先日、静岡県の悪沢岳に登ってきた際に畑薙第一ダム近くにある沼平ゲートから二軒小屋まで林道を歩いた。周りの景色を見ながら歩いていたのだが、山腹が崩れている箇所が多く、とても気になった。
というのも、この林道の近くでリニアモーターカーの路線を建設する計画があるからである。建設工事は南アルプスを横断するように20㎞以上の長いトンネルを掘るもので、技術的な難しさや自然環境への影響などが指摘されている。
難航が予想される南アルプスのトンネル工事
個人的には東京と名古屋が夢の超特急リニアで結ばれるのを見てみたいと思っているものの、その工事の実現性や計画を疑問視する声もある。以下、今月6日付毎日新聞の社説である。
JR東海が国土交通相に着工の認可を申請したことで、リニア中央新幹線がいよいよ現実味を帯びてきた。認可が下りれば、国による基本計画決定から41年を経て、巨大プロジェクトが動き出すことになる。
だが、本当にこのまま突き進んでよいのか、と改めて問いたい。
2027年の品川-名古屋開業、45年の品川-新大阪開業を目指すリニア中央新幹線計画は、総事業費が約9兆円に上る異例のスケールだ。JR東海が全費用をまかなうというが、採算面で大きな不安を抱えたまま、踏み出そうとしている。
万一、経営を揺るがす事態になれば、JR東海だけの問題ではすまなくなるだろう。日本の大動脈を独占的に担う、極めて公共性の高い企業であり、税金を使った救済にも発展しかねない。
(中略)
南アルプスを貫くトンネルの工事は特に難航が予想され、大幅な長期化もあり得る。JR東海は名古屋までの工事について、5年前に発表した事業費を935億円上方修正した。しかし、工期、資材価格や人件費、借金の金利など不確実性は多く、大幅な追加もないとはいえない。
想定外の費用増がなくてもこの事業に採算性がないことをJR東海自身が認めている。昨年9月、山田佳臣社長(当時)は、「リニアだけでは絶対にペイしない(帳尻が合わない)」と記者会見で明言した。
東海道新幹線のもうけで穴埋めする考えのようだが、人口減少と高齢化が進む中、需要の増加どころか現状維持さえ確かとは言い難い。新大阪までの工事が完了するとされる31年後の日本の姿を予測することは極めて難しいのである。
巨大プロジェクトの事業費が、当初の想定よりはるかに膨らんだという事例は少なくない。例えば本州四国連絡道路では3.8倍に跳ね上がった。甘い需要見通しで突っ走った過去の失敗に学ぶべきではないか。
南アルプスのもろい地質
毎日新聞の社説でも南アルプスにトンネルを掘ることの困難さについて触れているが、あちこちで崩れている山肌を目にして、建築・土木のど素人の私でさえも、その難しさを感じた。歩いた林道の全区間において、常にどこかしらの山が崩壊していたり、土石流が発生した箇所を目にした。崩壊箇所は遠くの山だけではなく、歩いていた林道でも数十ヶ所ほど土石流や山が崩れている場所があった。一度、卵くらいの大きさの石が、不気味な音とともに数十個ほど20秒くらいにわたってバラバラと落ちてきたこともあった。
トンネルの建設が予定されている付近の山は、どこが崩れても全く不思議ではないような場所であった。これではトンネルが完成しても、維持・管理するのも多大な労力とコストを要するのではないだろうかと思った。
大量の残土の発生と自然環境へ影響
工事の難しさ以外にも、自然環境への影響も強く懸念されている。次の記事は、今年6月に毎日新聞が報じたものである。
JR東海が2027年開業を目指すリニア中央新幹線(東京-名古屋間)について、石原伸晃環境相は5日、同社が提出した環境影響評価(アセスメント)書に対する意見を太田昭宏国土交通相に提出した。「環境影響を最大限低減しても相当な環境負荷が生じる」と指摘。トンネル掘削に伴い生じる膨大な残土の発生量を減らし、置き場ごとに管理計画を作ることや、地下水への影響を解析し直すことなどを求めた。
(中略)
リニア新幹線は全長286キロの計画区間の86%を地下や山岳トンネルが占める。建設残土は沿線7都県で計約5680万立方メートル。汚泥なども含めると東京ドーム50杯分の約6380万立方メートルに及ぶが、静岡、山梨県など一部を除き大半の処分先が未定。
記事に書かれているように、残土をどこに置くかについても問題になっている。南アルプスのトンネル工事で出た残土の置き場所の候補としては数か所が検討されており、今回歩いた林道が通っている「燕沢(つばくろさわ)」も候補にあがっている。燕沢は緑豊かな山間を綺麗な渓流が流れている場所である。
その他にも付近を流れる河川の水量の減少など自然環境や生態系への影響、置かれた残土が土砂災害を誘発する問題なども懸念されている。
リニアの建設工事について
リニアの建設については、三菱UFJリサーチが昨年出した試算で少なくとも10.7兆円の経済効果があると報告しているようにプラスの面も大きいのは言うまでもない。個人的にもリニアに乗ってみたいという思いもある。
しかし、記事に書かれているような計画の見通しの甘さがないのか。自然に与える影響は大きくないのか。慎重に検討してほしいと思う。自然環境に悪影響を与え、膨大な建設費をかけたにも関わらず完成できなかったという最悪な結果だけは避けてほしい。
南アルプスの西側に並行するように1本の道路がある。国道152号線で、地図でよく見てみると2ヶ所、国道が途切れている箇所がある。聞いた話によると、想定以上の南アルプスのもろい地質に工事が思うように進んでいないそうである。
地上と地中という違いはあるものの、リニアのトンネル工事が同じ状況にならないことを祈りたい。
自然へのインパクトを極力少なくして、2027年、夢の超特急が東京都と名古屋を結んでほしい。
残土置き場の候補地のひとつ・燕沢
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji