凍結して止水の予定が、うまく凍らない
事故原発の海側で進められている汚染水の海洋への流出を防ぐ工事のうち、トンネル部分を凍結して止水する工事がうまく進んでいないという。6月16日、そんな緊急度の高いニュースがNHKとIWJ(Independent Web Journal)からニュースとして伝えられた。記事に対応する東京電力からの情報がなかなか見つからかったが、定例記者会見の動画から資料が置かれている場所が判明。(ちょっとやれやれな感じ)
事故原発の海の近くの地下では、いま何が起きているのだろう?
海側でも進められる凍結による止水工事
事故原発タービン建屋の海側には、トレンチと呼ばれる地下トンネルが多数設置されている。海水汲み上げ用などの配管や配線類を納める、立坑とトンネルで構成された地下構造物だが、2号機の海水配管トレンチに5,000トン、3号側トレンチには6,000トンの高濃度汚染水が溜まっているとされる。
トレンチにはタービン建屋への配管類の貫通部分の周辺などから、タービン建屋地下の高濃度滞留水が流れ込んでいると考えられており、海近くにつながるトレンチから海への高濃度汚染水の流出が心配されてきた。
東京電力では、トレンチにコンクリートなどの閉塞材を詰めて汚染水の海洋流出を防ぐ考えで作業を進めてきた。
▼トレンチを閉塞材で埋めるためには、中に溜まった水を抜かなければならない。
▼水を抜くためにはタービン建屋とトレンチの水の連絡を遮断しなければならない。
▼しかし、トレンチ内は配管や配線などの構造物が多いため止水が困難。
▼そこで、凍結させて止水しようと考えた。
原子炉建屋の山側からの地下水の流入を防ぐ目的で工事が始められた凍土止水壁と同様の仕組みで汚染水の流れを抑え込もうという作戦だった。
この作戦がうまく行くかどうかを検証する試験が、昨年末に実施されている。当時の動画では、邪魔になる構造物の多い空間でもしっかり凍土壁が形成されている様子が見て取れる。
凍結しない原因は水の流れ?
昨年11月に行われたモックアップ試験の動画では、凍結管とセメントなどが入ったパッカーという巨大な袋がカチンコチンに凍っていた。
それが実際の現場ではなぜ凍結しないのか。東京電力の資料によると、パッカー(袋)がない部分の温度がとくに高めになっているように見える。
パッカーの中にはセメントや粘土が詰められていて、ほぼ真ん中に凍結管が縦に入れられている。水が流れている状態で凍結させるのは困難なため、パッカーで水流を抑えつつ凍結を促進させる考えのようだ。
パッカーに詰められたセメントは固化する際にかなりの熱を発する物質だ。体積が大きい場合には30℃以上上昇することもあるとされる。うまく凍らせることができないのは、そんなものを使ったからだろうと思ったが、パッカーに囲まれている部分でも、日を追うごとに温度は低下している。逆にパッカーがない部分ではなかなか温度が下がっていない。
東京電力では、凍結が進まない原因として「タービン建屋の水位変動によってトレンチ側との間で生じた水の流れが大きいと考え、16日の時点ではすでにいくつかの対策をとっていた。
ひとつは凍結管の数を増やすこと。そしてもうひとつが、タービン建屋地下からの水の移送を調整し、水の流れを抑えるというもの。
2号機タービン建屋地下の滞留水は、隣の3号機タービン建屋に送られて、バケツリレー方式で3号機から集中廃棄物処理施設(現在は汚染水の処理施設となっている)に送られるのが通例だったが、2号機側からわざわざ遠くの集中廃棄物処理施設に直接送ることで、流量を少なくし水位変動を抑えたという。(この方法から、使用されているポンプは出力が一定のものだと想像される)
東京電力では、水位変動を抑える試みを1週間行った結果を評価した上で、パッカーとタービン建屋の間に充填剤を入れる、トレンチの躯体の外側の地盤にも追加で凍結管を設置する対応を準備していて、この工事の最終目標であるトレンチ内滞留水の除去のスケジュールは動かさないようにしたいとしている。
文●井上良太
6月16日、Jヴィレッジで開催された「廃炉・汚染水対策現地調整会議」の参考資料として、トレンチ内の止水措置における凍結不足と対応策が公開された。