神戸からのお客さんの到着は朝の6時過ぎ。夜行バスで陸前高田までやってきたからだ。そんな早朝にやってる店もなく、イベントが始まるまでの間、被災した町の様子を見て回ることに。
震災遺構として残される道の駅タピック45の駐車場に入ると、ずらりとバイクが並んでいた。その中に知り合いの顔。
「吉木さ〜ん」と声をかけると、祭り組で知り合った吉木さんが笑顔で近づいて来る。神戸からのお客さんを紹介。すぐにいつものギャグまじりの会話が始まった。
今日は久しぶりにチームで集まって、20人で塩釜までツーリングなんだとか。メンバーは40代を中心に20代から50代。学校の先生や親子で参加する人もいるという。
メンバーがライダースーツの上にまとっているそろいのベストのデザインがなかなかイカしている。「車」って何なの?と聞くと、
「リーダーがさ、ほら車屋のエーキさんだからね」
車屋というのは自動車屋という意味ではない。車屋は陸前高田で知らない人のいないくらい有名な居酒屋「車屋酒場」のこと。そして、車屋酒場が有名なのは、店主のエーキさんがとてつもなく有名な人物だから。
造成が進むかさ上げ地に本設店舗を出すことになっていること、年下の人たちはエーキさんの前に立つとなぜか「気をつけ」の姿勢になってしまうようなそんな人であること、矢沢永吉に心酔していること、店内には触ってはならないギターがあることくらいをざっくりと説明しただけで、神戸からのお客さんはエーキさんがどんな人なのか吞み込んだらしい。
まだまだ寒い3月の朝、震災遺構のタピックの駐車場にずらりとバイクが並ぶ。学校の先生や親子ライダー、東北に1台しかないという名車に乗る人、そして初対面とは思えないギャグまじりのおしゃべりをしてくれる吉木さんなどなど。エーキさんはまだ来ない。エーキさんが来るまで待とうかとも思ったが寒すぎるから止めた。エーキさんには車屋酒場に行けば会えるから。
神戸からのお客さんは言った。「なんかええわ〜」
吉木さんと、リーダー不在の車屋酒場バイク軍団は、神戸からのお客さんが陸前高田に到着してから初めて会った人たちだった。