10年前の大晦日、長期の海外旅行に出ていた私は南米チリのサンチャゴで年を越した。
そして、年が変わった元旦。絶海の孤島へ移動し、これまた忘れられない年始を経験した。
急遽、年始は絶海の孤島へ
泊まっていた安宿近くのストリートで新年を迎えると、年越しを一緒にした旅仲間と共に宿に戻り、1、2時間ほど話をして寝た。できることならば、朝までずっと話をしていたかったのだが、そういうわけにはいかなかった。なぜならば、元旦の朝のフライトでモアイ像で有名なイースター島へ飛ぶことになっていたからである。
イースター島行は急に決まった。アルゼンチンのメンドーサからサンチャゴに到着後、足を怪我していた私はほとんど外出をせずに宿に備えられていたパソコンからインターネットに接続し、イースター島行の安い航空券をチェックをしていた。
同島へは日本を出発する前から行きたいと思っていたものの、航空券が高かったためにどうするかずっと迷っていた。もう半ばあきらめかけていた年の瀬の12月30日、元旦の朝発の安い航空券が出たので行くことにしたのだった。
同じ宿の旅行者にその情報を共有すると、他に4名の仲間が同じ便でイースター島へ飛ぶことになった。
元旦の朝、イースター島へ
4時間ほど仮眠を取って起きると、すぐに荷物をまとめて宿をチェックアウトをした。そして、イースター島へ行く年越しメンバー4名と共にサンチャゴの空港へと向かった。
ちなみにイースター島はチリ領である。しかし、本土からおよそ3800kmも離れた南米大陸とオーストラリアのほぼ中間地点に位置しており、まさに絶海の孤島という名にふさわしい。周囲約58kmの島には約5,000人が居住しており、人口のほとんどは空港がある島唯一の集落のハンガロア村に住んでいる。イースター島とは英語名であり、正式名称はスペイン語で「イスラ・デ・パスクア」。現地語では「ラパ・ヌイ」という。ハンガロア村の集落以外は荒涼とした大地が広がる島で、やたらと物価が高い。ほとんどのものがチリ本土の約3倍もするから、バックパッカー泣かせの島である。
サンチャゴから飛び立ち、飛行機に乗ること5時間以上。イースター島にある唯一の空港に着陸した。
空港の滑走路はスペースシャトルが緊急時に着陸できるように造られたために長さ3km以上もある立派なものである。
飛行機が滑走路に停止すると、ボーディングブリッジなどがあるわけではなく、航空機のドアにタラップがつけられて地上に降りた。通常だとバスがやってきてターミナルビルに移動するのだろうけど、ここイースター島では自分の足で滑走路を歩いて空港の建物へと向かう。建物は日本の空港のような豪勢なものではなく、とても小さくシンプルな作りでさながら鉄道駅のようであった。
モアイとの初対面
空港から出ると私は二人のサンチャゴ年越しメンバーと共に、村はずれの海岸沿いにある安宿へと向かった。残り二人は長期旅行をしていた夫婦で、街中にある宿に泊まるとのことだった。立派な滑走路とは異なり、いたって素朴でこじんまりとした落ち着く村であった。
海岸沿いの安宿は日本で言う民宿のようなものであった。小さな建物の前には広大な芝生の庭があり、そこにテントを張って泊まることもできる。私たちは値段の安さと絶海の孤島でのキャンプに魅かれてテント泊にすることにした。
広い宿の庭に日本から持って来たMyテントを設営すると、他の二人の旅行者と一緒にレンタカーを借りた。大手レンタカー会社ではなく、宿の主人の紹介で車を借りたせいか、車は今にも壊れそうな年期の入ったマニュアルのジムニーであった。
車を借りると早速、3人で島内一周ツアーへと繰り出した。
モアイ像の多くは海岸近くにある。海沿いにしばらく走っていると最初のモアイが見えてきた。すると「モアイがいるいる!」などと言って3人とも興奮し、車内は歓声に包まれた。モアイの近くで車を停めて降りると、見たり触ったりして人生初のモアイとの対面を果たした。
初対面に満足した後、島のあちこちに点在しているモアイを見てまわり元旦は終わった。
イースター島には元旦から4日間滞在した。2日目以降はラノカウ火口など島の自然のほか、一度見たモアイを再びゆっくりと見て回った。いずれのモアイも一見の価値はあったが、なかでもよかったものは海岸に巨大なモアイ像が15体も立つ「アフ・トンガリキ」である。島の東側にあるためにちょうど朝日が昇る方角にある。早朝に訪れて昇る太陽を見た際には神々しいものを感じた。
モアイだけではないイースター島の魅力
イースター島はモアイ像が有名であるものの、荒涼とした大地、コバルトブルーの美しい海、ラノカウ火口などの自然や、喧騒からかけ離れたのんびりとした島の雰囲気にも魅力がある。
宿から歩いて15分ほどの所に小さな漁港があった。私たちがそこを訪れると、海から戻って来た漁師さんが獲ってきた小さな魚や捨てようとしていた大きなマグロのカマなどを私たちにくれた。おすそわけをもらったのは私たちだけではなかった。漁師さんが釣ってきた魚をさばいて内臓などを岸壁から海に捨てていると、2匹のウミガメがやってきて目の前でパクパクと食べていた。今思うとちょっと信じられらないような光景であった。
訪れる前はモアイしかないと思っていたイースター島。
しかし、実際に行ってみるとモアイのほかにも魅力がある場所であった。島の自然は緑が豊かなものではないかもしれない。しかし、その荒涼とした景観にはなんとも形容しがたい心揺さぶれるものがあった。
絶海に浮かぶ孤島で過ごした一年の始りは一生忘れることができない思い出として残っている。
イースター島
Text & Photo:sKenji