気仙沼で大島行きのフェリーに乗って、海からの気仙沼の景色を眺めて以来、虫眼鏡で何かをさがすように地上を歩くだけではなくて、別の場所から眺めることも大切なんだと思うようになった。
岩手県山田町に行った時にもそう思ったのだが、急に思い立ってのことだったので船に乗ることなどかなわず、船宿海太郎さんにお願いしてシーカヤックで海に出るような準備もしていなくて、まるで巾着のような形をした山田湾の南側に突き出した船越半島から山田の町を眺めることにした。
巾着のようなという表現は山田湾を語る時には欠かせない形容句。湾口が小さくすぼまった中、波の静かな湾が広がる。湾の中にはオランダ島と呼ばれる島も浮かぶ。外国船が漂着したことからそう呼ばれるようになったという島は、震災前、夏になると海水浴客が船で渡る島でもあったという。
秋の雨模様のその日、オランダ島にはうっすらとした霧がかかっていたが、穏やかな入り江にはたくさんの養殖イカダがあって、その向こうにかすかに山田の町並みが見渡せた。海岸線に白いラインのように見えるのは新設された防潮堤。町中で見ると海と陸地を隔てる高い壁のようにも見えたものだが、デジカメの画像を拡大してもあるやなしや、実に心細いものだった。その向こうには何棟かの災害公営住宅の姿も見える。霧雨の彼方に広がる山田の町は、穏やかな入り江に満ちている海と同様、静かなたたずまいであるように思われた。
しかし、写真の左端、つまり湾の南西側の海岸まで車で走ってみると、そこには壊れたままの美容室の建物。湾の北側には地盤改良のための杭打ち機が林立していた。そんな辺りから眺めてみても、海は穏やかで、養殖イカダのブイが海の暮らしが取り戻されたことを静かに語りかけてくるようだ。
静かな海と動きの盛んな陸地。そのどちらもが今の山田町なのだという当たり前を受け止めるしかない。