粟島浦村役場職員 竹内徹真さん
[粟島浦村在住・長野県千曲市出身]
離島などの田舎暮らしを始める人は、「以前から農業に憧れていて」や「この島の海が大好きで」といった熱意を持つ人が多い。強い思いで移住し、行動力を活かして現地で仕事を獲得する。
一方で、ちょっとした偶然や縁が重なって、流れるままに移住を決めるような人もいる。新潟県粟島(あわしま)、粟島浦村役場の職員、竹内徹真さん(27)はそのひとり。単身で長野県から移住し、2年目をむかえている。この粟島を初めて訪れたのは2011年の10月。移住に絶対的なこだわりがあるわけでもなかったそうだが、結果的にはそれからわずか半年後、隣県新潟の粟島へ移住をすることに決めたという。竹内さんのある種の力の抜けかたはとても印象的だった。
移住までわずか半年。その経緯はちょっとした縁から
粟島での暮らしについてお伺いすると、間髪を入れずに「いやぁ、思ったよりも住みやすいですね」と答えた竹内さん。移住をするにあたり、あまり深く考えたり悩んだりもしなかったそうだ。
長野県出身の竹内さんが、初めて粟島を訪れた理由は「友人に勧められたから」。それまで、粟島はおろか離島すらほとんど行ったことがなかったという。そんな竹内さんだったが、訪れた粟島はなんだか良かった。集落を離れるとすぐに自然が広がり、人に会うこともほとんどない。些細なことだが、それが新鮮だったという。
旅行後、竹内さんは偶然にも粟島浦村のホームページにて、役場職員の募集を発見する。小さな自治体の職員募集だったため、珍しいなと思いながら眺めてみた。つい先日旅行したばかりの粟島である。もともと変わった環境で暮らしてみたいという気持ちがあった竹内さんにとって、この募集には縁を感じた。良い機会かも知れないと思い、応募をしてみたという。こうして、竹内さんはそれまで勤めていた長野県内の農業高校を退職。ブランクもなく、スムーズに転職が決まった。
「私の場合は、特に“どうしても!”っていう強い意思があったわけでもなくて」
と、竹内さん自身はあくまで控えめ。旅行からわずか半年間のことである。まさにトントン拍子でことが進んだわけだが、そんな竹内さんの背中を押したのは、ちょっとした縁だったのかも知れない。
居心地が良いと感じたからこそ、「居心地の良さを引き継ぐ」立場に
竹内さんは、産業振興課に所属する。島外企業とのやりとりや、土木・建築・港湾(漁業)といった住民サービスのサポートなど、その仕事は多岐にわたる。1島1村の粟島浦村では、竹内さんに限らず、複数の仕事を掛け持ちしている場合が多いそうだ。
課題も多い。2013年現在、離島としては珍しく、人口の微増を続けている粟島だが、やはり世の中の流れと同様に高齢化が進む。島は観光地として人気が高いぶん、もどかしさもある。特に、ゴールデンウィークや夏場など、訪れる観光客に対し、十分なサービスを提供できるかという課題も抱えている。
「観光需要に対して、島のキャパシティが追い付かなくなる懸念がありますね。引退される民宿も増えてきていますし。人手不足で、お客さんが多くなりすぎないようにする民宿もありますから」
島には高校が無いため、進学と同時に若者が島を離れていく。しかし、その一方で若い世代の“粟島ファン”も多い。特に繁忙期は、若い世代で賑わうのも粟島の特徴だ。
「たとえば、高校から島を離れた人たちも、何人かはいずれ帰ってくると思うんですよ。だからやっぱり、出ていく以前のような居心地の良さが必要というか、私みたいな立場はそれをしっかり引き継いであげられれば、と。今回の島びらきでも(※)、ああして島外の団体がイベントを仕切り、温泉ではライブを開いて盛り上げてくれています。役場としてもドンドン提案してもらえると嬉しいくらいですね」
訪れる人へ向けた快適な環境づくりは急務。観光客にも、移住者にも、Uターン者にも住み心地良い環境が求められる。この島の居心地が良いと感じた竹内さんだからこその考えだ。仕事は山積みだそうだが、それも含めて楽しめているという。
(※)島びらきとは、ゴールデンウィークに行われる、粟島の観光シーズンの
訪れを告げる一大イベント。この日はちょうど島びらきの日だった。
島を駆け抜ける口コミの速さ!地域としてのつながりを感じる日々
気軽に構えていたぶん、島での生活にもコレといった気苦労は無いという竹内さん。周囲の友人からは、一人で離島へ移住したことに対してよく心配されるそうだ。しかし竹内さんは、
「あまり深く考えたことはなかったですね。島のライフスタイルに合わせられれば・・・と、それほど心配していませんでした。別に無人島に行くってわけじゃないですから。田舎と言えど、ネットも使えますし、amazonも届きますし(笑)」
と、意に介さない。住めば都で、粟島ならではの楽しさも徐々に感じ始めた。仕事では島中を行き来することがある。目的は仕事でも、粟島の風景はやはり気持ちが良い。補修作業などでよく行くという八幡鼻の展望台はお気に入りの場所だ。また、粟島に来たことで、休日も変わった。粟島に移住してから釣りを始め、最近はよく出かけるようになったという。「そこまで好きでも無かったんですけどね」と、竹内さんは不思議そうに笑う。
粟島と言えば、名物の鯛をはじめ、小さな魚からブリやマグロと言った大型の回遊魚まで水揚げされるほどの絶好の漁場。内陸県で育った竹内さんにとって、そんな粟島の海も新鮮だったのかも知れない。また、昨夏には海でシュノーケリングなども楽しんだという。穏やかな印象だった竹内さんの声にも力がこもる。今後も、粟島の楽しみかたが開拓されていきそうだ。
時間の経過と共に粟島への愛着も強まってきた。その一方で、離島だからこそのカルチャーショックもある。
「特に人の口コミの速さですね!その日言ったことが次の日には横の集落(つまり、島全体)まで伝わっていることもザラですし(笑)でも、島の若手同士でサッカーやバレーをしたり楽しむ機会も多いですし、なんだかんだで居心地良いですよ」
粟島ならではの、地域としてのつながりの厚さを感じる日々だ。
「“良い選択したな”としか思わないですね」
島で暮らし始めて2年目を迎えた。もともと強い移住の意思があったわけではないのにも関わらず、現在の生活を楽しんでいる様子が十二分に伝わってくる。今後もずっとこの島で暮らすつもりだという。
この日はゴールデンウィークの島びらきの日。粟島をあげての一大イベントが行われている一方、粟島に移住した島民はそれぞれの地元へ帰省する時期でもある。島民にとっては1年でもっとも、忙しい時期かも知れない。そんななか、竹内さんは役場の宿直にも関わらず、今回のお話に応じてくださった。実はこの宿直当番も、「ほかの人が帰省できるなら」と、買って出たそうだ。「自分のやりたいことは、いつでも出来ますから」と、やはり力は抜けている。
最後に改めて、「粟島の生活はどうですか」と聞いてみた。
「あまり深く考えていませんけど、“良い選択したな”としか思わないですね」
竹内さんはそう言って笑った。
粟島浦村役場
役場にて、お話を聞かせていただきました
島を選び、島で働く人たちの経緯や想い、その姿を追いました。
逐次、記事数を増やしていきたいと思います!