第二のロンサムジョージを生み出さないために

ロンサムジョージ

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2004年の秋のことです。ガラパゴス諸島・サンタクルス島のダーウィン研究所を訪れると観光客の注目を一身に集めている1頭のゾウガメがいました。

なぜ、これほどまでに人気があるのだろう。不思議に思い、近くにいた女性旅行者に理由を尋ねてみると、彼女は丁寧に説明してくれました。しかし、英語力の乏しい私には、話の内容のほとんどが理解できないものでした。ただ「lonely(※寂しい・孤独な)」という単語がキーワードであることはわかりました。

いったい彼女が言う孤独とは何なのか。そして、その孤独と人気にはどのような関係があるのか。単語を聞き間違えたのではないだろうかとさえ思いながら、その時は全く理解ができずに孤独と説明されたゾウガメを見ていたのです。

人気者のロンサムジョージ

その人気者が、恐らく「ロンサムジョージ」と呼ばれるピンタゾウガメだったのだろうと知ったのは、それから7年以上が経った、彼の死亡を伝えるニュースを見た時でした。

ガラパゴス諸島にいるゾウガメは通常、「ガラパゴスゾウガメ」とひとくくりに呼ばれていますが、もう少し細かく見ると島によって甲羅の形などが異なっており、複数の亜種に分かれています。

ピンタゾウガメもその亜種のひとつで、かつてはピンタ島に生息していました。しかし、1906年以降、その存在が確認されなかったために絶滅したと考えられていたのです。ところが1972年、同島でピンタゾウガメが発見されます。それが、ロンサムジョージでした。

以降、彼は純血種としては地球上で1頭しかいないピンタゾウガメとして、有名になったのです。

「唯一の生き残り」。それは、彼が天寿をまっとうした時、ピンタゾウガメもまた絶滅することを意味しています。このこともあり、彼は「世界で最も有名なカメ」と言われるほど、人気者になっていたのです。

ガラパゴスゾウガメは、なぜこれほどまでに激減してしまったのか

スペイン語で「陸ガメ」を意味するガラパゴス諸島には、かつてたくさんのゾウガメがいたと言います。しかし、これまでに5つの亜種が絶滅し、さらに残っているゾウガメたちも、地球上からいなくなる危険性があります。

なぜ、ガラパゴスゾウガメはこれほどまでに数を減らしたのか?

その原因を一言で言ってしまえば、「人間」です。16世紀、ヨーロッパ人がガラパゴス諸島を見つけたときには数え切れないほどのガラパゴスゾウガメがいましたが、島が発見されて以降、航海をする際の食料として、推定で10万頭以上のゾウガメが乱獲されたと言われています。

さらに、人間によってヤギやブタなどの動物が島に持ち込まれ、ゾウガメを取り巻く環境や植生等を変えてしまったことも大きな要因とされています。

第二のロンサムジョージを生み出さないために

ガラパゴス諸島は1,000以上ある世界遺産の中でも、一番最初に登録された貴重な人類の遺産です。しかし、登録後、観光客や住民の増加、外来種の流入により、その独特な生態系が失われる危機に直面し、2007年、危機遺産リストに登録されてしまいました。

その後、エクアドル政府の取り組みにより、危機遺産リストからは外されたものの、生き物たちの未来は依然、明るいとは言えません。

ガラパゴス諸島は地球上でここだけにしかいない動物たちの宝庫です。そして、彼らは私たち人間を信じているのか、良くも悪くもあまり逃げようとはしません。その信頼を裏切らず、いつまでもガラパゴスが野生動物の楽園であり続けるために「動物には触らない」、「外来植物を島に持ち込まないために上陸前に消毒マットをしっかり踏む」といった、決められているルールを守って彼らの生活を脅かさずに観光したいものです。

人間が原因となり、再びロンサムジョージのような地球上で最後の1頭となる動物を生み出してはいけない。サンタクルス島で見た、あの優しそうで堂々としたゾウガメたちを思い出すと痛切に思います。

チャールズ・ダーウィン研究所

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