12月24日、25日のクリスマス本番の2週間前の日曜日、陸前高田や大船渡に接する内陸の町、住田町で開催されたクリスマス会。イベントに町の名前を入れこんだ「メリークリスミタ!」は熱気にあふれていた。
町民や町に関わりのある人たちによる音蔵(こちらも蔵の町住田にちなむ。音の蔵と書いてねぐらと読む)の演奏には、バンドのメンバーの友人たちもそうでない人たちも熱烈な拍手を送る。
バンド演奏が盛り上がる客席では、町長がイベントのスタッフと記念撮影をしている。その輪の中に、地域の区長さんやその知り合いの人なんかが加わって、演奏に拍手を送りながらの撮影大会みたいな様相になる。
ステージの周りでは、お菓子の家づくり、お菓子のリースづくり、落ち葉アートなどのワークショップが行われていて、小さな子どもたちとお年寄りたち、もちろん町の若手の人たちも笑顔いっぱい。
ちなみに会場は町役場の玄関ホールだ。ビジターであるわたしですら、友人や顔見知りの人が何人もいたくらいだから、参加者同士はおそらくほぼ全員が知り合いだったにちがいない。
いいなあと思った。
参加者がほとんど顔見知りなんて、小さな町だからこそ。自分が生まれ育った九州の都市ではありえない。たとえ100万都市じゃなくても、たとえば陸前高田や大船渡でも、来場者のほぼ全員が知り合いという状況はありえない。イベントのお手伝いをしていても会場の所々で「久しぶりだね」という声が聞かれる程度。
町役場でクリスマス会が開催されることもそうだが、会場が一体感に包まれるなんて、こんなハッピーなイベントはなかなかないだろう。
ただ、陸前高田や大船渡で被災して、住田町の仮設住宅に暮らしている人の顔は、少なくとも私の知る限りクリスミタの会場にはなかった。
小さな町だからこその盛り上がりではあるのだが
後日、「住田のクリスマス会よかったですよ」と陸前高田の仮設で商売を続けている人に伝えたところ、話はころころと流れて、これからの町の再生の話題になった。
「世田米や八日町(いずれも住田町にある古くからの中心市街地)の町並みは美しいし懐かしいけれど、いかんせん人が少なすぎる」
人が少ないからこそのクリスミタの盛り上がりだったし、震災後は外部から移住する人もちらほらいる。今も大企業のボランティアがやってくる。人の交流という意味で、住田町はいい方向に向かっているのでは?
「住田町の人口は6000人を切ってるんだよね。それに過疎地域にも指定されているし、経済としては大変なんだろうな。だって住田の人ってどこで買い物するの? 若い人はほとんどが遠野だろ」
遠野はスーパーマーケットの激戦地らしくて、たしかに買い物品が安い。店が多いから品揃えも豊富。その上ガソリンも県南部ではおそらく最も安い。わたしも住田までくればついでに遠野まで足を伸ばして買い物することもある。
「もう少し特別なものを買おうと思ったら、北上や盛岡まで足を伸ばす。だって車社会だから、若い人はとくにそうだと思うよ。地元の活性化をなんて言ってる若い人たちに、休日はどこで買い物してるのって尋ねると、やっぱりみんな内陸部まで行ってるんだから。それじゃ沿岸部はさびれていくよね」
彼が言いたかったのは、これから新しく造られていく陸前高田の「中心市街地」に果たして地元の人が戻ってくるのか、ということだった。
たしかに、住田町で一番栄えているはずの世田米でさえ、日中でも人の姿を見かけることは稀だ。
「うん、高田だってね、一番栄えていた駅前通り、あそこもね、震災の前から人通りなんてなかったもの。通りの端から見渡して、『あ〜今日は人がいるなあ』って人数を数えられたくらい」
それを言うなら、商圏として住田を呑み込んだことになっている遠野でさえも、イベントがない日や、ショッピングセンターが休みの日にはほとんど人の姿を見かけない。
震災からの復興が進められている沿岸部では、震災で破壊された町の再生というテーマとは別に、震災前から深刻だった人口減少という大きなテーマがある。震災後のまちが経済的に復活する上では、人口の問題の方がより大きな足かせかもしれない。
調べてみると、岩手県で過疎地域に指定されている自治体は18もある。みなし過疎や合併前の過疎地域を含む自治体まで含めるとその数は22。県内33の市町村の3分の2が過疎地域という計算になる。遠野市や住田町はもとより宮古市、釜石市、一関市も花巻市もそうだ。被災した地域で過疎とされていないのは、陸前高田市、大船渡市、野田村だけだが、震災による人口流出は今も続いている。
小さな町にならざるを得ない状況で
震災前には2万人以上だった陸前高田市の人口は1万9000人台になり、さらに減少傾向が続いている。イベント等のチラシを学校に配布する際に、各学校ごとの生徒数を調べたることがあるのだが、低学年になるほど児童数が少ないところや、複式学級になる基準は児童数何人なのかと心配になる小学校もあって愕然としてしまう。
「人口1万9000人台というのは住民票がある人数ということで、実人口は1万8000人くらい。人口推移の将来予測よりもずっと早く、1万5000人台まで減少するだろう」と、町の事業者やNPO関係者は予測している。
先日、宮城県でこんな話を聞いた。
「陸前高田って知名度は高いけど、実際は小さな町なんだよね。石巻市と比べると人口は約10分の1。石巻市の渡波とか蛇田といった地域ひとつ分くらいの規模なんだね」
陸前高田の人口が遠からず1万5000人ほどに減少してしまうとしたら、住田町が3つくらいの人口規模ということになる。大船渡でもその倍くらい。
人口規模を維持するのだというのは石巻では市としての方針だ。岩手の沿岸部の自治体でも人口を増やさなければ町として立ち行かないという意識は非常に強い。
しかし、人口減少が日本全体で進むとしたら、被災した東北沿岸部だけが人口増加あるいは人口規模の維持を実現するのはかなり困難な道であることは間違いない。
「コンパクトシティ」なんていうカタカナで耳触りのいい言葉ではなく、人口が減っていく状況の中で町を再生する方策を真剣に考えていかなければならない。
話はぐるりと回ってしまうが、小さな町だからこその魅力というのも、アイデアの素くらいにはなるのではないか。経済活動を考慮しなければ、ただのおとぎ話にしかならないのだろうが。