会社でボランティアに参加するということ

朝の急転直下

2月18日。除雪ボランティア参加の稟議書を作ろうと、少し早めに出勤したらF専務から電話。

「雪かきの件ですが、今日これから行こうと思います。御殿場まで入ってそこから先はタクシーで移動しようと考えていますが、行き先など具体的なプランはありますか?」

前夜、会社のトップにお願いの打診はしていたものの、こうも早く話が決まるとは。長靴とかスコップとかの準備は……と思わず聞き返すと、

「それは手配してありますから」

いくらなんでも急すぎる! と思いつつも、もちろん異存などあるはずもない。9時前にオフィスの皆さんに出発の挨拶を済ませると、F専務、大先輩社員のSさんと3人で御殿場に向かって出発した。

現地まで

建材店で角スコップを3本購入。静岡でもスコップは品薄状態のところ、事前に電話で押さえてくれたとのこと。さらに、「昼食を準備しておきましょう」とF専務。ボランティアは食事も行動も自己完結で。これ、基本です。ということでパンやおにぎりなど食料もコンビニで購入。

すでに雪は完全に融けている三島の町なかのコンビニなのに、おにぎりや弁当の棚はスカスカ。店員さんに尋ねると、入荷が少ないとのこと。雪の影響の広がりを痛感する。

国道246で御殿場に向けて緩やかな上り坂を進む。裾野市に入った辺りから路肩に残雪が見え始め、御殿場市との境界を越えると目に見えて雪の量が増加。歩道から沿道の住宅の敷地までこんもりと積み上がった雪が、路肩から車道にはみ出している。

そのうち車が詰まり出す。路肩からの雪のはみ出しで外側車線が埋められて、実質1車線になっているため、合流渋滞が発生しているらしい。

御殿場駅から6~7キロほどの場所で、ついに車の動きが止まった。Uターンして裾野に戻り東名高速で御殿場に入るとの決断。賭けだった。しかし、少しでも早く現地に入りたいとの思いから、ハンドルを握るF専務は渋滞の中のろのろ進むことはできなかったらしい。そして、この賭けは正解だった。

東名高速を下りると、御殿場の町は雪に埋もれていた。歩道に残る雪は腰から肩ほどの高さ。ところどころで除雪作業をしている人たちの姿も、山と積まれた雪に隠れてしまう。「湯沢」という交差点の信号標識をフレームに入れて写真を撮ったら、「ここは新潟」といっても通るだろうというくらい。

歩道の除雪が行われていない場所では歩行者が車道を歩いている。雪で狭まった車道。冬タイヤでもずるっと横滑りしてもおかしくないような車道を。

いますぐここで除雪を、と思うほどだ。そんな思いを呑み込むような気持ちで先へ向かう。人口が多い市街地よりも、もっと大変な場所があるはずと……。

駅前の駐車場に車をデポしてタクシーに。運転手さんに支援場所のあたりを尋ねると、

「どこもかしこもですよ。うちの近所にもお年寄りだけの家があったけど、近所の人たちで雪かきして、どうにか玄関まで通れるようにはしましたけどね」

ネットで調べても情報は限られている。本当に支援が必要なところに限って情報がないのが実情でもある。行く先はタクシーの運転手さんに任せることにした。

須走の町の小さな路地で

運転手さんが運んでくれた場所は小山町の須走だった。ニュースにも取り上げられた場所。たまたまだったが何人か知り合いもいる場所。雪で不通となった幹線道路は自衛隊がきれいに除雪してしてくれていたが、路地や宅地、駐車場などにはまだまだ多くの雪が残っていた。

タクシーを下りてすぐの路地の奥で、除雪作業をしている数人の男性をSさんが見つけて、その場所へ向かう。声を掛けると「助かります!」との言葉が帰ってくる。

これがご縁というものだ。この場所で今日は除雪の手伝いをすることに。

作業内容については、別の記事にも書いたので、こちらもぜひ。

雪かきの作業そのものは、とてもシンプルだ。そこにある雪を取って別の場所に移動する。通りの雪や人が出入りする場所の雪、駐車場の雪、駐車スペースの出入り口の雪をどかす。どかした雪を、とりあえず邪魔にならない場所におんまける(静岡の方言で放り投げる)。

しかし、邪魔にならない場所というのが難しい。車道の雪を歩道に投げたら歩道が通れなくなる。駐車場の雪を道路に投げると道路が通れなくなる。

雪を移動するだけのシンプルな作業なのだが、どこに運ぶか、どんな手段で運ぶかで、実はけっこう難しい。角スコップ1本あればと乗り込んだものの、お手伝いさせてもらった作業場所に軽トラックがなかったら、作業の内容も結果も一変したことだろう。

