新たな策定された「箱根山(大涌谷)火山の避難計画」について

箱根・大涌谷

活発な火山活動が続いている箱根山について、今月26日に新たな「箱根山(大涌谷)火山避難計画」が策定されました。今日はその内容についてご紹介します。

今回策定された避難計画について

箱根山の火山活動に対しての避難計画は、今年3月にも「箱根山の噴火を想定した大涌谷周辺の観光客等の避難誘導マニュアル」が公表されています。

それからわずか5カ月後に新たな避難計画が作られたのは、6月下旬にごく小規模な噴火が確認され、噴火警戒レベルが「3」に引き上げられたことによると思われます。

というのも、3月に公表された避難誘導マニュアルでは警戒レベル「3」までしか想定されていませんでした。そのため、今回策定されたものにはレベル「4」及び「5」の避難計画が示されており、その点が3月のものとは大きく異なっています。

箱根山火山に対しての避難行動について

新たに作られた計画によると、避難は原則として一次避難から三次避難までの3つの段階を経て行われます。

各段階の避難行動を見る前に、まず最初に各噴火警戒レベルごとの避難対象地域図をご紹介します。

各噴火警戒レベルごとの避難対象地域図(出典:箱根町WEBサイト http://www.town.hakone.kanagawa.jp/hakone_j/content/000032227.pdf)

これまで避難対象エリアとして考えられていたのは、レベル3の青の実線内です。現在、立ち入りが規制されているのがこの区域です。

そして、今回新たに追加されたのが、レベル4と書かれた緑の実線です。噴火が想定されている大涌谷中心部から半径2.1kmの範囲です。噴火警戒レベル「5」の避難対象エリアも「4」と同じ緑の実線となります。

避難は警戒レベルに応じて、そのレベルの避難対象範囲の外へ行いますが、避難行動は前述の通り、一次避難から三次避難までの3つの段階があります(※後述しますが、噴火警戒レベル引き揚げによる避難行動は二次避難から実施)。

また、各避難段階において「突然噴火した場合」と「噴火前の警戒レベル引き揚げによる避難」といった避難時の状況や、避難対象エリアに住んでいる「住民」、宿泊施設などの施設を利用している「施設利用者」、施設を利用していない「観光客」といった避難者の条件によって、避難時の移動手段や移動先などが異なってきます。

今回は住民以外の「施設利用者」及び「観光客」の避難行動について、各避難段階の説明とともにご紹介します。

○一次避難
一次避難は近くにある鉄筋コンクリート製の建物などへ避難します。一次避難は事前に予測できなかった「突発的な噴火」が発生した時のみの避難行動です。噴火発生前に避難警戒レベルが引きあげられた際の避難の場合には、次の二次避難から行います。

一次避難をした建造物内では火口の反対側の部屋及び、地上階よりも地下階、地下が無い場合は1階の部屋に退避します。避難できる建造物が近くにない時は、コンクリート塀、電柱などの建造物や地形の影に隠れます。

○二次避難
二次避難は避難対象エリアの外へ移動します。原則として「車両」で移動しますが、降灰などにより車等が使用できない場合は、安全な場所での屋内待機となっています。

二次避難開始の判断は原則、箱根町の町長が行い、防災無線、エリアメール、ラジオなどを通じて知らされます。

二次避難の避難先は、住民以外の方で自家用車などの車両のある人は「突発的な噴火発生時」及び「噴火警戒レベルの引き上げに伴う避難」のいずれのケースにおいても、自力で「自宅へ帰宅」します。

車両がない方は、「突発的な噴火発生時」には利用施設や自治体等が用意した車両で二次避難場所に移動します。「噴火警戒レベルの引き上げに伴う避難」の場合は、公共交通機関が運行しているので各自それらを利用して「自宅へ帰宅」します。

○三次避難
三次避難は二次避難所からより安全な場所へ移動します。「施設利用者」及び「観光客」は、箱根町が用意したバスなどで主要な鉄道駅(小田原駅、御殿場駅等)へ移動し、そこからは公共交通機関を利用して「帰宅」します。

もうひとつの大きな違い、マグマ噴火の想定について

今回策定された避難計画について、もうひとつこれまでにはなかったことがあります。それは「マグマ噴火」の想定です。

火山噴火の分類のひとつとして「水蒸気噴火」と「マグマ噴火」があります。水蒸気噴火はマグマによって熱せられた水が水蒸気となって火口付近の圧力が高まり爆発するものです。一方、マグマ噴火は溶岩の噴出を伴う爆発で、水蒸気噴火よりも被害が大きくなる可能性が高いものです。

(※ちなみにこの他にも「マグマ水蒸気噴火」があります。これは2つの噴火の中間に位置するもので、水蒸気噴火にマグマに由来する成分が含まれています)

箱根山では水蒸気噴火が約600年、マグマ噴火が約3000年に1度程度の割合で起こると考えられています。これまで箱根町の火山防災マップや避難計画は水蒸気噴火を想定して作られていました。しかし、箱根山での前回のマグマ噴火は約3200年前であり、いつ発生しても不思議ではないとも言われています。

新たな避難計画では、発生すればより大きな被害が懸念されるマグマ噴火による避難対象地域や避難計画も記載されています。避難すべきエリアは大涌谷中心部から4kmの範囲で「各噴火警戒レベルごとの避難対象地域図」の一番外側に緑色の破線で示されている地域です。避難行動の流れは水蒸気爆発の「噴火警戒レベルの引き上げに伴う避難」と同じです。

マグマ噴火の想定は「噴火警戒レベルの引き上げに伴う避難」のみ

ただし、マグマ噴火については「火山活動の観測により噴火の予測が可能であるとされている」とのことで、現時点では「噴火警戒レベルの引き上げに伴う避難」のみの計画となっています。

突発的なマグマ噴火が発生した場合、数百度にも達する火砕流が発生する可能性があり、既存の一次避難施設では不十分な恐れがあります。

火砕流にも対応できる避難シェルターもあるようですが、収容人数やシェルターが埋もれてしまった場合の救出方法などの課題もあります。

避難対象のエリアも広く、突発的なマグマ噴火の対応については大変難しいものがありますが、今後さらなる検討が必要になってくると思います。

また、現在の箱根火山の防災マップは水蒸気噴火のみを想定して予想される被害エリア等が記載されています。東日本大震災後、地震や津波に対するハザードマップ等が規模の異なる2つのレベルを想定して作られたように、箱根山火山においてもマグマ噴火を想定したものがあった方がいいと思います。

避難計画は今後、加筆や今回の策定を受けて各地域や施設でより具体的なものが作られることが予想されます。これからも火山情報に注意を払いつつ、箱根エリアの魅力を享受していきたいと思います。

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参考WEBサイト

Text & Photo:sKenji