――難しいハードルを一つひとつ乗り越えていてすごいなぁ~。文野さん「僕は」と主語を使われていますが、10代の頃、自分自身をどのように語っていらしたのですか?
「自分は」と言ってました。体育会に所属していたこともあって、なるべく一人称を使わないようにしていました。その頃は、大人になったらどうなる…という想像は全然できず、大人になれないと思っていました。子どもの頃はカッコイイ身近な大人に憧れるものですが、ロールモデルの不在、お手本になるような大人が見えなかったというのが大きな原因だったと思います。女性として歳を重ねていく未来は想像できなかったし、男性として生きていくという選択肢があるのも知らなかったので漠然と30歳の誕生日くらいには死ぬんだろうなと。それ以降生きる自分のイメージが一度も持てなかったんです。
――なんか、泣けてしまうお話です。希望が抱けなかった時間が長かったと思いますが、何かきっかけがあってそれが前向きに変われたのでしょうか?
劇的に何か出来事があったわけでなく日々の積み重ねです。両親には最初、頭がおかしいから病院へ行けと言われたこともありました。それでも少しずつカミングアウトできるようになって、身近な友達に伝えて受け入れられるようになっていって。その後両親も文野は文野だから…と理解を示してくれるようになりましたが、それでも社会的マイノリティとしてこの先幸せになれるのか?と親はずっと心配していて…本当の意味で理解してもらえるようになったのは30歳過ぎてからですかね。お恥ずかしながら僕が経済的にもちゃんと自立できたころでした。こうやって時間をかけながら周囲に受け入れられるようになり、それによって自分自身も自己肯定感を取り戻していった感じです。
――経済的な自立をすると親への感謝も生まれますよね。ご自身のお子さんを含め次世代の子どもたちへの思い、聞かせてください。
僕は我が子にこうなってほしい!というのは全然ないんです。でも、こうなりたいという願望を妨げる障害物は、大人の責任として取り除いておいてあげたいと思ってます。例えば、女の子だからという理由で何かできなかったり、日本人だから、トランスジェンダーの子だからという理由で差別を受けるようなことがないようにしたい。基本的には本人がやりたいものを見つけて全力で取り組んでもらえたらハッピーです。我が子に限らず、次世代の子どもたちすべてがそうなれるような社会を準備したいと思っています。
――最後に、子どもの習い事についてはどんなお考えをお持ちですか?
習い事については3つあります。一つはどんな人生であっても健康第一ですよね。なので水泳や体操など早い段階から健康な体作りができる習い事はさせたいなと。うちは先日初めて親子スイミングを始めました。この先も本人が興味をもつスポーツはさせたいと思ってます。二つ目は、自分と同じ苦労をさせたくないという思いで、英語です。どれだけ翻訳ツールが発達したとしても目の前の人と対話するにおいて言語は大事なコミュニケーションツールです。普段からYouTubeチャンネルで子ども用の英語動画などを流して自然に英語に馴れる環境にしています。既に英語の歌を歌ったりして羨ましいほどですね。三つ目は、ダンス。これも自分ができなかったからなんですが、バックパッカーで世界を旅していた時に、言葉がわからなくても踊ったり楽器を弾くことで現地の方とコミュニケーションをとっている人がいて「いいなぁ」と羨ましく見ていました。非言語のコミュニケーションツールがあるって強いなと。コロナもあり、この先更にどんな世の中になるか、誰にも予測がつきません。だからこそ、どんな時代になったとしても世界で生き抜ける「人間力」やサバイバル能力を身につけてほしいです。あとはうるさい事は言わずに、本人の好きなことを全力で応援してあげたいと思ってます。
編集後記
――ありがとうございました!私にとっては第一印象から「イケメンでマイルドなお人柄のフミノ君」でしたが、その歴史を紐解くと想像を超えたストーリーがありました。カミングアウトできない人も多くいるLGBTQを牽引するリーダー的存在として、これからもいろいろな形でマイノリティーの声を伝えてくださることでしょう。ますます賑やかになる新しい家族の形、応援しています!
2020年10月取材・文/マザール あべみちこ
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このページは株式会社ジェーピーツーワンが運営する「子供の習い事.net 『シリーズこの人に聞く!第178回』」から転載しています。
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女として育てられ、現在は男として生きるイツキ、28歳。勤務先の旅行会社には「過去」は告げていない。2歳上のパートナー女性、サトカはイツキを愛しつつも、出産への思いを募らせていく。職場、恋人、両親…。社会や家族と生身で向き合った先に、イツキは光を見出せるか。