被災地に咲く花
福島出張から戻った後に、何度も被災地を訪れている知り合いから取材した久之浜の震災後についての話を聞いた。
久之浜は五重の苦難に直面した町とのことだった。
地震、津波、火災、原発、そして盗難。
自然災害である地震、津波、火災の後に、原発の放射能問題と盗難の被害に見舞われた。
原発30㎞圏の境界付近だった久之浜の方たちは、震災直後に避難した。
しかし、人がいなくなった町には、空き巣が入り盗難が相次いだために、戻ってきた人たちで自警団まで組織したという話だった。
震災直後のニュースを思い出した。
外国メディアの報道で、日本では震災の混乱の中でも盗難がほとんどなかったという内容だった。当時、暗いニュースが続いていた中で、日本人として誇らしく思えた数少ない明るいニュースだった。
泥棒に優劣をつけるのはどうかと思うが、数ある泥棒の中で、火事場泥棒は最も卑劣であり、被害を受けた方に「人への疑心」を強く植え付けるものだろう。
趣味で海外を旅行することがあるのだが、まだ、旅慣れていない頃、国よっては会う人会う人全員に対して、四六時中、疑心を持ちながら旅行をしていた時期があった。その時の精神的な疲れは非常に大きなものだった。
私は単なる旅行中というだけのことだったが、自分の国で、無防備になった我が家のことを、常に気にしなければいけなかった方たちの心労はいかほどのものだったのだろうか。
そのような状況下の中、久之浜で震災で壊れた建物の壁に花の絵を書く人たちが現れた。
私が何も知らずに見ていた被災地の壁に描かれた絵や植えらえた花は、被災した方の「明日への希望、復興への意志」だったのではなかったのだろうかと、今になって感じている。
※「こころのつぶやき」
特定のテーマにとらわれず、主に取材、仕事を通して自分が感じたことを
感じたままに書いていきます。
Text & Photo:sKenji