パタゴニアとは、南緯40度以南のアルゼンチンとチリの地域のことをいいます。雄大な自然景観がトレッカーに大人気で、「風の大地」とも呼ばれるほど風が強いことでも知られています。いくつもの絶景を持つ同エリアで絶大な人気を誇る場所のひとつが、アルゼンチンのフィッツロイです。
フィッツロイについて
パタゴニアと聞けば、米国のアウトドアブランドを思い浮かべる方も少なくないかもしれません。山のシルエットが描かれた同ブロンドのロゴは、フィッツロイがモチーフであるのはよく知られている話です。フィッツロイは多くの登山者、トレッカーのまさに憧れの場所なのです。
フィッツロイはアルゼンチン南部、チリとの国境近くにそびえる標高3,441mの岩峰。現地の言葉で「煙を吐く山」を意味するその名の通り、天を突き刺すような鋭い頂に、煙のような雲がかかっている姿をよく目にすることができます。
切り立った険しいフィッツロイの山頂に立つことができるのは、ごく限られた一部のトップクライマーのみです。しかし、その麓付近までは誰でも行くことができ、フィッツロイの魅力を十二分に感じることができます。
南米大陸の広さを実感した長距離移動
お正月をイースター島で過ごした私は、チリの首都・サンティアゴに戻り、フィッツロイへ行くためにパタゴニア地方における観光拠点の街のひとつ、エル・カラファテを目指すことにしました。
移動は、飛行機の利用も頭によぎったものの、南米の広さを実感したいと思い、バスを使いました。
サンティアゴでバスターミナルに行き、エル・カラファテ行きのバスがあるか聞いてみると、直通便はなく、まずはアルゼンチンのバリローチェへ行けとのことでした。
そこで、まずはアルゼンチンのバリローチェへ向かうことに。しかし、そこは広大な南米大陸。サンティアゴから同市までの道のりはなんと約1,200キロ。日本では考えられないほどの長距離移動です。チリ、アルゼンチンのバスは、旅行をしていた当時の日本の長距離バスよりも快適なものでしたが、それでも東京から熊本に匹敵する移動には大変なものがありました。
長時間バスに揺られてバリローチェに着くと、今度はエル・カラファテ行きのバス探しです。しかし、どれも満席で3日後の便しか空いていないのです。
さすがに3日間は長いと思い、しばらく粘って探していると運良く翌日のリオ・ガレゴス行きに空席が出ました。エル・カラファテにはリオ・ガレゴスでバスを乗り換えて行くことができます。
その日はバリローチェに1泊し、翌日、リオ・ガレゴス行きのバスに乗りました。
しかし、リオ・ガレゴスまでは約1,600キロ。そして、さらにそこからエル・カラファテまでは約300キロの道のりです。合計で約1,900キロ。バリローチェからエル・カラファテまではおよそ33時間の大移動でした。
パタゴニアは風の大地。それをフィッツロイで痛感する
エル・カラファテに着いた私は1、2泊した後、フィッツロイトレッキングの起点となるエル・チャルテン村へ向いました。村まではバスで約5時間ほどです。
エル・チャルテン周辺には複数のトレッキングルートがありますが、フィッツロイのビューポイントとして人気なのはロス・トレス湖です。湖畔からフィッツロイを間近で見ることができます。日帰りも可能ですが、朝陽に輝くフィッツロイを見たいがために1泊2日で行くことにしました。
エル・チャルテンにバスが到着すると、ロス・トレス湖の近くにあるリオ・ブランコキャンプ場を目指して出発です。
歩き始めて間もなくすると、山間の広く平らな大地に川が悠然と蛇行する光景が目に飛び込んできました。思い描いていた以上の雄大な風景に、苦労してサンティアゴから来たかいがあったと心から思いました。
村からキャンプ場までのルートは最初、緩やかな坂を少し上るものの、その後はほぼ平坦な歩きやすい道です。気持ちの良い風景に足取りも軽やかです。
トレッキングルートを歩いている際の見どころはなんと言っても、荒々しいフィッツロイの姿。しかし、それだけではなく、コースの途中を流れる清流にも素晴らしいものがありました。
村を出発して3時間ほど歩くとリオ・ブランコのキャンプ場に到着。この日はここで野営です。
翌朝は日の出前に出発。野営地からロス・トレス湖までは急坂を登っていきます。
1時間ほど歩くと湖が見えてきます。ここで日の出待ちをします♪
到着してからまもなく、太陽が山から顔を出しました。するとフィッツロイがピンク色に染まります。荘厳な光景に胸が高鳴ります。
しかし、日の出と共に山から猛烈な風も吹き下ろしてきたのです。その勢いは凄まじく、水面には波がたち、まるで海のようです。あまりの強風に湖の水が風に飛ばされて水しぶきとなって襲ってきます。そのうち真っすぐ立っていることもできなくなり両手、両膝をつき、四つん這い状態で暴風と闘いながら見ざるを得ませんでした。
風の洗礼に耐えながら憧れのフィッツロイを目に焼き付けた後、キャンプ場に戻ってテントを撤収し、そしてエル・チャルテンの村に戻りました。
憧れのフィッツロイは、パタゴニアが風の大地であることを心の底から痛感した場所でした。
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