【シリーズ・この人に聞く!第82回】人材育成のスキルを子どものコーチングにいかす 菅原裕子さん

社員一人ひとりの能力を開発することで、組織の変化対応力を高めるコンサルティングを行う。置き換えて、子育てや自己実現を援助する活動「ハートフルコミュニケーション」を2006年にNPO法人化し展開している。ハートフルコーチの育成もしながら、子育て中の多くの親へ気づきをもたらしています。菅原さんのこれまでとこれからをお聞きしました。

菅原 裕子(すがはら ゆうこ)

有限会社ワイズコミュニケーション代表取締役
特定非営利活動法人ハートフルコミュニケーション代表理事
人材開発コンサルタント。リーダーシップ、ファシリテーション、コミュニケーション、コーチングを専門とし、研修、講演、変化に柔軟に対応出来る企業文化構築のコンサルティング活動を行う。
また、1995年より、親と先生のためのコーチングワークショップ「ハートフルコミュニケーション」を主催。各地PTAなどで講演活動を行う。
主な著書 「子どもの心のコーチング」PHP文庫、「10代の子どもの心のコーチング」PHP文庫 ほか

子どものあるがままを受けとめる

――思春期の子どもの心のコーチング」を拝読して『コーチング』って奥が深いなぁと感じています。うちにも中3の小難しい反抗期の息子がいてうんざりすることばかりです。菅原さんがハートフルコミュニケーションの活動を始められたきっかけは何でしたか?

私は長女を生後6ヵ月で亡くしています。その後、流産を経て授かって生まれたのが今27歳になる娘です。この子を育てる時にいくつか自分と約束をしました。長女を亡くした私が、その恐れとすべての期待を次女に向けることを阻止しようとする、私の本能的な力だったのかもしれません。娘が10歳になるころ、ママ友の一人が学校のPTA活動に関わっていて、「2時間あげるからいつものあの話をして」と頼まれました。でも菅原裕子が話に来たと言ってもわからないので何か名前を…と考えたのが『ハートフルコミュニケーション』でした。そのたった一回の講演が縁でいろんなつながりが生まれました。

思春期の子どもの心のコーチング(二見書房)

――悲しい出来事を超えられてきたのですね。ハートフルコミュニケーションは具体的にどういった活動されているのでしょう?

ハートフルコミュニケーションで伝えているのは子どもの自立です。そのために、「愛すること」「責任」「人の役にたつ喜び」の3つを子どもに教えることを提案しています。私は心理学者でも教育者でもありません。企業における人材開発や人材育成の仕事をしているおかげで「人」に関して多くを学ぶ機会を得ることができました。その学びに基づき、知識を深め、自分の子育てで体験したことを皆さんにお伝えしています。本に書いてあることをその通り信じるのではなく、「私にとってはどうだろう」「我が子には適応できるだろうか」と考える材料にしてほしいです。

――本の中で『子どもの自立は、ある日突然はやって来ない。親が子どもの自立を目指し、小さな時から彼らの成長に合わせて彼らの日々を彼ら自身にまかせていくとき、子どもの自立はやって来る』という一文に大変共感を覚えました。

ハートフルコミュニケーションで伝えていることの一つに「子どもをどうこうしようとするのではなく、大人がどう生きるかだ」というメッセージがあります。世の中がいうような「完璧な親」はいません。子育ての結果が出るのはうんと先です。何をすればいいか?というと自分を律すること。自分がどう生きるか。そこからどう子どもと接するかです。

――ハートフルコミュニケーションの活動では私のように子どもとの間に問題を抱えている場合の対応法を学べるのですか?

ハートフルでは自分の子どものコーチになるコースを経て、ハートフルの活動をワークショップやハートフルセッションを通じて広く伝えるコーチになるためのコース、大きく分けて2つあります。お子さんがひきこもりになってしまった親御さんが「子どもをサポートしたい」という理由で学ぶこともあります。子どもの力だけではなかなかチャンスに巡り合わないこともあるので、様々な選択肢を子どもに見せることも大切です。
私の講演は親たちをグサグサと切り刻んでいる(笑)と友人に指摘されますが、皆さん目から鱗で時には涙をこぼしながら、あるいは笑いながら自分を振り返ります。コミュニケーションの取り方を具体的に示すとなるほど!と納得されますので、早く家に帰って子どもと話したい!と思われることが励みです。

海外留学を心に決めて努力した青春時代

――菅原さんご自身のことをお尋ねしますが小さな頃はどんなお子さんでしたか?

私は三重県北部の田舎で育ちました。父は中学校教諭で社会科を教えていたのですがスポーツマンでした。1つ違いの兄の上に姉と兄もいて4人きょうだい。習い事はオルガンを習っていたけれどすぐに辞めてしまった記憶が…。受験するわけではありませんでしたが小学4年生頃から近所の塾へ通っていて、何となく学校の先生になるんだ!と思い描いていました。転機になったのは高校2年生の時です。

4人きょうだいの末っ子として育った。1歳違いの兄とのツーショット。

――高校生活でどんな転機を迎えられたんですか?

通っていたプロテスタントの女子高は語学教育が充実していました。ある時、留学先から帰ってきた先輩の留学体験と思い出の品を展示する会に参加してビックリしました。なんとパジャマを展示していたのです!(笑)それが何だかおもしろくて、海外へ行くというのはパジャマを展示したくなるほど意味があることなんだ!と目覚めました。いつか留学したいと思い、短大へ進んでから海外で2年留学して戻ってくればいいと考えました。

父は教員をしていた環境で、自分も教師になる…と漠然と思っていた幼少期。

――高校時代にやりたいことと目指す夢がハッキリあったのは幸せでしたね。

進学した京都の短大は、英語の表現伝達力いわばプレゼンテーション能力が培われるプログラムがある学校でした。そこで勉強しながら卒業して留学費用を貯めるためにアルバイトに勤しみ、学生ビザを取って晴れてイギリス留学をしたのは22歳の頃でした。

――ご自分で決めてちゃんと道筋をつけて「自立」されていましたね。イギリスから帰国後はどうされたんですか?

できることといえば通訳でしたので、『ジャパンタイムズ』で通訳の仕事を探しました。私は英語が話せるだけで専門分野があるわけではなかったので、日常生活に一番近い領域の業界だったらできるだろうと。それで人材開発のコンサルティングをしている会社が募集をしていた。それが私と人材開発の出会いです。通訳をするうちに段々「これは日本語で伝えたほうがわかりやすいし、もっと役立つのでは」と気づいて自分でやりたいと思ったのが26、7歳の頃でした。

何もしない、ぼんやりする時間を大切に

――菅原さんのお嬢様へ対しては何か教育方針はおありでしたか?

特に何をやらせるというのは無かったですね。本人が何に興味を持つかで親が何かをやらせたことは無かったです。一度だけ本人がバレエを習いたいと言ってバレエ教室に通ったことがありました。仕事をしていたのであまり教室へ見に行けなかったのですが、ある時休みを取って見に行ったらとてもつまらなそうにレッスンを受けていた…先生怒鳴っていて怖いし(笑)。それで「ここではないような気がするけど、どう思う?バレエを続けたいなら他の教室探そうか?」と話して、結局そこを辞めて別の教室へも通いませんでした。他にはピアノ、それとくもんに通っていましたね。しばらくやってみて違うな、と思ったら辞めるという感じでした。野放しで育ってきたというのかしら(笑)。

多くの親から支持を得ている子育てプログラム「ハートフルコミュニケーション」をわかりやすく解説した入門書。

――これから子どもに何かの習い事をさせる親へアドバイスを頂けますか?

子どもの気質によって習い事がきっかけで自分にぴったりのものを見つけて花咲く子もいれば、苦痛になる子もいる。子ども次第です。何でもやりたがる子には求められたら教えてあげて、好きなことをやらせてあげれば伸びます。でも別に何の習い事をしなくてもいいと思う子もいる。そういう子にあれしろこれしろと言っても逆効果。芽をつぶすことになりかねません。大人になってから自分はこれが好きなんだとわかる人はたくさんいると思う。習い事に限らず、家の中での経験も含めていろいろなことに触れさせるのが一番いいのではないでしょうか。どこにきっかけが転がっているかわからないもので、私の場合は高校がそのきっかけでした。もしあの高校でなかったら英語に触れる機会がなかったかもしれません。そのきっかけが、ずっと今の道へつながっています。

――今の子どもたちに思うこと、何かございますか?

子どもってぼんやりする時間が大事だと思います。死にそうなくらい退屈な時って何か考えますよね?追い立てられるように過ごす子が多い中でそういうぼんやり時間をわざと親子で確保するのを意識したほうがいいかもしれません。テレビも観ない、ゲームもしない、何もせずにただぼんやりとする暇な時間が必要だと思います。

――ハートフルコミュニケーションの活動を通じて、今後どのようなことを目指しておられますか?

私はもともとNPOを立ち上げてこの活動をしようとは思っていませんでした。活動を始めた当初は「日本中の親にハートフルコミュニケーション活動を伝える」をビジョンにしていましたが、それは私一人では到底不可能な夢でした。でも活動をしているうちに「ハートフルコミュニケーションのことをもっと伝えるために自分たちにも教えてほしい」と言ってくれる人が増えて、それがハートフルコーチ養成講座の始まりでした。数が増えれば夢は不可能ではなくなります。今では子育て中の母親だけでなく、ビジネスパーソンや子育てを終えた主婦など多種多様な方々が自分のために、世の中の子育て環境をよくしたいと学んでいます。これからもたくさんの人に伝えてゆければと思っています。

編集後記

――ありがとうございました!ハートフルコミュニケーションの活動に関わっている知人から菅原さんの本を紹介されたのはずいぶん前のことですが、この度ようやくお目に掛かる機会に恵まれ光栄でした。我が家は中3の反抗期息子がおり、現在ひじょうに手を焼いています。子どもの自立までどの家庭もひと悶着あるものだと思いますが、この時期客観的にどういうことが起こっているのか?どうすればよい方向へ導けるのか?知らないより知っていた方がいいに決まっています。親子だとつい感情的になってしまうことでも、クールに関係を構築していける方法を見出せます。これは親子だけに限らずあらゆる人間関係に使えます!あと数年、息子の自立まであっという間な気もします。乗り越えるぞー!と励まされたご縁でした。感謝です!

取材・文/マザール あべみちこ

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