久之浜にヤナギガレイが帰ってくる
第1回目の試験操業からおよそ2週間。なかなか次の出漁の知らせが入ってこなかったのは、台風の影響だったようだ。(ちょっと安心)
福島民報など複数の地元メディアが伝えた。
いわきで2回目の試験操業 1日市場で競り
いわき市漁協と小名浜機船底曳網漁協は31日、台風の影響で延期していた2回目の試験操業を行った。
今回は対象魚種にヤリイカ、ヤナギムシガレイの2種加え、9魚種にして実施した。操業海域は18日に実施した海域で、水深150メートルから450メートル。14隻が出港し、久之浜、四倉、江名、小名浜の4漁港に水揚げした。漁獲量は合わせて約1・4トンで、検査場がある小名浜魚市場に集められた。放射性物質検査が行われ、結果はいずれも検出限界値未満だった。
前回、1回目の試験操業では放射性物質は検出されなかったため、地元で流通したことも改めて伝えられた。
10月18日の試験操業では、魚介類から放射性物質は検出されず、原発事故後、初めて地元の魚が流通している。
前回は対象魚種に選ばれず、実際の操業ではたくさん網に入ったのに、出荷できなかった「ヤナギムシガレイ」が今回追加されたのは、久之浜の人たちにとってビッグニュースだ。
浜風商店街で魚屋さんをやっている石井良和さんが、「いわきの魚といえばこれ!」とイチオシだったのが地元でヤナギガレイと呼ばれるこの魚。
とくに干物は絶品で、雑味のない上品な味は石井魚店の代表的な商品だった。地元はもとより、全国から注文を集めていたという。
これまでは、他所で仕入れたカレイで干物を作ってきたが、久之浜で魚が獲れるようになれば、地元の魚を地元の魚屋として扱える。
丁寧な仕事が身上の石井さんちのおやじさん、おふくろさんの技が、余すところなく発揮されることになるだろう。ああ、あの美しいヤナギガレイの干物!
福島全体としてはさらに魚種拡大も
福島県漁連、試験操業にアカガレイなど9魚種追加
2013/10/30 20:55
福島県漁連は30日、同県沖の試験操業の対象を9魚種増やし、計27魚種とすることを決めた。県の定期検査で、放射性物質が国の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を大きく下回っているため。対象に加えるのは、アカガレイ、サメガレイ、アカムツなど。
アカガレイは福島県以北、とくに寒い時期によく獲れるカレイで、産卵期は秋から春にかけて。とくに真子がおいしいカレイで、煮付けや塩焼きなど、昔からおかずの魚として親しまれてきた。
サメガレイの名前は皮が鮫に似ていることに由来するらしい。見た目は悪いが脂の乗った上品な白身の魚。東京方面の寿司店などでもたま~に出会える。
アカムツは別名ノドグロ。魚好きにはファンも多い。刺身も煮付けも塩焼きも美味。ノドグロという通り名を持つ魚はほかにも何種類かあって、知名度が高いところではユメカサゴ(アラカブ)もあるが、こちらは魚種拡大の前から試験操業の対象魚に入っていて、市場では高値を付けたという。
いずれもこれから冬にかけてが旬の魚。ある程度の漁獲量が期待できて、かつ最近では高級魚として評価される魚種を試験操業に追加することで、漁業復活に向けて加速したいという思いが見える。「常磐もの」と呼ばれ築地でも評価の高かった魚が、全国の魚好きたちに受け入れられるか。これからが注目だ。
信頼される検査体制をつくってほしい
1回目も2回目も獲れた魚は小名浜魚市場の分析装置で放射能の検査が行われた。福島県漁業協同組合連合会(http://www.jf-net.ne.jp/fsgyoren/)が公開している結果は下の表のとおり。すべて「不検出」だった。
「不検出」の右側に記された「<9.1」などの数字は、測定する際の検出限界を示している。「不検出 <9.1」という表示は、「1㎏あたり9.1ベクレルまで測定できる条件で不検出だった」ということを示している。
