島への移住に必要な3つの要素
「将来的には島で暮らしたいなぁ・・・なんて思っています。」旅行先の島で一緒になったお客さんからよくそんなお話を聞くことがある。都会のような喧騒は一切ない。人も多くは無い。朝から満員電車に揺られて終電近くまで仕事・・・なんてこともない。あるのは恵まれた自然とスローライフ。島には何もない。だが、それがいい。朝日が昇ると同時に活動し、日が沈むころには酒を飲んで気の合う仲間と談笑する。「これが島での過ごし方だ」と言えば、間違っていない。旅行先の島で一日でもそんな過ごし方をしてしまったら、その島暮らしに憧れてしまう。ある意味当然のことかもしれない。 ただ、島と都会とでは、過ごし方はおよそ180度変わってしまう。それまでの常識はまるで通用しなくなることもあるのだ。そして、島暮らしに憧れるみなも、なんとなくそれをわかっている。だから、口では誰しもが「将来は島で・・・」なんて言うが、いざ実行に移すこともなく、躊躇し続けたまま、”憧れ”で終わらせてしまうのだ。
細分化するとキリがないが、島への移住を叶えるために必要な要素は大きく分けて3つある。それは「住居」、「収入」、「腹を括る」だ。
住居
今でこそ、全国の島々では過疎化が進んでしまい、島民の定住促進を目指す”島事情”があるが、元々島は、どちらかというと閉塞的なコミュニティである傾向が強い。つまり、「いずれまた長男が戻ってくる」、「先祖代々この家を継いできたから」などと言った理由でなかなか家や土地を譲りたがらない風潮があったのだ。ただでさえ、都会(内地)と比べて住居も少ないため、住居の確保は極めて困難である。小笠原諸島、伊豆諸島・大島など、島によっては移住情報がネット上で飛び交っている場合もあるが、基本的には島の住居に関する情報を仕入れることは容易ではない。 では何が一番の情報源かというと、結局のところ現地なのだ。現に筆者は八重山諸島や小笠原諸島に長期滞在した経験があるが、時折「入居者募集」の貼り紙が掲示板に貼られていたりしたものだ。また、筆者が滞在中に移住を叶えた知人は、島に足しげく通った挙句、築き上げた人脈からの口コミが決め手となった。この時代にいささかアナログな手法ではあるが、やはり現地で生の情報を仕入れるのが一番確実である。
収入
恐らく島への移住にあたり、最もハードルが高いとしたらコレだろう。住居を手に入れたは良いが手に職が無ければ元も子もない。
島の職場へ就職
・・・と言うものの、多くても数千人と限られたコミュニティの中で、働き口がそうそうあるわけではない。仮に単身での移住であれば、時給650~900円程度の住み込みアルバイトから始め、島内で人脈やコネを築き、数年がかりで島民化を達成するツワモノもいる。しかし、既に家庭を養う立場であったり、40歳を過ぎたあたりの人が時給ではつらいものがあるだろう。男性であれば漁業、土木関係、ツアーガイド、女性であれば看護師、介護士、スーパー、スナック、宿泊施設あたりの求人は比較的多い。古い考え方ではあるが、男性と女性とで仕事の役割が明確に分けられているパターンが、島ではより根強い。役場職員なども定期的な募集はあるが、採用数は少なく、競争率も基本的には高いだろう。それでも各ホームページや島の掲示など、小刻みに募集要項が掲載されていたりする。怠ることなくこまめにチェックさえすれば、いくら狭き門であっても、いずれは仕事を得ることが出来るだろう。
独立・開業
この働き方に関しては大きく分けて2つのパターンに分かれる。「場所を選ぶ仕事」か「場所を選ばない仕事」か、ということだ。 まずは「場所を選ぶ仕事」。これは、現地のツアーガイドや、宿泊施設、はたまた「今までにない何か」で開業するパターンだ。ツアーガイドや宿泊施設は島にとって無くてはならない存在である。恐らく島が観光地として機能する限り必要とされる仕事だ。だが、必要以上に必要ではない仕事でもある。例えば、既に民宿でいっぱいの島に、新たに宿が出来ても稼ぎようがない。また、島によっては協定を結び、「どの宿泊施設も同じ宿泊料金」と取り決めをしている島もある。協定は必ずしも守る必要はないが、いきなりやってきた移住者が、島で守っていた価格帯を乱すようでは、お互いに居心地も良くないだろう。悪い表現ではあるが、島によっては「ヨソ者」として見られ、好ましい印象を抱かれない場合もある。独立・開業ひとつにしても。周囲の”空気を読んだ”立ち振る舞いが求められる。
次に「場所を選ばない仕事」。インターネットが発達し、島々にもネット環境が整備されるにつれ、手に職を持って移住する人もちらほらと出てきた。つまりネット通販や、ネット広告、ウェブデザインなど、パソコンひとつで仕事をこなす人々が、移住し始めているのだ。それでも若干の不便はあるかも知れないが、基本的にはどこに住んでいるかは関係ない仕事かも知れない。また、インターネットを活用した仕事であれば、「場所を選ぶ仕事」に比べて、個人的な自由度も高い。特に、今までは島での仕事と言えば、ごく限られたパイを奪い合うイメージが高かったが、インターネットをうまく活用すれば、島での雇用拡大に繋げることも可能だろう。 インターネットとはやや異なるが、「場所を選ばない仕事」として、五島列島や奄美大島などではコールセンターがあり、島での雇用拡大に一役買っていたりする。
腹を括る
心構えとして大切な要素が「腹を括る」だ。どうしても島暮らしに憧れると、良い部分ばかりが見えがちである。しかし、一度立ち止まって冷静に考えることも重要だ。 筆者は八重山諸島や小笠原諸島での長期滞在の際、住み込みで働いていたが、そこでどのオーナーも口を揃えていたのが「バカンスではなく仕事だよ」ということだ。一見、至極当たり前のことではあるが、どうしても恵まれた自然、澄んだ青い海、楽しそうな観光客を見ていると、自分も身体がうずいてくるもの。しかし、先に述べたように、住居と収入を確保しなくては、住むこともままならないのだ。「島でスローライフ」と言えば聞こえはいいが、自分の生活を維持することを決して怠ってはいけないのである。実際、筆者と同じ時期に住み込みのアルバイトとして島へやってきた女の子がいたが、家族や友達と会えない寂しさ、思うように遊べないもどかしさで、あっさりと気が滅入ってしまい、予定の日数の半分も仕事をせずに帰ってしまったことがあった。もちろん、本人も悪気があってのことではないのだろうが、迎え入れたオーナーからすればたまったものでは無かっただろう。本人には申し訳ないが、これではただの迷惑だ。
これはもちろん移住者にも言えることだ。いくら競争率の高い住居と仕事をゲットしたとしても、住んでみると友達にも会いづらくなる。親戚が病に倒れたと聞いてもすぐに駆けつけることも出来ないだろう。運悪く島での人間関係に恵まれず、悲しい思いをすることもあるかも知れない。「こんなはずじゃなかった・・・。」と思う可能性が無いとは言い切れないのだ。 以上が、筆者が考える島への移住における大切な3大要素である。去る2012年06月に離島振興法改正案が可決され、施行されるに至った。法案には、島への定住を促す「離島活性化交付金」に関する項目が盛り込まれ、今後、島への移住に関する条件や難易度も変わってくるかも知れない。恐らく、島への移住に関して、各自治体とも現状よりずっと良い条件で整備していくだろう。しかし、住居と収入と括った腹を持ち備えていなければ何も始まらない。よくよく考えたい要素である。