俳優、タレント、プロボクサー、元WBC世界ライト級ボクシングチャンピオンと多数の肩書きを持つガッツ石松さん。「OK牧場!」の一言はお茶の間にすっかり浸透。ユニークな持ち味の一方で、人生を深く洞察する名言を数々発しておられます。何度倒されても立ちあがってリングで闘ってきた不屈の精神のガッツ石松さんからスタートの季節4月にふさわしい格言と、あたたかなエールを頂きました。
ガッツ石松(がっつ いしまつ)
“幻の右”と呼ばれる必殺パンチで一世を風靡した元世界ライト級チャンピオン。1949年 栃木県上都賀郡粟野町生まれ。66年プロデビュー。74年WBC世界ライト級チャンピオン獲得、連続5回防衛に成功。引退後は俳優として活躍。粟野町栄誉賞第1号(91年)。『神様ありがとう俺の人生』『人生はOK牧場!』『生き残りケンカ哲学』など著書多数。
教育とは、添え木をすること。
――ガッツさんの教育観について、今日はじっくりお話を伺います。HPにもたくさん載っていますが、ガッツさんの発するお言葉は熱くて素敵です。はじめにお聞きしますが、子ども時代に大切なことはどんなことだとお考えですか?
時代は変わっても5歳頃までの感性は皆一緒だと思います。例えば、草木はまっすぐ育ってほしいけれど、曲がってしまう木もあるから、曲がりかけているなと思ったら添え木をします。5歳頃まではまっすぐ育っても、小学校へ上がる頃は添え木が必要になります。その添え木こそが教育なのです。その教育も、昔と今では環境が変わってしまい豊か過ぎて他人のことは他人のこと。自分のことは自分だけ。昔は困っている人がいたら助け合い精神がありました。でも、今、どれだけのゴミが出ているか、知っていますか?こういう問題を私たちがどれだけ未来へ向けた自分たちの課題として考えられるか?が、教育の要でしょう。
――そういう課題について、視点を深める学校教育の在り方が問われますね。
東京オリンピック開催のあたりまではよかったけれど、高度経済成長期になって、差別と区別の違いがわからなくなった。運動会の徒競争で一緒に走らなくなったのも同じ原理です。一着、二着と優劣つけると差別になってしまうからだといいます。そういう基本的なところから皆、我を忘れてしまっているんじゃないかな。「三つ子の魂百までも」といいますが、その大切な時代に良いモノと悪いモノを教えておかないと。私は時代の中で自然と身についてきたことばかりだけど、今は「個の時代」だから難しい。子どもは大人の背中を見て育ちますから。
――幼少期のガッツさんはどんなお子さんでしたか?
姉、兄、私、弟の4人きょうだいでした。小柄でしたが負けず嫌いで喧嘩が強かった。その日暮らしの家庭環境でしたから、自分なりに過ごしていたんじゃないかな。15歳で家を出て上京しましたが、昔は口減らしのために皆がそうしていた。畑を持っていたり、お金持ちでないと家にいられませんでした。そうしてボクシングというものに出会い、かじりついた。学歴もなく、転職ができるわけでもなく、自分を出せる場はボクシングしかありませんでした。
――早くにそういう出会いがあって道を決められたのは何かきっかけがあったのですか?
5歳頃までに、うちの家庭はモノがない。よそとは違うらしい…と感じていました。卑屈になって中学校時代は悪さをして、警察や裁判所のお世話になったこともあります。喧嘩をしても、他の友達皆は捕まらずに、なぜか私だけ捕まる。貧乏人でしたから、今と違って差別があったのです。それでも父ちゃん母ちゃんが私を信じてくれました。馬鹿にされることをものすごく嫌った性分で、負けず嫌いでしたから。
粗にして野だが卑でない。
――深い意味合いをもつ文字についてたくさんご存知ですが、ガッツさんとお話しすると教訓めいたお言葉がたくさん出てきますね。
経験はその人の生きざまを教えてくれます。国鉄総裁の石田礼助さんの言った「粗にして野だが卑でない」という言葉があります。お顔は二枚目とは言い難く、足が少し不自由な石田さんが国鉄総裁に就任し、国会での初登院で言った言葉です。外見は粗暴で野蛮なように見えるけれど、腹は卑しくありません…という意味です。石田さんは国鉄民営化までの立役者で「国鉄が今日の様な状態になったのは、諸君(国会議員)たちにも責任がある」と痛烈かつ率直に発言したのです。
――JRは当たり前のように大手民間一企業ですが、そのような歴史があったのですね。ガッツさんと何か共通点がありますか?