100ベクレルという国の基準値に比べると、かなり低いレベルであるのは間違いない。
しかし、この検査はお米の全袋検査のように魚介類を1匹ずつ調べているのではない。水揚げされたものからサンプルを抽出して計ったものだろう。
現時点では、検査の対象となるものを細かく刻んだり、ミンチ状にして、鉛のカバー付きの円筒形の装置で測定する。上のリンクで紹介したsuyasuyaさんが詳しく説明してくれているが、検出限界を低くする(つまり検査の精度を上げる)ためには、資料の下準備プラス検査時間を長くとることが不可欠だからだ。
日本の基準値は十分すぎるほど低いという意見もあるが、原発事故以降、多くの人たちの意識が食品にゼロリスク(冷静に考えれば、あり得ないことだが)を求める方向になびいていることは否定できない。まして、74万ベクレルのアイナメを発見といった、高汚染魚出現のニュースが散発的に伝えられるのだからなおさらだ。バッドニュースが流れるたびに、海の「安全」への疑問符が積み上げられていく。そんな現実がある中で、海の仕事の復活を目指すために必要なのは何なのだろう。
それは信頼以外にないと思う。
参考にしてほしいのが、いわき市北部の農業有志のグループ「安全な米作り研究会」の活動だ。震災の年から自分たちで農地の線量を測定し、土から作物が吸収する放射性物質を低減する工夫を重ね、検出限界未満の米作りを実現してきた。
彼らの活動が消費者から信頼される理由は、いいデータも悪いデータも隠さず公開することと、活動内容を詳細に報告することだ。
米では検出限界未満では、グループには米作りのみならず、野菜や果物を作ったり、イノシシの猟を行ってきた人もいる。シイタケなどのキノコや山菜、柿などの果実、そしてイノシシなどの獣肉は放射線量が高いことが多いと知られる。彼らはその数値を公開するばかりでなく、久之浜の仮設商店街「浜風商店街」で、町の人たちやお客さんたちにも詳しく情報を伝えてくれる。
顔が見える人が語ってくれる裏表のないデータは、信頼の絶大な担保になる。
検査に提案するのも大切かも
田んぼや畑、山のものに比べて、海のナマものが「計りにくい」のも確かだろう。
しかし、こんなニュースを見つけた。
宮城県石巻市の魚市場に導入された検査装置は、魚を粉々にすりつぶすことなく検査が可能で、しかも5ベクレル程度まで計れるという。
さらに今年8月には魚市場の再開同じ研究者によって開発された、ベルトコンベアーに魚を流しながら放射線量を測定できる機器についても伝えられた。
ベルトコンベアーの上を流れていく魚のベクレルを計れるのなら、お米の全袋検査と同じレベルの安心感を与えてくれるかもしれない。ただし、このシステムには残念なポイントがひとつある。それは検出限界が50ベクレルだということだ。
開発した東北大学の先生には、ぜひとも精度を上げる工夫をしていただきたい。
もしも、それが簡単でないとしたら、こんな手もあるのではないか。
それはニュースで報道された2つのシステムを併用するという手。報道ではセシウムの検出限界を5ベクレル程度まで下げることができるという。ミンチにすることなくこの精度で測定できるのはすごいと思う。
そしてベルトコンベアー式も併用する。
港に船が到着したら、網ごと(漁獲した場所)、そして魚種ごとにサンプリング式の検査で詳しく調べる。たとえば、この検査で「不検出 <5.1」といった結果が得られれば、安心度が高まるだろう。ただこの検査だけでは不十分で、たまに出現する高濃度な魚を確実にはじく必要がある。その目的でベルトコンベアー式を使う。いっそ50ベクレル以上は出荷しないくらいの姿勢で臨むべきかもしれない。
常磐ものの魚が復活に向かうことは喜ばしい。
しかし、復活のためには安全に対する信頼が欠かせないと思う。
ただ数字をナーバスな目で眺めるのではなく、「これなら安心できる」という魚を買う側からの提案、意見、物言いがあってもいいのではないだろうか。
安全・安心な常磐ものの復活を祈ります。
●TEXT:井上良太