島暮らしのススメ
「島へ移住する」ことに憧れる人は何気に多い。何がそこまで魅力的なのか。ひとつひとつ考えていきたい。
1.ゆったりとした島時間
何よりもこの一言に凝縮されている。島には独特の時間が流れている。「島時間」と呼ばれるそれは、都会での喧騒を忘れさせてくれるだろう。例えば、スーパーの営業時間に代表されるが、一部の都会的な離島(佐渡島、石垣島等)を除けば、基本的には日の出とともに営業が始まり、日の入りと共に店は閉まる。言い方を変えると、夜に出かけたところで行くとこもやることもあまり無いのだ。中には夜釣りやナイトハイクなどを楽しむ観光客もいるが、島で暮らしてしまうと、そんな遊びを毎日のように楽しみたいと思う人は皆無だろう。 もちろん島内の仕事に関しても同じだ。日が沈んでしまえばあたりはすっかり暗くなり、島に数件あるだろう飲み屋だけが静かに賑やいでいる。0時過ぎまで電車が走り、夜遅くまで明りの灯るビルを思えば、都会暮らしとは似ても似つかぬ過ごし方である。
2.低収入でも暮らすことが出来る
少し現実的な話題になってしまうが、これも事実である。島での求人は限られており、また賃金もそれほど高くないのが相場だ。各島で募集中の求人を見渡しても、月給であれば12万円台から、20万円台に乗ればかなりの好条件である。およそ、内地でバリバリ働いている人が移住するのであれば、まずは収入がガクッと落ちてしまうと考えてよい。(自営業は除く) しかし、それが普通であるからこそ、それでもやっていけるということだ。何しろお金を使う機会は内地に比べて少なくなる。野菜や魚といった食費もスーパーで買えばそのまま支出だが、中には農園を持っていたり、海に出たりと”自給自足”している人も多い。やりくり次第で抑えることが出来るのだ。また、島はガソリン代も高かったりするが、そもそも長距離移動をする機会も日常的にはほとんどない。それを考慮すると固定費と食費のほか、たまの飲み会程度の娯楽費の出費である。人の家計は人それぞれだが、移住した人々は「案外お金は使わない」と口を揃える。
3.自然が豊かな中で生きる
鮮やかな青の海、濃い緑の木々、その島によって表情もまた違うが、総じて自然豊かであることには間違いない。自然と一体になって過ごすことを実感できるだろう。休日は海に出かけ、釣りに出かけ、山に出かけ、ハイキングに出かけ・・・どれでも都会であれば、長距離移動と時間と気合が伴う。それらに関しても島暮らしであれば、「玄関あけてすぐ」が基本だ。 特に小学生以下の子供たちにとっては、都会の方がかえって遊ぶ場所が少ないくらいだ。その割には犯罪や事故の不安も多く、結局、家にこもってゲームに興じたり、はたまた親の言いつけで塾に通ったりする。それは確かに安全な過ごし方ではあるが、島暮らしの前ではとても健全な過ごし方とは言えないだろう。もちろん島で遊ぶにしても100%安全とは言い難いが、自然に触れて学ぶ機会に恵まれることは、都会では考えられない。
4.大人の眼が行きわたる環境で子育てが出来る
これも都会との比較になるが、島によっては「島民のほぼ全員が顔見知り、知らない奴は内地の人間だ」なんて言えるほど、みなが知った顔である。すれ違う車を見て「あ、○○さんだ」と会釈。規模の小さい島ほど、こんなことは普通かもしれない。だからか、悪いことも出来ない(犯罪が全く起こらないわけではないが)。 そんな環境ゆえに、島の子供たちもご近所さんによく知られてしまう。子供からすると窮屈(?)かもしれないが、誰かの子供は島の子供。地域ぐるみで大切に育てられるだろう。
5.娯楽を生み出す風土
やはり島には何もない。繁華街も無ければ、遊び場も限られる。いくら自然に恵まれているとはいえ、これでは退屈だと思う人もいるだろう。だからこそ、島にもよるが、島内のコミュニティが活発である場合が多い。例えば、島の伝統芸能保存会などが良い例だ。伊豆諸島、大島では毎週一度、夕方に「大島御神火太鼓保存会」が活動している(右写真)。青ヶ島では青ヶ島郷土芸能保存会が島踊りの練習を通じて、お披露目の機会に備えている。これらはほんの一例だが、こういった活動は島ごとにちらほら見受けられる。 筆者が西表島に長期滞在していた際は、島の有志らで寄り集って週2回、島の小中学校の体育館を借りてバレーボールや卓球に興じたものだ。どれにしても、大々的に活動しているわけでなく、好きな人同士が、のんびりと楽しんでいるのである。島で暮らし始めてご近所関係を築き上げていくと、ふとこういった話も舞い込んでくるだろう。
また、諸島や群島地域ともなれば、隣島とソフトボールやサッカーの対抗戦なんかも企画される。小笠原諸島で過ごしていた時は父島、母島の対抗戦に向け、島のグラウンドで練習している島民の姿が印象的だった。母島の公民館では有志のバンドがスタジオを設け、ロックを演奏していたこともある。もともと音楽をする場所などなかったそうだが、「無ければ作ろう」と始めた活動と聞いた。 何もないからこそ、娯楽を生み出す風土はひと一倍強い。
6.生命力も豊かになる
先に述べた項目でも明らかだが、何もない環境を活かし、人々は工夫しあって生きている。島へ移住するだけでも努力が必要だが、それだけ気合が入っている証拠でもある。 島で就職するなら収入に関わらず、自身のライフスタイルを確立。就職しないのであれば、独立・開業を経た自営業。ここまで出来る人は、間違いなく簡単に死ぬ人ではない。
例えば内地であれば、雇用問題が嘆かれ、就職戦線も殺気立っているのは周知のとおりだ。「過労死するほど仕事があるのに、自殺するほど仕事が無い」なんて言葉も、どこかで聞いたことがある。規模は小さくても自給自足の出来る島であれば、「たとえ仕事が無くても最低限食べるものには困らない」くらいの感覚で生きていけるだろう。
以上が、筆者が考える島暮らしのメリットだ。良いところを挙げ始めるときりがないが、筆者自身も長く暮らした中で感じたことである。今後、過疎の島々を中心に定住促進が進み、より住み心地よく改善されていくだろう。
だが、もちろん良いことばかりではない。 →【島へ移住する】島暮らしのデメリット