーク島・プレー火山の噴火の際に発生した火砕流が、麓のサンピエール市を襲い、市民3万人以上の方が亡くなっています。しかし、この時、火砕流に襲われた市内にいながらも2名の方が助かったそうです。ひとりは、地下牢につながれていた死刑囚で、もうひとりは地下倉庫に隠れていた靴屋だということです。いずれも地下に居た人たちのようです。
避難する際には、ヘルメットの着用を強くおすすめします。噴火の際には大小様々な噴石が飛びます。小さい噴石に対して、頭部を保護することができます。噴火前の避難指示で避難する場合でも、途中で噴火しないとも限らないのでヘルメットはつけた方がいいかと思います。
噴火の状況によりますが、数十cmの大きな噴石は火口からおよそ4㎞以内に落下することが多いと言われています。小さな噴石は、風にのり10㎞以上離れた場所にも落下することもあります。風下側は、遠くまで噴石の飛来の可能性があり、特に注意が必要です。
一般的な木造家屋に大きな噴石が落下した場合には、屋根を突き破る恐れがあります。避難先の建物は、出来る限り頑丈なコンクリート製の建物が望ましいです。
草津白根山など、噴火の恐れがある観光地では緊急退避用のシェルターが配置されている場所もあります。
火砕流、岩屑なだれ、津波、泥流、土石流なども考慮して、事前に避難する場所を複数確認しておくことをおすすめします。
東日本大震災の際には、避難場所に指示された場所や、安全と思われていたビルの3階以上にも津波が押し寄せてきた例もありますので、必ずしも避難指示場所が安全ではないということも頭の片隅に置いていた方がいいかもしれません。
過去の避難期間を調べてみると、1990~1995年の雲仙普賢岳、2000年~2005年の三宅島などもあり、長期間の避難も予想されます。
火山災害を調べみて
火山災害について調べてみて驚いたのが、火砕流、噴石、岩屑なだれ・津波など、
災害の種類の多さと被害の大きさでした。過去には数万人の方が亡くなった噴火も
多数ありました。
災害全般に言えることですが、いつ起きても不思議ではないという意識を持ちたいと思います。私の住む近くにある富士山について、火山の専門家がこう言っています。「富士山は過去3200年で約100回噴火しており、300年も休んでいるのは異常事態」。地震や津波と同様に火山災害についても、発生前の備えをしようと思いました。