5歳の息子が津波の恐ろしさを悟った道路標示

「ほら、前を走ってるダンプの荷台に青森って書いてるよ。青森から岩手まで来て働いてるってことなんだ。工事を早く進めるために、今でも全国から建設業者が集まってるんだね」

東北沿岸部の現状を身をもって経験するための社内公募ツアーを使って、レンタカーで浜街道を走っていたleoleoさんは、息子さんにそう話しかけた。

すると5歳の息子くんが言った。「パパ、またあの看板があったよ!」

看板とは「ここから 過去の津波浸水区間」を示す道路表示。進行方向によって「ここから」と「ここまで」、さらに浸水区域内には前方・後方両方向の浸水区間の距離が示されている。どの方向に逃げた方が近いかという表示なのだが、場所によってはどちらに逃げても数kmという場所もある。

公募ツアーの日程のほとんどを三陸の国道を走りながら、えっここにもか、こんなところまで津波が来たのか、と看板に教えられ、彼自身啞然とするばかりだったleoleoさんは、驚きの気持ちをそのまま息子くんに伝えていた。

「ほら、またここにも看板があったぞ、ここから先は津波が来た場所、海の下を走ることになるんだぞ」

車内がしんとなることもあった。次の「ここまで」看板はいつ現れるんだろう。ハンドルを握るleoleoさん自身、「どこまで」行くのだろうと息を詰める。早く抜けたいとアクセルを踏み込みがちになる。自制する。でもスピードは出がち。そんなことを繰り返しながら、考えていた。「過去の津波浸水ということは、ここまで逃げろと明示するものではなく、あくまでも過去の事実を伝えているものでしかないんだよな……」

どこまで逃げればいいのか、看板が現れるたびにそんなことを考えた。もちろん家族での楽しいドライブだったが、看板はあまりにも頻繁に現れる。そんなleoleoさんの気持ちがスライドしたのか、息子くんが言ったのが「パパ、またあの看板があったよ!」

右手を見ると看板が立てられた道路からはるか下方に、復興工事が進められている土地が広がっていた。

この旅行から帰った後、息子くんは「津波はすごい怖いんだよ」と実家のみんなに自らたくさん語っていたという。

この話は事実を元に構成したフィクションですが大切な部分はほぼ実話です。leoleoさん、レクチャーしていただきありがとうございました。近いうち、津波浸水区間と看板で表示された道を、車ではなく徒歩で歩いてみます。