1月16日、宮城県の津波対策ガイドラインが見直しが承認されました。改正ポイントの一つは、自動車による津波避難の一部容認です。
現行のガイドラインは「原則徒歩での避難」となっています。現行のガイドライン以前は「車での避難は原則禁止」となっていましたが、歩行が困難な方や避難場所まで遠い方など、車で避難をせざるえない人もいるために修正された経緯があります。
今回の宮城県の津波対策ガイドライン改正でも、基本的に徒歩で避難するということに変わりはありませんが、自動車での避難を一部容認することが盛り込まれている点が現行とは異なっています。
車での避難については、その必要性と問題点が指摘されています。今回、自動車での津波避難について調べてみました。
車での避難の必要性と問題点
車での避難の必要性と問題点については、下記のように指摘されています。
■車で避難する必要があるケース
・障害者の方など、徒歩による避難が困難な人。
・避難場所が遠い場合。徒歩で逃げていては津波に襲われてしまう場合。
■車で避難する際の問題点
・渋滞の発生や、乗り捨てにより、救急車、消防車などの緊急車両の
通行の妨げになる。
・道路の破損、電柱などの障害物により通行できずに交通障害が発生する。
・徒歩、自転車で避難している人との交通事故が発生する。
車で避難したからこそ助かった事例
東日本大震災でも、障害者やお年寄りの方など歩行が困難な方や、避難場所が遠い方が車で逃げて助かった例がいくつも報告されています。車で避難したからこそ、命が助かった事例をいくつか引用します。
宮城県岩沼市の社会福祉法人ライフケア赤井江は、海の近くの同市下野郷浜で特別養護老人ホーム「赤井江マリンホーム」とデイサービス施設を運営していた。震災発生時に両施設にいたお年寄りは96人。揺れが収まると、約1.5キロ先の仙台空港を目指した。
(中略)
食堂やホールに集まっていた入所者を車いすごと玄関付近に移し、次々と車に乗せた。午後2時55分、第1陣が出発した。
(中略)
職員らは3回往復し、午後3時53分、お年寄り、職員計144人の避難が終わった。6分後、大津波が空港ビルに押し寄せ、1階が水没した。3階に避難した職員らは、不安に駆られながら濁流を見守った。
特別養護老人ホームの事務長は「特養のような施設は車で逃げるしかない。」と述べています。その他にも、助かった事例が報告されています。下記は避難者への聞き取り調査での回答です。
車で逃げる際中、知らない人が5,6人走っていた。その人たちはやられた。車に乗せて逃げなかったことを後悔している。自分たちは車で逃げたから助かった。走っていた人は助からなかった。
直ぐに車で高台へ避難した方は助かったので、(津波でなく亡くなった方も)そうしていれば助かっていた。
車で避難をして亡くなった事例
車を使用して助かった人がいる反面、車で避難が原因で亡くなったと考えられる事例も報告されています。下記は、宮城県東松島市議の菅原さんの話の引用です。
「あの日」は市議会の最終日。自宅に戻り、2人に車で近くの市立野蒜(のびる)小学校へ避難するよう指示すると、市内の避難所を回って安否確認を始めた。行く手を津波に阻まれながら逃げ延びた翌日、野蒜小を津波が襲ったと知った。2人が見つかったのは震災の10日後。同じ安置所に並び、発見場所は「野蒜小付近」と記されていた。
「妻も息子も素直な人だから、言う通りに避難したんだと思う。渋滞に巻き込まれ、たどり着けなかったのか。車で逃げろと言わなければ…」
引用元:【三度目の夏 東日本大震災】(2)車で避難中、津波にのみ込まれた妻子 「議員でなければ…」鬱病克服+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
菅原さんの奥さんと息子さんの場合は、渋滞に巻き込まれたケースです。
渋滞のほか、避難中の車が引き起こした交通事故の事例もいくつもあります。避難中の車は、逃げることに気を取られて、運転に集中できないケースも多く、事故を起こしやすいと言われています。
東日本大震災の当日、徒歩や自転車で逃げた人たちにとって、避難車両は時に、津波と同じように危険な存在だった。
事故は、渋滞のさなかに起きた。地震から約30分後の午後3時15分ごろ。石巻市松並1丁目の市道交差点を自転車で横断中の男性=当時(62)=が、クレーン車にはねられた。冷たい雨が降っていた。国道398号に向かう市道は、車列が2車線を埋め、信号は停電で消えていた。
これらの話以外にも、渋滞や乗り捨てられた車が障害となり、救急や消防活動に影響がでた事例も報告されています。
車で避難をした理由
東日本大震災では、避難された方の57%の人が車を使用したということです。使用理由について、内閣府の調査によると下記ようになっています。
■自動車で避難した理由(複数回答)
・車で避難しないと間に合わないと思ったから: 34%
・安全な場所まで遠くて、車でないと行けないと思ったから: 20%
・家族で避難しようと思ったから: 32%
・家族を探したり、迎えに行こうと思ったから: 16%
・車も財産なので、守ろうとしたから: 7%
・荷物を運べるから: 6%
・車であれば情報が徔られるから: 4%
・渋滞すると思っていなかったから: 3%
・避難をはじめた場所に車で来ていたから: 19%
・平時の移動には車を使っているから: 23%
・その他: 24%
車での避難一部容認について
これまでも指摘されてきたように歩行での避難が困難な方や、避難場所が遠い方は、車で避難をせざるえないと思います。そういう意味で、今回の改正は現実に則したものだと思います。しかし「徒歩での移動が困難な人」の定義はどのようにするのか。また、生活の足として車を欠かせない方が多いことを踏まえて、車で一斉に避難しても渋滞を引き起こさない地域に関しては、車での避難を認めるなど、まだ検討事項も残っているかと思われます。
今回、自動車での避難を一部容認したことをきっかけに、車での避難も想定した防災計画や避難道路の整備がすすむことを期待したいと思います。
Text:sKenji