世界チャンピオンになるということは何か特別なものがあるわけです。でも、自分でそう言っても誰も評価はしてくれません。自分の能力をひけらかさず、おバカなふりをしながら、深い視点をもつ人とつながる姿勢が大切だと思います。
――先日初めてグローブをはめてボクシングやってみましたが、体をひねってジャブを打つのは難しかった。過酷な練習でしたか?
私はそれができるよう完成するまで8年掛かりました。同じことの繰り返しですが、繰り返しやっているうちにふと気づくことがあります。例えば冊子を一度読むのと、三度読んでみるのとでは読み解く意味合いも変わってきます。最初はわからなくても、段々わかってくるものです。ジャブも体が知っていくというのかな。やっているうちに身につくものです。
――世界チャンピオンという勝者となり、プレッシャーも相当だったと思います。勝者と敗者のマインドの持ち方とは?
勝者の時は一時。ずっと勝者では居続けられません。地球も24時間動いて朝が来れば夜も来る。同じ時間は二度とないです。勝者の時は笑っていてもいい。敗者の時は言い訳せずに反省して、時期を待つのです。必ずまた明るくなる時が来ます。残念ながら、それができなかったのは清原でしょう。野球時代はチヤホヤされても、それが永遠には続きません。夜の時代になっても、謙虚でいればまた昼の時代も来る。そういう一番よくわかる見本でしょうね。
運は明るい方を求める。
――ボクサー世界チャンピオンとして努力されてきたことを教えてください。
当たり前のことをし続けることが努力です。目標に辿りつくまでは障害物もある。運もありますが、運は寂しがり屋なの。がんばっているところに寄って来る。商売ってお客さんが寄って来るように明るくするじゃない?運を引き寄せることってそういうこと。運は明るいところが好きだから。暗いところって何となく暗くなりそうだから、明るいほうに行くじゃないですか?
――「運は寂しがり屋」って確かに!明るいところに行くのも理に叶っていますね。ガッツさんにはいつも幸運舞い込んでいそうです。
運もありますが、その分努力もするし失敗もしますが、言い訳はしません。そして反省します。反省して歩んで、確認して、ジャンプして…足元を見つめ直してみる。反省して、確認せずにジャンプすると失敗します。一度、足元を見つめ直してみることがたいせつ。これが5歳頃までの経験や体験から身につくことです。
――だから幼少期の体験が大切なのですね。学校が始まると教科書の勉強が始まります。
学校の勉強はしても、文字の意味を感じる人はなかなかいないでしょう?たとえば「命」という字は、『人が一度は叩かれる』です。命がけで信用するのが人間。「吐く」という字から一を除くと「叶う」になります。これは、言い訳せずにいると物事がいい方向へ行く。こんなふうに文字から教えてもらうことは数多いのです。
――なるほど!ガッツさんは根っからの明るさで、勝運も幸運も引き寄せてこられたのですね。4月スタートの季節、子育て中の方へエールをお願いします。
今を楽しく生きることですね。お金を稼ぐためにはいろいろなことを勉強しないとなりません。今は与えられ過ぎてしまって、学ばなくなっている。「学び」とは机の上での勉強もだいじですが、自分が体験して掴んで行くもの。そういうことを学んだ人だけが、リーダーになれるのだと思います。
編集後記
――ありがとうございました! 天然でおもしろいガッツさんというイメージが先行しがちです。もちろんそういうかわいらしさも併せ持ちますが、もっと深部で体得されてきた言葉や体験が溢れんばかりで、取材でありながら楽しいお話が尽きなかったです。人生の一時は勝者であっても敗者にもなる。世界の頂点を極めた人だからこそ伝えて頂けることばかりでした。これからもどうぞお元気で「OK牧場!」なパワーを撒いてください。
取材・文/マザール あべみちこ
ガッツ石松 著
青志社 出版
定価 1,260円(税込)
発売日 2009/01/24
人生で大事なことは、「転ばないこと」ではなく、「転んだときにどうするか」だ。人生を変える48の言葉。