息子へ。被災地からのメール(2012年11月30日)

◆ 11月30日  最終日の石巻

2週間の出張の最終日は、狐崎浜の漁師さんの船に乗せてもらって、ダイビング調査に同行した。まるで映画に出てくる秘密のプライベートビーチのような浜辺(ただし浜には瓦礫がまだ残っているけれど)や、カキ養殖のイカダなど、なかなかお目にかかれないものをたくさん見せてもらった。

浜小屋で浜のおばちゃんたちの手料理をふるまってもらったり(カレイの刺し身もアイナメの叩きもサンマの佃煮もなますも寒天も最高においしかった。おばちゃん、ありがとうございました!)、獲れたてのカキを試食させてもらったり。その上、大好きな漁船に乗せてもらったんだから最高の一日だった。詳しくは別の記事としてまとめるのでお楽しみに。

狐崎浜でたっぷり時間を使ったから、その後のスケジュールは押し気味。石巻の中心地に戻って、お世話になった人たちに挨拶して、写真を撮り忘れていたところを撮って回って、それからもう一軒、どうしてもお話しを聞いておきたかった場所を訪問した。

それは駅前のサイボーグ009のオブジェの近くにある「REGAL SHOES石巻店」。まんまる夜の会で出会った新柵さんが店長を務めるショップだ。フランス料理をいただきながら新柵さんが前夜に語った言葉がずっと心に引っ掛かっていた。

「いまわたしが一番落ち着ける場所はお店。家も何もかも流されてしまったから、約20年勤めてきたショップのレジカウンターが一番落ち着けるんです」

震災に見舞われた直後のこと。自宅があったのが津波で壊滅的な被害を受けた門脇(かどのわき)で、大地震の後、彼女が自宅へ向かうのを心配したご近所の方に、半ば強引にクルマに乗せられて海岸とは反対方向へ避難したこと。避難する途中で奇跡的にご家族と携帯がつながったこと。やはり奇跡的に携帯がつながった函館のショップ仲間の方が中心になって、全国のREGAL SHOESから毎日のように支援物資が送られたこと。ほんとうは震災の年がショップの30周年だったのだけど、1年遅れでこの12月に30周年記念を行うこと……。

帰りの新幹線の時間もちょっと気になっていたけれど、お店で新柵さんと話を重ねるにつれて、彼女の言葉に引き込まれていった。

●ヒマちゃんの気持ち

そんな話の最中、とつぜん彼女が切り出した。

「そう言えば、絵本が出ることになったんです」

美しく磨き上げられた革靴が並ぶ棚の上から、彼女はサンプル版の絵本を手渡してくれた。

タイトルは『ヒマちゃんの気持ち』。

2011年の夏、津波で流されてしまった新柵さんの自宅跡地に咲いたヒマワリと新柵さんの心の交流を描いた絵本だった。

いつか咲く日を土の中で夢見ていたヒマワリの種が、津波で見ず知らずの場所へ流される。でもその場所では自衛隊の人やボランティアの人たちが、必死に町の復旧を行っていた。その姿を見たヒマワリは「この人たちのために咲こう」と決心する。流されてきたヘドロを栄養分に変えて、太陽の光を受けて育つヒマワリ。しかし、自衛隊やボランティアの人たちは夏の頃には人数も減って、ヒマワリは「誰のために咲けばいいの?」と悲しくなってしまう。

そんな時、ひろちゃんというおねえさんがやってくる。ひろちゃんは自転車でヒマワリに会いにやってきて、ペットボトルの水を注いだり、毎日話しかけたりした。

7月のある日、ヒマワリはひろちゃんがやってくるのを楽しみにしていた。いつものように自転車に乗ってやってきたひろちゃんは、まだずっと遠いところにいるのに、突然泣き出してしまう。更地になってしまった門脇の町の遠くからでもはっきり見えるくらい、明るく鮮やかな黄色の花をヒマワリは咲かせていた。しかし…。

●引き継がれているヒマちゃんの命

ヒマワリのヒマちゃんの言葉をかりて、新柵さんの思いがつづられる物語。そこには輝くように咲き誇るヒマワリの姿と、被災地に生きる人たちの心の葛藤が描かれている。読みながら何度も涙があふれてきた。

そして思い出した。先月石巻を訪れた時、町の中心街のプランターに咲いていたヒマワリのこと。もう10月も半ばなのに、それにその日は暴風警報が出ていて、人気のない町を激しい風が吹き荒れていたのに、風に揺れながら満開の花を咲かせていたヒマワリのこと。あのヒマワリは、ヒマちゃんの子どもたちだった。

被災した場所でいっしょうけんめいに生きている人たちと話していると、とっても強い生命力を感じて、話を聞いていて元気をもらえるように感じる。ヒマワリのような明るいオーラをいっぱい感じる。でも、ヒマワリのように生きようとしている人たちは、心の中にたくさんの辛い気持ちを仕舞い込んでいる。

そのことが、この絵本を読むと心の中にしみ込んでくる。

できることは限られているかもしれない。でも、ひろちゃんがヒマちゃんにしたように、2リットルのペットボトルを自転車のハンドルの両側にぶら下げて、暑い夏の日にも、風が強い日でもヒマちゃんの元へ走りたい。時には栄養剤を届けたり、風に負けないように支柱を立てたり、どんなことでもいいから話しかけていたい。そんな気持ちになったんだ。

電器店のけいていさんに町を案内してもらった夜から始まって、ヒマちゃんの話で締め括りとなった今回の東北の旅。たくさんの人に出会って、分けてもらったものを、これからの生き方に生かしていこうと思っている。  

『ヒマちゃんの気持ち』はiPhone、iPad の両方に対応するAppとして無料で公開されています。『ヒマちゃんの気持ち』で検索するか、こちらからアクセスしてください。