わっぱ煮 - 新潟県・粟島【島の郷土料理】

「アツアツに熱した焼き石を足す」

 非常に個人的な話で恐縮なのですが、僕は「料理の仕上げ」が大好きです。 例えば、和食で言えば、風味を足すために「最後に醤油を入れる」というのが好きです。フランス料理で香りづけに「ワインを入れる(フランベ)」というのも炎が上がって格好いい。ほかにも「ごま油やラー油など、ほんの少し足す」ことで、色々な料理が引き立ちますよね。

 こんな風に、料理の明暗を握る「仕上げのひと手間」が、なんだか手品みたいで良いなぁと思ってしまいます。 そしてこのたび、新潟県・粟島(地図)にて、素敵な料理を発見してしまいました!この料理のポイントは最後に「アツアツに熱した焼き石を足す」こと。その名をわっぱ煮と言います。

粟島名物「わっぱ煮」

※ 画像は粟島観光協会様より頂きました。

粟島名物!わっぱ煮とは!

新潟県村上市・瀬波海岸より粟島を臨む。

その後ろには、日本最大の離島・佐渡島。

 粟島は新潟県岩船郡粟島浦村(あわしまうらむら)にあります。西隣には日本最大の離島・佐渡島がありますが、粟島はその佐渡島のおよそ87分の1、面積9.86㎢の小さな島です。

 観光パンフレットを見たところ、小規模ながら見どころの多い島で、波風によって削られた独特な奇岩群や、多く飛来する渡り鳥などの風景が魅力的。さらには、スポーツの面でも釣りや乗馬、ダイビングがさかんなようで、レジャー要素に富んだ島だという印象を受けました。 そして、そんなたくさんの見どころの中でも特に目を引いたのが、この粟島郷土料理・わっぱ煮です!

 粟島浦村の公式ホームページによると、わっぱ煮についてこう解説してありました。

 粟島の海の幸を存分に堪能できるのが名物料理・わっぱ煮。杉を曲げてつくった〝わっぱ〟に、焼いた魚とネギを入れてお湯を注ぎ、真っ赤に焼いた石を落し、ぶわっと煮立ったところで味噌を溶き入れる豪快な漁師料理だ。
(引用:粟島浦村公式HP「粟島の味覚」より)

 なるほど。見たところ、島の海の幸を楽しむ味噌汁という感覚でしょうか。とは言え、わっぱという器、真っ赤に焼いた石など、気になるキーワードがちらほら。ただの味噌汁として扱うわけにもいかなさそうです。 ではなぜ、この画期的な料理が粟島で誕生したのか。粟島観光協会に電話して聴いてみました。

アツアツの石を投入して仕上げるわっぱ煮

※ 画像は粟島観光協会様より頂きました。

わっぱ煮の歴史とは!

 「もともと漁師が捕った魚を手軽に食べるために考えられたみたいです。」

と教えてくれたのは、粟島観光協会の松浦さん。 松浦さんいわく、明治時代の文献に、わっぱ煮について話す当時のお年寄りの話が残っているそう。詳細な時期こそはっきりしないものの、その始まりは明治よりも前にさかのぼると考えられているようです。

 わっぱは、正式には “曲げわっぱ” といって、スギやヒノキを使って作ったお弁当箱みたいな木製の箱なのだとか。元々は秋田県(大館市)の伝統工芸品のようですが、どういうワケか、粟島の漁師の間で使われるようになったみたいです。 「わっぱは言わば弁当箱ですね。昔は片方にごはんを詰めて、漁に出たそうですよ。それで、獲れた魚を焚火で焼いて、焼けた魚と野菜を自家製の味噌で食べるんですけど、その時に焚火で焼けた石を入れたのが始まりみたいですね。」

 どうやら焚火で魚を焼くと同時に熱された石で、アツアツに仕上げていたようです。焼けた石を活用するという豪快な発想がたまりません。予めわっぱにご飯を詰めているところもイイですね!ご飯と一緒に捕れたての魚を、アツアツの状態で食べるなんて、なんとも贅沢なお弁当です。

捕れたての魚をその場で焚火で焼く!※ 画像は粟島観光協会様より頂きました。

粟島で食べるなら!

 「魚はその時々の旬のものを使うことが多いですね。」 と松浦さん。季節に応じて、メバル、カワハギ、アブラコ(アイナメ)あたりを使うとのこと。どちらにせよ、その時期に一番うまい魚を使うとあれば、期待してしまいます。

 また、見逃したくないのが、「味噌が自家製」という点。味噌自体、粟島の特産品というわけでは無いようですが、わっぱ煮の味の決め手らしく、家庭によって味が違うとのこと。味噌が少なくなってくると、島の奥さんがたはお手製の味噌を仕込むそうです。 「わっぱ煮は島内のほとんどの食堂や民宿で食べることができますけど、自家製なので味の好みが分かれるかも知れませんね。2~3件食べ歩くと違いが分かると思いますよ。」

と、仰っていました。民宿では朝にわっぱ煮が出てくるようで、特に釜谷集落では、朝から石を焼いている姿も見られるそう。人口は344人(2012年時点)と小規模な島ですが、観光パンフレットを見る限り食堂、民宿は多く、40軒近くあります。どんなわっぱ煮に出会えるか、リサーチしてみるのも面白いかも知れません。 

 今や観光客に向けたおもてなし料理となったわっぱ煮。「仕上げの焼き石」は、料理を振る舞う側としても、冷ますことなくアツアツを保てるメリットがありますし、かなり画期的な気がします。やはりこの、料理の明暗を握る「仕上げのひと手間」が、なんとも粋だなぁと思うのです。粟島に行ったなら、食べずには帰れません!

湯気が立ちこめるわっぱ煮※ 画像は粟島観光協会様より頂きました。

こぼれ話 「やけどに注意!」

見るからに豪快なわっぱ煮。「漁師の男衆ならでは!」という感じですが、その豪快さゆえか、ひとたび沸騰すれば、なかなか温度も下がらず本当に熱いようです。いつしか、石を取り除くためのスプーンが添えられるようになったとか。猫舌さんは要注意です。