やはり、という調査データが河北新報に掲載された。海の様子が見える地区と見えない地区で津波の人的被害にどんな違いがあったのか。谷下雅義中央大教授の研究グループの調査結果では、海の見える地区の方が居住者に占める津波犠牲者の割合が低かったという。
宮城県南三陸町と石巻市を対象に、行政区ごとの居住者数と犠牲者数、到達した津波の高さなどを調べ、統計分析を行った。
南三陸町で津波が到達した行政区の犠牲者率は、海の見える35区が約4%だったのに対し、見えない10区は約16%だった。数値は採取したデータの中央値。データのばらつきを考慮しても全体の傾向は変わらない。
また「海に面し」かつ「徒歩5分以内に避難できる高台がない」行政区は犠牲者率が低い傾向を確認した。谷下教授は「一見すると津波防災上は不利な条件が、かえって逃げる意識を高め、結果として人命を守った可能性がある」と話す。
石巻市でも、1次避難場所から海の見える32行政区で犠牲者率が約4%(中央値)だったのに対し、見えない57行政区は約14%(同)だった。一方で、防潮堤の高さと犠牲者率の相関関係は見いだせなかった。
さらに石巻市では、高齢化率の高い行政区ほど犠牲者率が低くなる傾向が判明した。
海のすぐ近くに暮らしていた人よりも、少し離れたところの方が人的被害が大きかったという話は、以前からあった。今回のようにデータとして示された意義は大きい。
4%という数字は25人に1人。16%は6.25人に1人。このような計算はあまりやりたくないが、この差は歴然としている。
「防潮堤の高さと犠牲者率の相関関係は見いだせなかった」「高齢化率の高い行政区ほど犠牲者率が低くなる傾向」という石巻市での調査結果も、本当に大切なことが何のか物語っている。
地震がきたら逃げる、という意識。普段からの心の備えが命を守るということ。そしてそのことを、世代を越えて伝え続けていくということ。さらに、継承するためにはその土地の風土や文化が守られていかなければならないこと――。
防潮堤ありき、まず防潮堤の高さありきの津波防災では、いのちも人のコミュニティも守ることはできない。
文●井上良太
日本都市計画家協会のインタビューで、谷下雅義さんが防潮堤計画について語っています。