【大震災を自分事に】ロッカーの荷物をどうするか

私がつとめる会社では3月11日、追悼の集いに続いて防災について考えるミーティングを行いました。午後1時から始まって8時過ぎまで。半日にわたって通常の業務がストップしましたが、震災の日に社員全員で考えることができたのはたいへん貴重な時間でした。

追悼についても防災に関するミーティングでもさまざまな話が交わされましたが、ひとつだけここで紹介させていただきます。それは、ロッカーに入れた私物をどうするかという問題です。

最近ではオフィスへの入退室する際に、情報セキュリティなどのために私物を別室のロッカーに入れる会社も増えていると思います。当社もそうです。これまでの取り決めでは、地震や火災などが発生して避難しなければならない場合、ロッカーの中の荷物は取りに行かず、そのまま身ひとつでまずはビルの外へ避難。点呼の後に行政が指定している避難場所へ全員で移動することになっていました。

そこで問題になるのが、携帯電話やスマートフォンといった個人用の情報端末です。携帯やスマホは単に戸外でも使える電話という機能をはるかに超えて、現在ではパーソナルな情報端末になっています。大災害が発生した際に輻輳によって電話が使えなくなっても、情報通信はより長い時間使える可能性があることは、先の大震災でも実際にあったことです。被害情報、安否の確認、避難路に障害がないかといった避難情報など、いまや個人用情報端末は最も重要なライフライン、命の綱になっています。

ところが避難の際に、その命綱もロッカーに置いたまま逃げなければならない。このことは、登校時に先生がスマホをまとめて預かることが増えている中学校や高校でも同じ問題でしょう。

もちろん第一に考えるべきは命です。しかし、身ひとつで避難したとしても、情報がないということで続く危険に身をさらす事にもなりかねません。また先の大震災では、避難して身の安全が確保できた後に多くの人が考え、行動に移したのは「家族の安否を確認する事」でした。

連絡がとれないことから不安が募り、とにかく歩いてでも家族の元へ探しに行ったという話をどれだけ聞いたでしょう。仙台から石巻まで徒歩で行ったとか、それは東京近郊でも大手町から横浜まで歩いたとか、ほとんどの人がそのような行動をとったことだと思います。

そのような行為が危険だからと、行政は災害発生時には勤務先や学校などで数日間の待機ができる体制をとるように指導していますが、実際にその状況になったら!

避難訓練や、災害について考えましょうというミーティングなど冷静でいられる時なら会社や避難所で待機だよねって言いますが、本当に災害に遭った時にはそんなこと無理でしょう。

東日本大震災で起きた事を話し合い、これから何が出来るのかを考えるその一環として避難についてみんなで議論できたのは貴重でした。話し合いの中で「いくら会社の指示だとしても、ゴメン、おれは家族を探しに行きます、ってきっとなると思う」。たくさんの人がそのように発言しました。

自分事として受け止める事ができたからこその、実のある話し合いになりました。

そこでロッカーの中の荷物をどうするかという問題です。

身の危険が迫っている時に、フロアの全員がロッカーに殺到したらそれだけでパニックです。避難する前に被害が発生してしまうかもしれません。しかし、身ひとつで避難しても、その後のことを考えると……。

長い時間話し合いましたが、まだ結論というか、方針は立っていません。実際に逼迫した状況での避難訓練を行って、全員が荷物を取って避難する場合と、身ひとつで逃げる場合の所要時間を測定してみようとか、その結果を踏まえてよりよい方法、たとえば携帯やスマホなどの情報端末はまとめて別保管して、避難時に代表が持ち出すようにするなどの方策を検討していく予定です。

1分間、こころを込めて黙祷することは貴重です。ただ、その先に考えることがあるのではないか。自分事として考えることが、今も大変な状況にある人たちとの距離を縮めることにつながるのではないか。3月11日、会社での集会でそう考えました。