「食育」について語る専門家のなかでも、自分で口にする食べ物のこだわりだけでなく、子どもたちに料理を通じて体験の場を提供しています。子どもの力を信じて本格的な料理を体験させる独自方法は大好評で、サカモトキッチンスタジオでの講座は毎回満員御礼。超ご多忙でありながら、いつも朗らかな坂本先生に子どもの「生きる力」についてお聞きしてみました。
坂本 廣子(さかもと ひろこ)
神戸生まれの神戸育ち。同志社大学英文科卒。サカモトキッチンスタジオをベースに、「台所は社会の縮図」として、生活者の立場からの料理作りを目指す。幼児の食教育の一環として、30年にわたり調理実習を行う他、高齢者、障害者および一人暮しの人のための安全な調理法「炎のない料理システム」の普及など、実践的活動を行っている。 NHK「きょうの料理」NHK教育テレビ「ひとりでできるもん」の生みの親。テレビやビデオ、雑誌、新聞などのメディアにおける活動に加え、商品開発、企画及び講演など多角的に活動中。 相愛大学客員教授、神戸女子短期大学非常勤講師、地域に根ざした食育推進協議会委員、食と農の応援団員、近畿地域食育推進協議会委員(以上、農水省)、近畿米粉食品普及推進協議会会長、キッズキッチン協会副会長、子供のための博物館「キッズ・プラザ・オーサカ」講師、兵庫県食品産業アドバイザー、大阪府食育検討委員会座長、石川県食育アドヴァイザー、小浜市御食国大使、よみうり子育て応援団団員、大阪スローフード協会名誉顧問、アユタヤ・カービング協会理事、日中友好協会神戸支部参与、最上町おこし会社役員、保育学会会員、日本書芸院会員、道具学会会員、伝統食品研究会会員、テンペ研究会員、日本食育学会員。
三人姉妹の末っ子は、病弱で寡黙な女の子だった
――食育とか、こどもクッキングといえば坂本先生のお名前があがります。料理の道に進まれたキッカケは何だったのでしょう?
子育てしている中で、自分が納得いくものを食べたい。素材のいいものを仲間と共同購入していたんですね。ところが、いいものを手に入れても使いこなす技術がないとダメなんです。余ってしまうと続かない。それで、素材を使いこなすための勉強会を始めました。30人定員の教室がいつも満員。8年くらいして朝日新聞が取材にきた。記者も女性の方で、「こんな簡単な調理法でいいんですか!」と共感してくれました。料理は原理原則を守れば、何でもOKです。それがキッカケになって、年末のお料理を1週間連載で書き、のちに「いそがし母さんのてぬき料理」という連載に発展し、「本にまとめませんか?」と誘われて出したら、今度はNHK「きょうの料理」に呼ばれて……単なる、なりゆき任せ(笑)。
――そういういいご縁にめぐり合えるのも才能ですよね。もともとお料理はお好きでしたか?
姉の夫がレストランの息子だったんですね。その義兄が私に作り方をたくさん伝授してくれた。やっているうちに身に付くことも多いということで、たくさん料理のいろはを叩き込まれました。父は「家事は女中さんにしてもらってもいい。だけど食べるものは血のつながった人が作るように」と言っていました。家族皆が忙しかったので、自分が台所で何か作るのは自然なことでした。料理は手に付くものだから。
――何をすることが一番好きでしたか?どんな性格のお子さんでした?
体も弱くて口数も少なくて、本が好きでとてもおとなしいタイプでした。昔は無口で、今は六(つ)口と言われています(笑)。この通り人前でお話しする仕事に就いたので、昔を知っている方にはビックリされますよ。
――成長の過程で何か変わるようなキッカケがあったのかもしれませんね。幼少期は、どんな習い事をされていましたか?
