「魚の歯を磨くことが出来る場所があるんだけど知ってる?」
同じ宿に宿泊するお客さんからそんな質問を受けて思わず「はい?」と聞き返してしまった。その時、父島には滞在して3か月近く経過していたが、そんな話を聞いたことがなかった。なんでも、魚の歯を磨くことが出来る場所があるらしい。
歯を磨く魚?またまた~
そもそも、魚って歯を磨く必要があるのか。いや、たぶんない。この世界の大海原で泳いでいる魚たちのうち、どれほどが一生のうちに一度と歯を磨くか。磨くわけがない(即答)。とても気になる話題だった。3か月滞在している間に、自分なりにと島を動き回ったが、一切出会うことは無かった場所がまだあったとは。そんな感覚だった。
場所は小笠原水産センターだという。小笠原水産センターは港から徒歩5分。静かな場所だし、研究だ開発だ漁業だと、およそ観光客には関係のない場所だと思っていた。ところが侮ることなかれ、小笠原近海で獲れる魚の展示やアオウミガメが泳ぐ水槽など、小笠原ならではの展示物も多く、実は楽しめる。水槽の中の魚たちにエサをやる様子は圧巻で一見の価値ありだ。
ただ、魚の歯磨きはどこなのか。館内の展示の水槽を探したが、それっぽいものは見当たらなかった。
「あっ、歯磨きは建物の外ですよ。」
と、職員さんに言われて初めて気づく。実は水産センターの敷地内に入ってすぐの水槽がその場所だった。
「や・・・やさしく磨いてね。」
魚はアカバだった。日本ではアカハタと言う名で通っていて、中南部ではよく見られる魚らしい。小笠原ではポピュラーな魚で、煮つけや唐揚などで食される。水槽横にはブラシが置いてある。これで磨けというのか。
早速・・・とブラシを近づけると、口をあんぐりと開けるアカバ。えっ、自分から?かつて飼っていた金魚とかメダカなんかは水槽越しに指を近づけるだけで逃げられたのに。
かっ、かわいい・・・!!
看板には「優しく磨いてね」とあるが、確かにえづいたりしないものか。誰かに口の中にモノを突っ込まれるなんて、割と気持ち悪そうなものだが。
しかし、アカバの出っ張った眼はとろんとしているのがわかる。犬の喉をさすってやった時と同じ、気持ちが良いであろうことが伝わってくるのだ!! 魚ってこんな表情出来るのか!!
水槽では。小笠原ではアカバより何倍も有名なアオウミガメも泳いでいたが、もはや僕はアカバのとりこであった。アカバ・・・癒されるわぁ。
そして、その後は何か疲れることや嫌なことがあればアカバのもとへ行った。歯のほかエラや胴体を磨いても喜ぶ奴もいた。そしていつの間にか、今度は新しいお客さんに「魚の歯を磨ける場所があるんだけど知ってる?」と聞くようになった。もちろん「はい?」と聞き返される。
小笠原水産センター(飼育観察棟)
●休館日:なし●営業時間:8:30~16:30 ●アクセス:父島二見港下船、徒歩5分
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