爆音の朝
♪ いぃまじゃああああああああああああああああ
はまぁべでええええええええええええええええ
オンボロローーーオンボロボーロローーーーー
人生史上これほどの音量に襲われたことがない。急に心臓をキュッと絞られたような、はたまた急に身体じゅうに電流が走ったような、もしくはそれ以上にたとえようのない、何か。
僕は驚いて飛び起きた。
「愛とロマンの8時間コース」参加者が出発したその30分後、桃岩荘は本格的に朝を迎える。「愛とロマンの8時間コース」に参加せず、スヤスヤ眠っていた連中は爆音の目覚まし時計で起こされるのだ。
北原ミレイの「石狩挽歌」※1が桃岩荘中に響き渡る。と言っても、当時は「石狩挽歌」なんていう曲は知らなかったので、ただのやかましい演歌でしかなかった。おそらくこの爆音は、近所に一切建物がない桃岩荘だから許されるものだと思う(笑)。
その30分後にはラジオ体操も始まり、どんな寝坊助さんでももう起きるしかない。
けれど、意外とこれが体に合っている気もするのだ。朝は身体が良く動く、外の空気も気持ちいいじゃないか。これってもしかして桃岩荘パワー?細かいルールは一見わずらわしくも感じるが、開き直って桃岩荘に染まった方が楽しめるのだ。
朝食は桃岩時間で5時40分~7時20分※2。適当なタイミングで済ませて良いが、その間にも大掃除大会と称する掃除の時間がある。
「ゆっくりと寝かせて」・・・は通用しない!
何せ、桃岩時間で8時40分には新たなお客さんが第一便でやってくる。桃岩荘としても、それまでに一定の作業を済ませなくてはならないのだ。
「いってきます」
荷物を背負い、チケットを渡して帰りの船に乗り込むと、客室に荷物を放り投げてすぐさまデッキへ。もはや船に乗り込んで「はい、サヨウナラ」とはいかない。最後の最後まで手を緩めないのだ。
すっかり桃岩荘に染め上げられ、たくましくなって(?)島を出ていくお客さんと、精鋭ヘルパー陣&連泊のお客さん。
船と港で向かい合い、最後の「歌と踊り」が始まる。最初は意味が分からなかった『月光仮面』も『どんぐりころころ』も、今ならなんとなく歌って踊れる。羞恥心は明らかに薄れていた。
そして、
徐々に船が離れていく。
「それではどうかお気をつけて!行ってらっしゃい!!」
♪ 遠い世界に 旅に出ようか
そうそう、桃岩荘を出る時は「いってらっしゃい」「いってきます」だったっけ。
その流れで旅立ちの曲「遠い世界に」を歌い始める。
曲調や歌詞も今ならピンとくる。桃岩荘で過ごした時間が頭の中を駆け巡っていく。そしてこの踊りのなか、絶妙なタイミングで船が走り出す※3。
「いってらっしゃい」「いってきます」
「またこいよ」「いってきます」
「いってらっしゃい」「いってきます」
最後の最後、お互いが見えなくなるまで大声を張り上げる。
最後までちょっとクサく、なかなか豪快な桃岩荘。
羞恥心を棄てれば、たしかにここは楽しい場所だった。
「また来いよ」
必ず、また帰りたい。
完
~~~ 桃岩用語 ~~~
※3 絶妙なタイミングで船が走り出す → この別れ方が何だか絵になるんです。。
※1 北原ミレイの「石狩挽歌」
→ 石狩地方のニシン漁を通じて夢を追うも叶わぬ男と、それを見届ける女の
悲しい歌。
そんな歌がなぜ朝に爆音で流れるのかは不明だが、桃岩荘自体がニシン番屋を
改装して作られた建物だけに、情景をイメージすることが出来る(?)。
※2 朝食は桃時5時40分~7時20分
→ 朝一番で「愛とロマンの8時間コース」に参加するメンバーが食べるので早い。
圧縮弁当も同時に出来上がっているため、ヘルパーさんの朝も相当早いと
思われる。
※3 絶妙なタイミングで船が走り出す
→ この別れ方が何だか絵になるんです。。
【シリーズ】棄てるものは「羞恥心」!桃岩荘に泊まる。
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