ほや塩ソフトの濃厚でパンチの効いた味わい

とれ立てのホヤからつくった味わい深い塩がふりかけられたソフトクリームが、めちゃくちゃ美味い。

産地・東北以外の方には、ちょっとクセのある食べ物というイメージもあるかもしれないホヤ。しかしホヤは海のミネラルをそのまま凝縮する仕組みを備えたきわめて稀な海の生物。海の底に根を生やし入水管から吸い込んだ海水から栄養分を吸収して、老廃物を出水管から排出する。だからホヤの体は海水の栄養と滋養だけでできているといっていい。新鮮なホヤの刺身の味わいが、海のにがりの味にも似ているのはそのためだ。

そんなホヤから作られた塩が、天日干しの塩よりもさらに味わい深いのは当然だ。海水のミネラル分を、ホヤの体と天日干しで二段濃縮されたわけだから。そして驚くべきことにこの塩、ホヤのクセがまったくない。

そんな贅沢なホヤ塩をソフトクリームにぱらぱら。

噂を聞いて何が何でも食べたいと思った。そのソフトを開発し販売しているのが、あの女川のおちゃっこクラブだと聞いてますます食べたくなった。

おちゃっこクラブについては3年前の記事に詳しいのでぜひご覧を。

さて、久しぶり(といっても年に何度かは行っているが)のおちゃっこクラブではいつも通りママさんの岡さんが出迎えてくれた。ご挨拶も早々に「ほや塩ソフトクリーム」をお願いする。写真を撮ってる間にどんどん溶けていくソフト。写真を確認するのももどかしくぺろり。

なんて濃厚なソフトクリームなんだ!

最初にガツンとやられたのはソフトそのものの味わいだった。清里とか蒜山とか、この世には濃厚さが売りのソフトクリームは数々あるが、ほや塩ソフトクリームの濃厚さは群を抜いている。

そして、ほや塩が醸し出すその味は「海そのもの」。思いっきり海で泳いで、ふらふらしながら浜に上がる時にふわっと感じる海の香りのような、ビーチでうたた寝した後に感じるちょっとヒリッとする日焼けのような、そんな味。

めちゃくちゃうまい、としか言いようがない。

思わず「うまい」と声に出してから自然と気づいてしまうのだ。このホヤ塩の味を生かすための濃厚なソフトであり、濃厚なソフトを生かすためのホヤ塩なのだということを。ホヤ塩とソフトがない交ぜになった、これぞ海の味。それがおちゃっこクラブの「ほや塩ソフトクリーム」

このソフトを食べずして海の幸を語るべからず、などと大げさな主張までしたくなるようなほや塩ソフトクリーム、ぜひお試しを!

女川は海と生きる町。海と生きる女川の海の現在はこんな感じだ。真新しい駅前にはおしゃれなショッピングゾーンが誕生し、観光客も増えている。それでもあちこちに広がっているのは、再生の途上としか言いようのない現実の町の姿。

そんな女川だからこそ、ほや塩ソフトは生まれたのだと言ってもいいと思う。

たとえば上の3年前の記事で紹介されている安全靴。たとえば店内に置かれた獅子舞のお頭。いずれもおちゃっこクラブの岡さんのご主人と関わり深い物たちだ。岡さんは女川の獅子舞「まむし」のリーダーとしても、町が再び命を取り戻すために力を注ぎ続けている人物。女川で岡さんを知らない人がいたら、もぐりと言われても仕方がないくらいの人。そして、ほや塩ソフトはそんな岡さんご夫妻が作り上げた一品。

おちゃっこクラブの店先には、女川や岡さんにゆかりの品が展示、というか無造作に置かれているのだが、軒先からは大きくて立派な双眼鏡も吊り下げられている。

双眼鏡から何が見えるのか。見えるのは女川の町の現実の姿であるに相違ない。

濃厚でパンチの効いたほや塩ソフトクリームは、海とともに生き、生き続けている女川人からの強烈なメッセージに他ならない。海の塩っ辛さは中途半端なもんじゃない。だがそこには深い味わいがある。海の本当の姿、あり様、厳しさ、そして豊かさを受け止めながら、海とともに生きていくためには、そこいらの水っぽいソフトクリームみたいなんでは埒があかない。

もう一度お伝えしたい。本当の海に、女川人の今に出会いに、おちゃっこクラブへ是非!このソフトを食べずして女川を語るべからずだ。