原発事故で、地域が放射線量により区分され、避難指示が解除された地域では、帰還が始まっています。福島第一原発から20~30Kmの広野町、川内村などは比較的汚染も少なく、除染も進み、避難者の帰還は早いとみられていました。
しかし、帰還者は1割ほどしかいません。除染は、ほぼ終わっています。
当時のニュースで、早く帰りたいという避難者の声が圧倒的だったはずなのに、なぜ帰っていないのか?不思議です。
アンケート調査によると、帰りたいが3割、帰らないが3割、わからないが4割でした。
さまざまな理由があります。放射線が怖いからという若い世代からの声が多いのはもっともです。乳児、幼児のいる家庭は、避難先で新たな生活に入ることが多いといわれます。
現地の学校、幼稚園、保育所など、いち早く再開していますが、通学、通園している子は、わずかです。行政側は幼稚園、保育所を無料にしていますが、効果は薄いようです。
除染が済んで、放射線量が生活に支障がない程度に下がっても、放射線への恐怖感が根強く残っているためで、恐怖感を払拭することが、今後の最大の課題といえます。
それから、店、病院がないから帰れないという切実な理由があります。食料品の買い物に、通院に時間がかかっては非常に不便です。避難先が店、病院に近ければ、そちらのほうが住みやすいのは当然です。
避難先の居心地が良くて、そこに住みたいという人も多いようです。避難先が市街地だと各種店舗、医療、飲食、娯楽施設が多く、快適な利便性から離れられないのは、大都市に人が集まるのと同じです。
行政側もスーパー、医療機関の誘致に躍起になっていますが、誘致は進んでいません。
住民は店、病院がないから帰れないといい、店、病院側は住民がいないから進出できないという堂々巡りで、らちがあきません。行政が設置を補助して、生活基盤をしっかり整備して帰還を加速すべきでしょう。
また、働く会社がないということも重要な問題です。生活費を稼ぐ仕事がないと生活できません。
町村長がいち早く、企業誘致しているところがあります。地元に職場ができて、帰還する人が増えたというニュースがありました。震災で避難した企業が戻りやすくなる政策も必要です。
復興、除染特需で土木、建築、建設業が求人を増やしていますが、末端の下請け企業ばかりで、賃金は安く、定期雇用で身分も不安定です。
復興特区として企業を誘致するために、法人税を10年間免除、敷地も無償貸与するなどの思い切った対策を考えるときだと思います。
それから、近所の人がいないから戻らないという人もいます。特にお年寄りには話し相手がいないと寂しくなります。仮設住宅では狭いながらも、周囲の人とのコミュニケーションが密になり、みんなと居るのが楽しいというお年寄りが多いのです。
万が一、また原発事故があったら困るからと避難生活を続ける人もいます。
東京電力の情報が信じられないから、まだ帰らないという人も少なくないようです。
人が住むためには、家だけでは足りず、生活の基盤となる、店舗、病院、学校、会社、近所が必要だとわかってきました。
そして、放射線への恐怖感が払拭されない限り、住民の帰還は進みません。