シンプルな雪かき作業を困難にするもうひとつの要因が雪質だ。2月7日から積もった雪は比較的さらさらの雪だったが、次の週末に降ったのは湿り雪。夜には雨も降ったという。やわらかい雪の上に湿った雪が載って固まっている。さらに、雨や湿り雪の水分が路面との境目で凍結している。

サクッとすくえる雪と、ガリガリの雪。軽い雪とずっしり重たい雪。大きくブロック状に取った雪の重さが場所によって違う。けっこう腕にくる。取った雪をトラックの荷台に投げるのもかなりの重労働。軽かったり重たかったりするのが意外とこたえる。路面の雪を角スコップではぎ取っていくと、途中で時々ガチガチに凍りついた場所にぶつかる。体重をかけたスコップが急停止するのでガクッと腰にくる。

作業を始めて10数分。軽トラック3杯ほど運んだところでみんな汗だくになっていた。

「体力10のうち、どれくらい消耗してます?」

普段から快活なSさんの笑顔のお喋りが和ませてくれる。「もっと若手を連れてくればよかった」なんて話が、愚痴じゃなく、なんだか妙に楽しい会話になっていく。きっと疲労で脳内物質がすでに出てきていたのだろう。思い出して文字にすると大笑いするような話でもないのだが、何か言うだけで、現地の方も会社からの参加者も楽しそうに笑顔で応える。場が和む。

除雪が進むにつれて軽トラックを停める場所も変わっていく。除雪戦略も少しずつ変わって行くわけだ。お蕎麦屋さんの駐車場を片付け、軽トラックを入れやすくしてから、お年寄り夫婦が暮らしているというお宅の車庫前の雪と、お向かいの駐車スペースの雪を左右両方から雪かきして積み込んでいたら、体力10のうちの疲労度で、けっこう大きな数字を言っていたF専務の動きが変わった。左3人、右はF専務1人。別に競っていたわけではないのだが、F専務の側の雪の減りが妙に速い。

「軽自動車が入れる分だけ取ってもらえばいいから」という依頼だったのが、「いや、ここまで取りましょう」と、雪かき予定ラインを広げる発言。広げたラインまで片付いた後には、「やっぱり全部取っちゃいましょう」。会社では、魅惑のバリトンヴォイスで落ち着いた大人の雰囲気を醸しているF専務だが、完全にスイッチが入っていた。

「小学生が歩く通学路なんだから、両側の雪も何とかしましょうよ」と、Sさんもスイッチオン。今朝方除雪機が入って、車1台が通れるほどにはなっていたものの、路地の両側の擁壁には、張り付くように雪が残る。今にも崩れそうだし、そもそも歩行者と車がすれ違うのが大変だ。

予定エリアが広がっていく。予定時間も延長していく。

実働約4時間。予定されていた作業としては、ミッションコンプリート。

雪かき作業を終えて、地元の人たちから笑顔の「ありがとう」をもらって、「雪しかなかった場所だったのにアスファルトが見えてるよ」と、自分たちとしても達成感を味わって。

何気ない駐車場だが、みんなで除雪した場所に、もう車が駐っている! 猫まで歩いている!

しかし、御殿場の駅までお蕎麦屋さんのご主人に車で送って行ってもらいながら、車窓の外に広がる雪だらけの町、路地、地元の人たちが集まって除雪している風景、御殿場の町中の歩道が雪でふさがったままの様子を見て行くうちに、「もっとやらなければ」という感情が大きくなっていく。

1本の路地の雪かきをお手伝いして、それで「よかったね」と思うだけでは終わらない感情。

会社でボランティアに参加するということ

2月20日の朝、F専務がやって来て言った。「明日、また行きましょうか」。落ち着き払ったバリトンヴォイスが頼もしかった。

会社としてのボランティア活動――。企業を構成する人の中に切実な想いが結晶して、それが自然に行動につながっていく。人員のこととか予算や会社全体としての効率性とか考えるときっと難しい問題がたくさんあるのだと思う。しかし、社員の想いから持ち上がっていく活動が、実のある企業の社会的責任(CSR)というものなのではないか。そんな理解に一歩近づくことができたと思う。

雪かきボランティアをさせていただいた須走の地元の方がたにも、一緒に体を動かした人たちにも、行かせてくれた会社にも「ありがとうございます」と言えるから。

文●井上良太