タービン建屋東側で進む汚染水の危機
1万トン以上の汚染水が溜まったままで、しかも建屋との配管貫通部を通してタービン建屋地下の高濃度滞留水とも混ざり合っているとされる「トレンチ」。
タービン建屋東側、つまり海の一番近くのエリアの地下に立坑とトンネルで構成されるトレンチ内の汚染水処理が焦点になっている。トレンチに溜まった高濃度の汚染水は、亀裂から地下に流出していることが心配されている。海へ流れ出している可能性も否定できない。だからこそ、早急に汚染水を汲み上げて、コンクリート等で埋める作業が急がれている。
ただ、現状のようにトレンチの汚染水とタービン建屋地下の滞留水が行き来する状態では汲み出しも埋め立てもできない。そのため東京電力は、氷の壁で止水する方針で4月から冷却を進めてきた。しかし、その氷の壁が凍らない。
規制委員会の委員が苛立つわけ
7月7日、原子力規制委員会で開催された第24回特定原子力施設監視・評価検討会では委員から「具体的な対策を示すように」との批判が相次いだという。
それもそのはずだ。凍結止水壁がなかなか凍らないことは、6月半ばから問題になっており、東京電力は6月16日に発表された資料で凍結促進策として次の4項目を挙げていた。
凍結促進対策
①凍結管の追加
②建屋水位変動速度の制御
③グラウト注入
④躯体外側地盤の冷却
ところが半月以上が経過し、凍結管の追加、水位変動の制御やグラウト注入(目詰め)といった対策を行ってもなお、凍結が進まないという現実に対して、東京電力が7月7日に示した対策がこれだ。
今後の対策について
①ケーブルトレイの下に追加パッカーを設置
②グラウト等による、隙間の間詰め
③トレンチ内滞留水の冷却
④建屋水位変動の抑制
まったく新味のない対策だ。凍結管はすでに増設したので、その代わりにパッカー(セメントと粘土を入れた袋)を設置する。躯体内が凍らないのに躯体外側地盤を冷やしても効果がないと考えたのか、代わりにトレンチの中の水を冷やすというアイデアに差し替えた。たったこれだけ。
東京電力の資料と規制委員会の資料を比べると
東京電力の資料では、凍った部分の記載が多く、けっこううまく行っているかのような印象すら与えるが、水を堰き止める壁である以上、穴があっては意味がない。凍らない場所をどうするかこそが問題の本質だ。
その点、原子力規制委員会の指摘は手厳しい。
検討会において、構成メンバーから挙げられた課題は以下のとおり。
▼凍結期間が2ヶ月を超えているにもかかわらず、凍結しない状況をみれば、凍結能力は不足している。
▼入熱・除熱の条件から凍結能力に関する適切な評価が必要。
▼冷却材の送りと戻りの温度差は2℃程度しかないことから、パッカー自体がある種の断熱状態にあり、凍結予定箇所の汚染水からの除熱を十分に行えていない。
▼凍結予定箇所の汚染水の流速は大きいところで毎分1~2mm程度であり、ポンプの運転による更なる流速の抑制は困難。
▼凍結能力を抜本的に強化する対策が必要。
引用元:東京電力福島第一原子力発電所2,3号機海水配管トレンチ建屋接続部止水工事の進捗及び課題について | 原子力規制委員会 平成26年7月9日
東京電力が挙げた対策をほぼ否定。凍結能力の強化を求める内容となっている。
東京電力は10月からトレンチ内の水の移送を始め、来年1月までに残水を処理、トレンチの埋め立てを完了するスケジュールをたてている。この工程が完了しなければ海側の凍土遮水壁には着手できないし、建屋内の滞留水の処理も進まない。
東京電力の日報には、ほとんど新規事項が記されることのないタービン建屋東側エリアで、いまも危機が続いている。
文●井上良太