四季咲きナデシコの花言葉

彼女と彼女たちの物語

☆★☆ 彼女たちは今日も咲く。昨日も一昨日も、去年も一昨年も、七年前にも咲いたように、明日も明後日も十年後にも。

☆★☆ デジタルカメラの彩度調整が効かないくらいのコントラストで、色としてはピンクなのに、ルビーのように鮮やかで、まるでアンディ・ウォーホルの『花』みたいにビビッドね、と褒められたりもして。

☆ 七年前の夏、彼女は津波で壊滅した場所で花が咲いているのを見つけた。夏の日差しを浴びて鮮やかなピンク色に輝くその花を、彼女は仮設住宅に持ち帰った。彼女たちと彼女の付き合いはその日から。その日から今日までずっと。

——石巻なら「ど根性ひまわり」、越喜来なら「ど根性ポプラ」。津波を乗り越えた植物には、「ど根性」が冠されることがある。それは、名づけた本人が、負けなかった植物からど根性と勇気をもらったから、あるいはもらいたいと思ったからに他ならない。

☆★☆ その点、陸前高田の四季咲きナデシコには「ど根性」はちょっと似合わない。だってなにしろナデシコですもの。ど根性ナデシコなんて呼ばれたら、いま以上にビビッドなピンク色に頬を染めてしまうだろう。

☆ だけど案外、彼女の方は「ど根性」。仮設住宅に持ち帰り、災害公営住宅に入居して今年で二年、都合あれから七年間、ずっと彼女たちを育ててきた。

☆ 朝はラジオ体操がはじまる頃には彼女たちの世話をはじめている。ラジオ体操の音楽が鳴っても、体操より彼女たちのお世話が優先。

☆ もうこの時期になると、早朝から紫外線が強いから、麦わら帽子に長袖、長ズボンはもちろん、紫外線防止のスカーフにアームカバーに手袋と完全装備。体操が終わって彼女にあいさつすると、麦わら帽子の下から彼女の上気した顔が現れる。

——震災の前から「すてきな奥さま」でとおっていた彼女だけれど、彼女たちのお世話のためならエンヤコラ。麦わら帽子に紫外線対策ボディアーマー完全装備で、まるでサウナに入ってるみたいに暑くてもエンヤコラ。

☆ このナデシコは四季咲きなの。次から次へと毎日のように咲くんです。咲いた花は枯れるでしょ。枯れたままだと美しくないから取り除く。見た目がよくないということもあるけれど、花が終わった後、そのままにしておくと、種に栄養が行くようになって次の花が咲かないの。終わった花を摘み取ることで、栄養が他の花芽に回るようになる。つまり、株が横に広がっていくというわけなのね。

これからは、彼女たちと彼女たち

——彼女にお世話してもらった彼女たちはどんどん殖えていった。いまや岩手県下最大の災害公営住宅の1棟分の横幅に匹敵する。さらに、お隣の棟からも「移植してほしい」「いっしょに育てたい」との声がかかった。

☆★☆ 彼女たちは今日も咲く。昨日も一昨日も、去年も一昨年も、七年前にも咲いたように、明日も明後日も十年後にも。

——それは、彼女たちをお世話してくれる彼女がいたから。でもこれからは、彼女の方も「彼女たち」。彼女が彼女の友だちと一緒に彼女たちになったので、彼女たちをお世話するのも彼女たちと、人称代名詞では区別がつかなくなってしまうけれど、そんなことは心配するに及ばない。

☆★☆★☆★ 彼女たちが彼女たちをお世話する。お世話してもらった彼女たちは、彼女たちに最高の笑顔でこたえる。ビビッドで超元気になれる笑顔で。そうやって、彼女たちと彼女たちがかかわり合って、明日も明後日も十年後も花が咲く。

♂ おっと、おっちゃんたちも兄ちゃんたちも坊ちゃんたちも参加せねばね。

四季咲きナデシコの花言葉は……

ちなみに四季咲きナデシコの花言葉には、「純潔」「貞節」「大胆」「純愛」などがあるらしい(「美しい花言葉・花図鑑 彩りと物語を楽しむ」(二宮孝嗣著 ナツメ社)p.149より)。なかなかいいじゃないですか。

東北の被災地の物語から教わった、次の三つも追加させていただきましょう。

四季咲きナデシコの新・花言葉。「いのち」「献身」「ど根性」

「ど根性」だってよ……ぽっ♡