石巻「まちの本棚」の1年

図書館に行ってもまず目が行くのは、返却された本のコーナーなのよね。

その一言ですっかり意気投合した。ここは石巻。去年オープンした「まちの本棚」。本が大好きな人たちが集まれる、まちなかの拠点。その場で本を読むもよし、借りていくもよし。最近では一箱古本市の古本販売も始まった。

本を見に来て、そこで誰かと知り合って、本のことを話して…。そんな「この場所のあらまほしき姿」そのままのお喋りのお相手は「看板娘さん」との別名もある常連さん。ちょうど借りていた本を返しに来ていたらしいのだが、顔を見合わせるなり「あー、お久しぶり」と話がはじまった。

彼女と初めて会ったのは、まちの本棚がオープンしたその日のこと。常連さんであるとともに「店番」の手伝いもときどきされるという彼女と、本の魅力とまちの本棚の未来について熱く語り合ったのだった。石巻には震災後、「日和アートセンター」という施設がまちなかにできて、そこは現代アートのギャラリーであるとともに、町の人たちがふらっと入ってきておしゃべりしたり、ワークショップをしたり、ある時は展示スペースの真ん中に大きなコタツを設えて、編み物をしたり、自分たちで毛糸を手作りしたりというシーンが繰り広げられていた。本当にふらっという感じでご近所さんとか、ちょっと遠方から来た人とか、新潟からわざわざやってきた人とか、坂の上の高校の美術部の子たちとか、いろんな人が訪れる魅力的な場所だった。(残念ながら最近クローズしてしまったが)

まちの本棚もそんな場所になるといいね。いや、きっとそうなるよ。見ず知らずの人と人が、そのあるものを媒介として知り合えていく力は、アートとおんなじで本にもあるのだから。

そんな風に話が盛り上がる一方で、でもね、そのためにはこの場所を開け続けていかなければならないでしょ。その「人」がいないのよ。彼女はそう言った。

ウッディな素敵な本棚のある空間。壁の漆喰を塗るのもワークショップとして町の人たちが参加して作り上げた思い入れがある空間。本棚に並ぶ本はたくさんの人たちが「想いをこめて寄贈」したもの。

そんな素敵な、未来を感じさせてくれる場所なのに、それでもドアを開けてお客さんを迎える人がいなけえれば、鍵のかかったお店と同じ。まちの本棚のオープンを喜びながら、前途の困難に嘆息したのが1年前の会話だった。この町に暮らすことができるのなら、自分も週の何日か店番に立ちたいほど、といった話までしたくらい。だから、再会に際して、挨拶のように彼女が言ったのは、「なんとか1年続けることができました」という言葉だった。

オープン1周年を迎えることはできたけど、2周年を迎えることができるかどうか。これからも課題は同じなのよね。

1年間、いろいろなことがあったのよ。最初はここに来て読むだけだったけど、貸し出しも始まった。この場所を使ったイベントも行った。古本の販売も始まった。そしていろいろな人が訪ねてきてくれました。小説家志望の少年と作家さんが出会ったり、「私が寄付した本がいまどうなっているか見に来ました」と遠方からやってきてくれる人がいたり。

そうやって動いているんだから、この場所がずっと続いてほしい。

そう思うだけではなく、何か手伝うことはできないか考えていきたいと思う。

ちなみに冒頭の「返却本コーナー」というのは、まちの本棚の魅力を語り合っていた時に看板娘さんが言った言葉。大きな書店や図書館にいけばたくさんの本がある。きれいに分類されて書架に並んではいるけれど、たくさんの本の中から、読み終わった後に偶然の出会いを感謝したくなるような本に出会うことは難しい。だから、返却本コーナーなのだ。そこにはちょっと前まで誰かが読んでいた本が並んでいる。誰かのお薦め本である可能性が高い。書架から面白そうな本を探そうとしても、自分が本を探すジャンルはある程度限られてしまうけれど、返却本には偶然の出会いの可能性がある。

同じように、まちの本棚に並ぶ本は、必ず誰かがお薦めしているもの。背表紙を眺めていく中で、これ何だろうというタイトルに出会える。ふだん小説ばかり読んでいる人がノンフィクションに出会えたりする。さらに、気になる本を手に取ったら、隣にいた人から「面白かったですよ」とか「それ私が寄贈したんですよ」とかいう話になることもある。

そういう意味で、まちの本棚が石巻にあるということは、小さな希望の灯なのです。

所在地 : 石巻市中央2丁目3-16
TEL : 0225-25-4953 (ISHINOMAKI2.0)
営業時間:11:00-18:00
開館日:土・日・月曜日

まちの本棚

石巻市中央2丁目3-16JR石巻駅から徒歩10分

写真と文●井上良太