そろばんと、絵の教室に通っていました。それと、書道とピアノを。書道だけは趣味で今も続けています。実は、27~42歳までの15年間、自宅を開放して子どもたち対象に書道教室をしておりました。料理の道に入る前からで並行しての話ですが。
料理を作ることよりプロセスを大切に
――子どもを料理上手にするコツって何でしょう?
大人が「だめ」とか「あぶない」といって何でも手助けして、子どものやる気を遮ることなく、失敗してもいいからとにかく体験させることです。鍋は火傷、包丁は切り傷に注意しないといけませんよね。でも言葉だけで「危ない」といっても子どもはわからない。致命傷にならない限り、熱い!痛い!という失敗もして、「今度はしないようにしよう」と思える、リカバーできる「大丈夫」のことばかけをします。あとは、本当においしいものを食べる体験をすること。「これ食べたいから作ろう」という気持ちになります。
――キッチンスタジオに子どもは何名くらい参加されていますか。指導の下どのように変化するのでしょう。
1ヵ月に120人ほど参加しています。下は1歳半から上は小学6年生まで。3~4歳が多いですね。障がい児や強いアレルギーの子もいます。公平な抽選で参加者は決めています。教室に参加することで、自分に自信がもてるように積極的になりますし、達成感が実感できます。料理ができあがることが目的ではなくて、プロセスを体験することが大切なんです。そこでたくさんの発見をすること。子どもは体験を通して発見するんですね。
――普段やりなれていない子もいるでしょうから料理体験はワクワクしますよね。何人くらいにレッスンを?
5人ずつチームになって一汁三菜を作ります。コープから食材を取り寄せて、お米もこだわっておいしいものを。お味噌や梅干しも家でつくれるので伝授しています。今は、らでぃしゅぼーやの子ども対象クラス(40名)と、幼稚園7クラス(170名ほど)、おでかけキッズキッチンという10人1グループのクラス(120人くらい)をスタジオ総がかりで教えています。
体験の場を増やし「食の自立」をめざす
――たくさんの子どもが料理体験していますね。先生からみて今の子どもたちにはどんな力が足りないと?
基礎体験が足りない。自分で考えるとか、判断することが身に付いていないから言葉は読んでいても実際理解していない。読解力が落ちているのも同じ。だからこそ、料理を通じて子どもが体験できる場を増やしていこうと思っています。
――三人の子育てをされている間も何かしら活動をされていたわけですよね。先生にとってのお仕事とは何でしょう?
すべて人間は生まれつきに何らかの使命をもってこの世に送り込まれていると思うんです。必ず仕事をするための才能をもっている。その時々で精一杯やることが仕事で、私の場合は何かしらいつも次の仕事につながる準備期間だったように感じています。
――なるほど。そういう捉え方もおもしろいですね!では、習い事を考える親たちにメッセージをお願いします。
子どもの自立する心を支えてほしいですね。料理をするのが目的ではないんです。自信を持って切り拓いていくこと。料理を教えこむのではなく、元気に自分の素晴らしさを発見してもらいたい。
――今後どのような活動を予定されていますか?
教室の他、講演活動やイベントもございます。「子どもがつくる ほんものごはん」という料理本を3月にクレヨンハウスから刊行しました。月刊クーヨンでも連載をしています。子どもが体験していける場を増やしてゆきたいと願ってキッズキッチン協会を立ち上げました。そこでの大人対象のインストラクター養成講座用の「キッズキッチン」(かもがわ出版)も出しました。それから、松下電器と共同で「食育と防災と介護」というテーマでの取り組みなども。それぞれが独立してではなく、全部つながっているのがおもしろいでしょう?
編集後記
――ありがとうございました。坂本先生はものすごく元気で楽しい!目の前にあることは仕事でありながら遊びでもある。インタビューの間じゅう次々に飛び出すエピソードは意外なことばかりで、つい聞き入ってしまいました。お嬢さんの佳奈さんは先生の下でバリバリお仕事で活躍中。なんとも幸せな働き方です。子どもの料理についてだけでなく、女性の仕事の続け方について参考になることばかりでした。