最初は「ちょっとビビってた」
「絞ったっばかりのっ!」 ♪絞ったばかりの~
「夕陽のっ赤がっ!」 ♪夕陽の赤が~
「水平っ線からっ!」 ♪水平線から~
「もれってっいるっ!」 ♪もれ~て~いる~
眼の前には桃岩荘の西側いっぱいに広がる水平線。沈みゆく夕陽。昼間は碧く輝いた海も徐々に光が減って黒々と、しかし光を散りばめながら夕陽に映えている。水平線の向こう側は何も見えない。雲もない。こんなに良い景色の日はなかなかないらしい。
ヘルパーさんが弾くギターがじゃんがじゃんがと鳴る。男も女も肩幅に足を広げて、膝でリズムを刻む。ひーふーみー・・・って30人以上はいるな、こりゃ。観光協会でもらった資料によると夕陽が沈む時刻は「18時32分」とある。うわ、本当にちょうど18時32分だ。いや、桃岩時間だと19時02分※1か。桃岩時間ややこしいわ!・・・って、自分もいつの間にか歌ってるし踊ってるし。
桃岩荘に滞在して2日目の夕方の「夕陽の儀式」※2のころには、僕もすっかりそのペースに溶け込んでいた。最初は「ちょっとビビってた」ぐらいだったのに。
案外落ち着ける場所もある?
僕らが桃岩荘に到着したのは、上記の夕陽の儀式からさかのぼること1日と8時間ほど前。たったそれだけの時間で、すっかり桃岩荘ペースを楽しむことになるのだが、訪れたばかりの桃岩荘にはまだまだビビっていた。
「お”ぉ-ら”ぃッ!お”ぉ-ら”ぃッ!ストップ!だぁい成功ッ!はぁく手!イェイ!」
新規のお客さんを乗せたブルーサンダー号エースが桃岩荘に到着した。桃岩荘で待っていたヘルパーさんとお客さんらが僕らを出迎える。もちろん普通のお出迎えではない。とにかく、どう考えてもテンションが高すぎる。そりゃあ、仕事にしろ趣味にしろ、全力で打ち込むというのは格好いい。僕だって、高校まで運動部で過ごしてきた。「常に全力」は理想的だとも思う。いや、それにしてもちょっとくらい、ちょっとくらい手を抜いても良いんじゃないか。別に少し手を抜いても誰も責めないよ。もう十分よくやってるよ。
頭の中でそんなことを言いたくなるほど、ヘルパーさんの熱量は素晴らしい。桃岩荘独特のというか、他に見たことのない新型テーマパークのような勢いを感じた。何より、ヘルパーさんではないお客さんまでもやはり同じノリだ。お客さんもこうなのか!! 老若男女関係ない。これが羞恥心を棄てた人間の堂々たる態度。もうこれ以降は詳しく述べないが、今のところ、礼文島は究極のエンターテインメントアイランド、桃岩荘はクレイジーテーマパークだ。体力がもつか、いよいよ心配になってきた。
以降も細かい(?)ルールが並ぶ。施設を出る時は「行ってきます!」と言い、帰ってきたときは「ただいま!」。何故??と思ったが、よく考えたら当たり前のことか。もちろん、最初は小声だったが、「行ってきます!」「行ってらっしゃい~」「ただいま!」「おかえりなさ~い」
・・・ん、悪くないかも。よく考えれば、実にほのぼのした風景かも知れない。
その日は前後の予定が詰まっていたこともあり、のんびり過ごした。すぐ手前の海岸線に降りれば昆布が打ち上げられている。この地域でしか採れない利尻昆布だ。当たり前だが、南の島とはまたちょっと違う味わいの景色が広がっている。
近くには女性ヘルパーで運営されている喫茶店※3があったので、お邪魔してスイーツを堪能した。なんやかんや心配したけど、落ち着ける時間もあるやんか。
いや、ここで一度リラックス出来てよかった。 夜は夜で激しい時間が待っていたのだから。
~~~ 桃岩用語 ~~~
※1 桃岩時間だと19時02分
→ 桃岩時間は(何故か)正規の時間から30分早めた時間が設定されている。
例えば、船の出港時間を確認する際も、8:40出港なら「桃岩時間で9:10
出港」となる。
素直に時計を30分早めて行動する人もいれば、「結局のところ何時?」と
確認しあう人も・・・。
※2 「夕陽の儀式」
→ 礼文島の西側、海岸線沿いに建つ桃岩荘からは夕陽が沈む様子を見ることが
出来る。ただのんびりと眺めるはずもなく、もちろん桃岩式でその時間を
過ごす。
※3 女性ヘルパーで運営されている喫茶店
→ 喫茶店「Ben & Joe House」
(詳しく触れませんが、気づく人は気づくギャグ)
意外とオシャレな空間で、本館の桃岩荘とはまた違った空間を演出してくれる。
【シリーズ】棄てるものは「羞恥心」!桃岩荘に泊まる。
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★その2(案外落ち着ける場所もある編)【旅レポ】
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