マグニチュードには得意不得意があるのです
震源域からの距離や地殻構造によって異なる「震度(揺れの強さ)」では、地震そのもののエネルギーを比較することができません。そこで考案されたのが地震のマグニチュードです。
地震のエネルギーの大きさをストレートに表現する指標であるはずなのに、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、気象庁が発表するマグニチュードが時間経過とともに何度も修正されました。緊急地震速報を出す際に算出されていた地震の規模はマグニチュード7.2。すぐに再計算して出された速報値はマグニチュード7.9でした。その後暫定値としてM8.4と発表されますが、11日の17時過ぎにはM8.8に再修正。さらに3月13日にはモーメントマグニチュードによる数値に修正されてM9.0になりました。(データは気象庁長官記者会見要旨による)
地震のマグニチュードは、0.2上がるごとにエネルギーが約2倍になります。マグニチュードが1.0上がればエネルギーは約32倍、2.0上がると、なんと約1,000倍!のエネルギーということになるのです。東日本大震災では、地震直後に低めに発表されたマグニチュードが、その後発生した津波の規模を小さめに見積もってしまう一因となったという指摘もあります。
実はマグニチュードにはいくつか種類があって、ものによっては巨大地震クラスの地震の規模を正確に表現できないものもあるのです。地震学者チャールズ・リヒターが考案した最初のマグニチュード。これはリヒターマグニチュード(Ml)と呼ばれます。しかしMlはサンアンドレアス断層という特定の震源に対して考案されたものだったので、より汎用性の高いマグニチュードを地震学者が考え出しました。
たくさん種類があるマグニチュードのどれが正確なのか
代表的なものには、地震のP波やS波に着目した実体波マグニチュード(Mb)、地震の揺れのうち約20秒周期の大きな揺れに着目した表面波マグニチュード(Ms)、マグニチュード7レベルの地震までなら正確かつ迅速に計算でき、日本で約80年にわたって一貫して利用されてきた気象庁マグニチュード(Mj)、地震で実際に動いた断層変動そのものから計算するモーメントマグニチュード(Mw)などがあります。地震で発生する振動には、さまざまな周期の成分があるので、どの周期の波に注目するかによって数値の現れ方が変わってきます。つまり、マグニチュードには得意不得意がありるのです。
私たちが「地震だ!」と感じるグラグラとした揺れを表すのにはMbは有効です。しかし地震の規模が大きくなると、エネルギーが大きくなった分を表現できない「頭打ち」と呼ばれる現象が出てきます。一方Msは、高層ビルや巨大建築物に被害を及ぼす長周期地震動を捉えるのには有効ですが、グラグラ地震の規模を表現するには向いていません。Mjは大地震クラスの地震までなら有効な指標となりますが、それ以上の規模になると、やはり頭打ち現象が発生してしまいます。Mwは、地震によって実際に破壊された断層の強度と大きさから計算されるので、巨大地震や超巨大地震クラスにも対応可能な指標です。しかし、世界各地で観測された地震計のデータから震源域の大きさや破壊規模を推定して計算するので、発表するまでに時間が掛かってしまいます。
マグニチュードを確認するよりも、すぐに逃げた方がいい場合
うーん、決め手がない、というのが正直な印象ですね。しかし、あなたが地震学の研究者ではなく、大地震とそれに関連して発生する災害から、自分と大切なものの命を守ることを第一にお考えなら、速報値としてMjで7.0を超える地震では、実際のエネルギーがもっと大きい可能性があることを考えた上で、適切に行動することをおすすめします。地震が発生した時、まず心がけなければならないことは、激しい揺れが継続する数十秒~数分の間を何としても生き延びることです。揺れがおさまった後は、次にやってくる危険、津波や大きな余震、崖崩れ、液状化による建物の倒壊などから命を守ることです。
これらは本震によって解き放たれたエネルギーによって規模が変わってきます。そうは言っても、地震の時にテレビなどの地震情報を見る余裕があるのは、震源域からある程度離れたところにいる人だけでしょう。震源に近いエリアでは、情報を確認することより、とにかく避難することを優先しなければならない場合も多々あります。
そんな時に、本震後の危険をはかる目安となるのが、本震の継続時間。どれくらい長く揺れが続いたかです。 M8.0を超える巨大地震やM9.0以上の超巨大地震では、地震で破壊される断層の面積(震源域)が巨大化します。震源地から始まった断層破壊が震源域の端まで到達するまでに時間がかかることになるので、揺れる時間も長くなるのです。大きな揺れが長く続いた時には、巨大地震や超巨大地震かもしれないと考えて、生命を第一に考えた適切な避難行動をとるようにしてください。