山形県と新潟県にまたがる「朝日岳」。日本百名山のひとつで、紅葉が美しい山である。国内に同名の山は十数座あると言われているが、百名山に名を連ねている「朝日岳」は1つの山を指すのではなく、大朝日岳を最高峰として複数の山からなる「朝日連峰」のことをいう。
日本百名山の著者・深田久弥はその著書で、朝日岳の価値は主峰の大朝日岳のみにあるのではなく、以東岳から島原山の連峰全体にある。山形県には鳥海、船形、蔵王、吾妻、飯豊などの山があるものの、そのなかでも朝日岳が一番原始的な面影を残していると述べている。
紅葉の大朝日岳を登る
朝日岳の主峰、大朝日岳を登ったのは結構前の話である。季節は10月上旬で、紅葉が一番美しい時期であった。
朝日岳に行こうと思ったのは、その年の9月末、紅葉キャンプに行きたいと思ったことがきっかけであった。調べてみるとちょうど朝日岳が紅葉を迎えていたので、学生時代からの友人Mに声をかけて、朝日岳を目指したのだった。
大朝日岳は、利用者が最も多いと思われる朝日鉱泉登山口から登る。日程は1泊2日で、コースは「鳥原山」、「小朝日岳」、「大朝日岳」、「平岩山」などを登り、再び朝日鉱泉登山口へ戻ってくるルートである。途中、大朝日岳山頂避難小屋でキャンプをする予定であった。
登山1日目は曇りだった。雨こそ降らなかったものの、山頂付近にガスがかかっていた。登山口には横切るように美しい渓流があり、その流れに架かった細い吊り橋を渡ると山登りが始まる。
吊り橋を渡って10分ほど歩くと登山道は分岐する。鳥原山へ向かう方の道を登る。
鳥原山の山頂手前には鳥原小屋という山小屋がある。そこまでは途中に沢が一か所あるだけで、森の中をひたすら登って行く。標高が上がるにつれ、色づいた木々が増えてくる。山小屋付近までくると地形は平坦になっており、さながら山上の庭園のようであった。
山小屋付近に広がっている平坦地には池や湿地帯もあり、木道が設置されている。この日はあいにくの曇り空でガスがかかっていたものの、霧がたちこめる湿地帯だからこそ感じることができる魅力があった。
鳥原小屋の後、鳥原山、小朝日岳を経由して、大朝日岳山頂近くにある「大朝日岳山頂避難小屋」と標高をあげて行った。高くなるにつれ、ガスの濃さは増していった。眺望は制限されてしまったものの、ときおり霧の切れ間から赤や黄色に染まった山容が姿をあらわして、目を楽しませてくれた。
避難小屋に着いた時には、雲行きはかなり怪しくなってきていた。夜から雨が降ってきそうであった。友人Mはさっさとテント泊をあきらめて、避難小屋で寝ることを選択した。私は、「歳をとって、テントを持って山を登れなくなるまでは山小屋に泊まらない」というポリシーをずっと持ち続け、実践してきたのでキャンプをすることにした。
雨が降らないことにわずかな望みを持っていたものの、夜から強い風と雨が襲ってきた。
翌朝起きると、風雨はおさまるどころか激しさを増していた。
朝食をとり、テントを片付ける。
雨の中の撤収は、何度経験しても好きになることができない。
当初の予定では平岩山を経由して下山する予定であった。
しかし、風と雨が強かったので、大朝日岳山頂から朝日鉱泉登山口への最短ルートで下山することにした。視界も良くなかったので、下りは周りの景色にほとんど目もくれず、ひたすら下った。
しかし、標高を下げるにつれ、山頂や稜線上で激しく吹いていた風や雨が、うそのように弱くなった。そして、登山口近くでは雨、風ともにかなり小康状態になっていた。
再び登山口に戻ってくると、停めていた車にザックを放り込んで朝日岳を後にした。朝日岳、天候は良くなかったものの、霧の中の紅葉や小雨が降るなかの森が印象的な山であった。
朝日連峰の主峰・大朝日岳
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji