大隙間には広く気持ちのよいササの原っぱが広がっているのだが、視界が悪かったためにその全貌を見ることはできなかった。またいつの日か見に来たいと思う。
大隙間から四阿山の頂上までは標高差315メートルの登りである。このあたりから雨脚が一段と強くなってきた。レインウェアの下も着て、雨の中を登り始める。
今朝、登り始めた時にはこのような本降りの雨になるとは思ってもいなかった。山の天気は本当にわからないと改めて痛感。
中尾根コースとの分岐。下山する際はここから別のコースを歩く。ちなみに山頂は近くのはずだが、頂は全く見えない。
山頂まではあとわずか!
四阿山登頂!
けれど、眺望は全くなし・・・。小雨が降る中、持って来た調理用バーナーでお湯を沸かしてカップラーメンを食べる。天気は良くなくても、山頂で食べるカップラーメンは最高である。
楽しみにしていた山頂からの景色は駄目だったけれども、悪いことばかりではなかった。
それはお昼を食べている時だった。すぐ近くに父と息子の親子二人連れの登山者がいたので話かけてみた。彼らは家族で埼玉から菅平に来たらしいのだが、奥さんは登山を拒否して下で待っているとのことだった。息子さんは小学3、4年生くらいだと思う。
最初、お父さんがお湯を沸かしていた私の道具に興味を持っていたらしく、「山の上でもお湯を沸かせるんですね」と聞いてきたことから、道具の話をしていた。
それがひと段落すると次に私が男の子に「こんな雨の中、よくがんばって登ったね」と感心して言った。すると、お父さんが「文句を言うのをなだめながら登って来たんですよ」と笑いながら答えてザックを開け、チョコレートを取り出した。ペロチューだった。なんでも息子さんの大好物とのことで、頑張って登ったご褒美のようであった。
男の子はペロチューをもらうと嬉しそうにパッケージを開けた。
そしてなんと、3本入っていたペロチューの1本をお父さんに、そしてもう1本を私にくれた。
私は彼の大切なお菓子をもらうことに気が引けてとっさに遠慮したのだが、それは野暮なことであった。男の子がすぐに再度すすめてきたので、御礼を言ってありがたくいただくことにした。
四阿山の頂上で男の子からもらったチョコはとても嬉しく、そして美味しかった。
その後、3人で10分ほど話をしていたが、お父さんが「そろそろ下山します」と言って、別れることになった。私は最後にもう一度感謝の気持ちを伝えた。
親子連れが山を下り始めた後も、一瞬でいいから雲が晴れないかとしばらく山頂で待った。しかし、天気が回復しそうにもないので私も下山をすることにした。
頂上を後にして、中四阿あたりまで下りてきたころだろうか。ガスが薄くなり、少し先の稜線まで見えるようになってきた。
時間が経つにつれ、わずかながらも裾野が見えてくる。
そして、ついに太陽が現れる。山頂は相変わらず雲に覆われていたが、眼下には広々とした素晴らしい光景が広がっていた。
その後、ガスがかかったり、晴れたりを繰り返す。もやの中のダケカンバの林は幻想的でいい。
菅平牧場の近くまで下りてくると、出発時のような快晴となった。光を受けて輝く緑が眩しく、森の中の道が気持ちいい。
菅平牧場にでる。本降りの雨が降っていたのがまるでうそのように思える。
中四阿経由の登山口に下山。ここからは舗装道路を歩いて、車を停めている牧場管理事務所の駐車場へ向かう。
道路は牧場の中を貫くようにあり、歩いているとまるで北海道にいるかのようにも思えてしまう。このころになると四阿山と根子岳の山頂がはっきりと姿を現していた。
今回、根子岳から四阿山という一番のハイライト区間があいにくの天気だったけれども、山頂で出会った親子と下山時の眺望のおかげで満足のいく登山となった。
四阿山&根子岳。雄大な牧場のバックにそびえるその山容を目にすると、登山者でなくても登りたくなってしまうのではないかと思う山である。
2つの名峰とそのすそ野に拡がる広々とした光景は日本とは思えないほど牧歌的で開放感に溢れていた。「またいつか登りに来よう」そう思いながら菅平の牧場を後にした。
四阿山
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji