[素朴な疑問]どうして原発は日本中にあるんだろう?

先日、石巻の知人と会った時のこと。どんな経緯だったは忘れてしまったが、女川原発の話になった。

「最近じゃ日本中で、再稼働、再稼働だとか言ってっけどさ、女川の工事はまだ2、3年は続くみてぇだな」

石巻在住の企業経営者である彼がそう言うのを聞いて、1年以上も前に女川の原子力資料館に行った時のことをちらっと思い出した。館内にはほかに人影すらなかったが、エントランスの受付の女性に訊いたところ「現在、発電所は稼働はしておりませんが、いまも毎日ほぼ3,000名の方が所内で作業されていると聞いております」と答えてくれたのを思い出したんだ。

原発情報センターでその話を聞いた時には、道理で半島を巡る道路が混雑する訳だというくらいにしか思わなかったけれど、改めて考えてみると3,000人というのは、福島第一で日々作業しているのとほぼ同じだけの人数だ!

なんとか冷温停止にこぎつけたとされる女川原発だが、実はよほどダメージが大きかったのか、あるいは、東京電力の事故原発は毎日のように報道されていが、実のところ線量が高すぎて、肝心要の部分の作業がまだまだできないので、いまのところ作業員の総数が少ないだけなのか。どちらなのかは分からないが、津波によってどちらの原発も、たいへんな状況に陥ってしまったのだということを思い知らされた。

というのはほんの一瞬のこと。なぜなら、石巻の知人はとっても頭の回転が早い人で、話が先へ先へと進む。いつも相手に横道的な思考を許さないテンポで話は前進して行くからだ。(石巻的に言うなら、たとえサイボーグ009でも奥歯の横の「加速装置」のスイッチを入れなければ追いつくことすらできないくらいってな感じ:サイボーグ009の加速装置のスイッチは石ノ森萬画館でご覧頂けます♪)

「でさ、なんで女川なんかに原発があるんだ? 理由知ってっか?」

う~ん、と詰まってしまう間も与えてくれずに彼は自ら答えを明かしてくる。

「そりゃ、東電に電気を送るためだっちゃ。だって東北は電気足りてるんだもの。女川原発造った時からそう。わざわざ原発なんか造る必要ないっちゃ? 工場誘致するとか何だとか言ったってさ、結局いま電気足りてるんだもの。東電に電気を送るために女川原発はできたんだって思うよ」

ええっ! と思いながらも、どこかで「まあ、そうだよなあ」と納得している自分がいる。いやでもまさか! って自分もいる。

「んだってこれ、オレが一人で言ってることじゃないんだぞ。発電所に出入りしてる奴らと話してると、何となくいろいろ分かってくるもんだ。まあ、東京に電気を売るだけじゃなくて、地元にお金を落とすってことも大きのかもしれねけどな」

そんな話はたくさんあるんですかと口を挟むと、

「まあ、女川は隣町だからな」と呟いて、しばし口を閉ざした後、彼はこう切り返してきたのだ。

じゃあ、おめえんとこの電力会社はどうなのさ?

「あんた、九州出身って言ってたよね。九州の電力会社はなんで原発やってるの? やっぱ東電に電気を送るためなんでねえの?」

まさか! と言い返そうと思いながら、気が遠くなるような感じがした。原発が動いてなくても東北で停電が起きないのと同じように、九州でも原発なしで電気はまかなえている。東北と同様に、もともとは田舎で、一部の町で工業化が進んだという点では東北も九州も似たようなものだ。いやいや、原発なしでやっていけているのは日本中どこも同じだろう。じゃあなぜ?

もともと地域独占の電力会社が、みんながみんな右へ倣えで原発造る必要なんてあったのだろうか?

軽水炉、最初の電気は万博会場へ!

最初の原発は日本原子力発電の東海で、次も日本原電の敦賀で、3番目が関西電力の美浜。敦賀と美浜は1970年の万国博覧会に電気を送って日本中から注目されたりしていた。「ただいま敦賀原子力発電所から未来の電気、原子力による電気が送られてきました!」みたいな感じで。

そんな万博の「人類の進歩と調和」の歴史的意義があったもんだから、きっと国策会社の敦賀、関電の美浜、東電の福島第一と来て、

「これは負けちゃおれん! っていう対抗意識で造ったのかなあ」

僕は石巻の知人にそう答えたのだった。いや、まあ、なんとなく、九州人ならそんな発想で原発まで造っちゃうこともあるかな、ってノリで言っちゃったんだけど、自分が言ってしまったこの言葉に、その後ずっとチクチクと突き刺されていくことになる。

いくら負けん気が強い九州人でも、そんな対抗意識だけで危なっかしいものを愛する郷土に造ったとは思えない。なんで? いやホントになんでやろうか?

言うまでもなく、原発は東北電力や九州電力はもちろんのこと、沖縄電力を除く日本中すべての地域電力会社が保有している。地域独占の電力会社だから、それぞれの地域特性に合わせた経営方針とかあってもよさそうなものなのだが、なぜだか原発保有、原発推進という点は日本中の電力会社は足並みを揃える。

うちは原発やめとくよ、という電力会社が沖縄以外にはないのである。

どうして?

地域が違えば需要も違うし、求められる形も違う。なのに、変だと思いませんか?

理由を知っている方がいらっしゃるならぜひ教えて下さい。みなさまの意見をぜひ教えて下さい。

ふと思いついたひとつの理屈。

原子力発電のコストが、石炭火力や水力などに比べてべらぼうに安かったとしたら、原発を進めている電力会社とそうでない電力会社の間で、発電コストが大きく異なることになる。としても、地域独占の企業だから住民が「電気代が安いから/高いから」ということで移動することはそれほどないかもしれないだろう。しかし、電気をたくさん使う企業にとっては、新規に事業所をつくる時に、その地域の電気料金は大きな判断材料になる。電気が高いところに工場建てるより、安いところの方がいいに決まっている。

逆に、いったん事故を起こした際や、核廃棄物処理や将来的な廃炉に伴う費用まで含めて積算すると、原発に掛かる費用は計算不可能なほど大きい。東京電力の原発事故でそのことは白日の下に明かされてしまったが、もちろん電力会社は知っていたことだ。

しかし、原子力発電は国策としてすでに始められてしまった。原発が本当はコスト高なのだとしたら、原発を動かしている電力会社とそうでないところで、電気料金という点で大きなアンバランスを生み出しかねない。

そう思い至ったとき、ようやく石巻の知人との会話の答えをふた月ぶりに見出せたように思えたのだ。

なんで日本中に原発があるの?

5月の判決にあったように、半径250キロという範囲が被災の蓋然性を考えるべき地域なのかどうかは分からない。ただ、福島における東京電力が引き起こした原発事故の広範な被害の現実を考えると、被害想定の範囲が半径100キロ未満になることはありえないだろう。250キロなのか300キロなのか。その半径をコンパスで地図上に描いてみたら、答えはすでに出ていると思うのだが。

こんど石巻で彼に会ったら、もっとしっかり話ができそうな気がする。

九州電力川内原子力発電所

www.kyuden.co.jp

文●井上良太